第15話
相手が舐めてくれた部分は大いにあった。
重力の力を重ねて降りてきたゼノン。
その大振りの初撃を躱し、肉薄したアシルは彼の土気色の頬をぶん殴る事に成功した。
だが、ゼノンは笑みを浮かべながら僅かに首を傾けただけで衝撃を相殺したようだ。
やはりステータスの差は大きい。
戦慄したアシルが後ろに飛ぶ。その動きを読んでいたようにゼノンが異様に長い腕を振るった。
鋭い
「これで逃げられねえな、もう」
たたらを踏んだアシルは自らの足元にちらりと視線を置く。
深い裂傷が右腿に刻まれていた。
干からびた身体からは血も出ないし、痛覚もないため何も感じない。
しかし、間違いなく機動力は削がれた。
「……逃ゲルツモリハナイ」
それでもアシルはまだ諦めていない。
「なら死ねッ」
床を蹴り飛ばしたゼノンがアシルに一瞬で接近する。
しかし、アシルは回避の挙動を取らなかった。
その奇妙な対応に一瞬ゼノンが訝しげな表情を浮かべるが、そのまま関係ないとばかりに自慢の爪で腹部を貫いた。
「……自殺を選んだか?」
「イイヤ、違ウ。捨テ身デオマエヲ倒スダケダ!」
アシルは逆に腹に刺さった爪を掴んで利用する。
唯一使える<
爪も身体の一部である。ゼノンの肌がしわがれていくが、彼は笑みを浮かべながら、
「雑魚がッ、我慢比べなら、お前より上位の魔物である俺に分があんだよ!」
ゼノンの瞳に凶暴な光が宿る。
「<白炎よ>」
爪を伝って白炎が伸びてきた。
炎の熱気だけで身体中を覆う包帯が焼ける。
くらったらヤバイ事は直感で分かったが、爪は深く突き刺さり簡単には抜けない。
抜くのを手間取った一瞬の間に白き炎は到達し、アシルの身体を炎上させた。
「グゥッ⁉」
「マミーさんっ」
ノルの悲鳴が聞こえる。
「<
「ノルッ!!」
純白の炎に身体を燃やされ続けながらアシルは声を張り上げた。
手出しは無用だと、彼女に示す。
「で、でも――」
「所詮、お前は前座なんだよッ。早く死ねッ!」
爪を掴んでいたアシルの右手が融解した。そのせいで
炎以上に高温の白炎は数秒後にはアシルの命を容易く燃やし尽くしてしまうだろう。
しかしその数秒間で、アシルは思い込んでいた。
(俺は剣。俺の身体は剣。全身が敵を討つ
白い炎の中に、赤い光がぼんやりと浮かび上がる。
本来武器にしか纏えない闘気。
それがアシルの全身を包み込んだ。
「……魔物が操れない闘気を全身に……」
感心と興味の色を含んだノルの声が耳に届く。
希薄になりそうな意識を繋ぎ留めながら、アシルは気合を込めてゼノンを睨む。
本来は剣に闘気を纏わせて放つ斬撃。
だが、自らの肉体を剣だと思い込めば全身を包み込めるのではとアシルが考えた秘策だった。
見事発動したそれで、腹部に突き刺さっていた爪を左の手刀で叩き割る事に成功する。
「何ッ!?」
白炎の供給が止み、一先ず窮地は脱したが既にアシルの身体はボロボロだ。
右手は溶け、全身酷い火傷を負っている。
しかし、ゼノンは驚きで硬直していた。既に勝ちを確信していたからだ。
この虚を逃したらそれは敗北に繋がってしまう。
彼は依然としてほぼ無傷なのだから。
アシルは手刀で割ったゼノンの長い爪の破片を拾い、すかさず闘気を纏わせた。ナイフ程の長さだが、十分だった。
距離を取れば当たらないと思ったのだろう。アシルがいくら闘気を全身に纏おうとも、満足に動けない身体になっている以上遠距離から白炎魔法を放てば勝つのは容易いと。
だが、その選択はアシルにとっても都合が良かった。
アシルは手に持った短剣のような爪で、中位
「<闘風刃>」
大上段からの振り下ろし。
だが、その斬撃は空中を駆けた。
飛ぶ斬撃である。
目を見張ったゼノンは反射的に身体を捻るが、躱しきれずに右腕を斬り飛ばされた。
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