第16話



 絶叫が王城に響いた。


 右腕を斬り飛ばされたゼノンは傷口を逆の手で押さえながら肩で息をする。

 充血した目を見開きながら涎をダラダラと零し始めた。


 大ダメージを与えたが、さすがはアンデッド。

 右腕一本斬り飛ばしたくらいでは死なない。


「ゆ、許さねえッ、雑魚のくせに、雑魚のくせに、雑魚のくせにッ! この俺を……魔王軍の幹部であるこの俺をッ‼」


「……<闘風刃>」


 アシルに言葉を交わす余裕はない。

 追撃のため再び飛ぶ斬撃を繰り出す。


「――お前、それは剣士ソードマン職技能クラス・スキルだろッ! 闘気を操って職技能クラス・スキルを模倣しているのか?」


 ゼノンはかがんで斬撃を避けながら、左の手の中に白炎を生み出す。ただ屍鬼グールになると痛覚は戻るようで、痛みを抱えているためか動きがぎこちない。


「俺の餌のくせに……その力を寄越せ!」


 手を突き出し放たれる炎塊。


 アシルは闘気を全身に纏っている影響か、身体能力が強化されているため高速で放たれた炎の球を最低限度の動きで身体をずらして躱そうとする。


「<白炎よ、弾けろ>」


 しかし、目の前まで迫った炎球が言葉通りに散開し、無数の小さな炎の弾丸となる。

 避けきれず身体に何発か当たり、干からびた皮膚を貫通して穴が空いた。


 それでも倒れない。


 ボロボロの身体ながら、再び爪を短剣に見立てて闘気を纏わせ、


「<闘風刃>、<闘風刃>、<闘風刃>……!」


 お返しとばかりに、身体が崩れていくのを構わずに何度もアシルは飛ぶ斬撃を放つ。

 ゼノンは金のばさら髪を振り乱して逃げ回った。


 王城の壁にかけられたタペストリーが刻まれ、風切り音とともに壁に傷がついていく。


「何なんだよッ、包帯死人マミー・コープス屍人ゾンビの進化先の一つに過ぎねえ低位アンデッドだろうがッ、何で俺と張り合えるッ⁉

 

「……アノ時戦エナカッタ分……今死力ヲ尽クセル事ニ……喜ビを感ジテイルンダッ」


 斬撃がゼノンの左足を深く斬り裂いた。

 血しぶきが床を濡らす。逃げ回っていたゼノンは転び、表情が歪む。


 彼の視界にはもう朽ち果てる寸前に見えるアンデッドが立っている。


 身体を覆っていた包帯は燃え尽き、右腕は溶けて原型がなくなっている。


 更に腹には刺し傷とそこかしこに空いている穴。

 肌は焼けただれ、所々骨が見えている。


 いくらアンデッドでも普通なら死んでいるダメージだ。

 しかし、そこで杖を片手に観戦している銀髪の幼女の姿が目に入る。


「……そうか! 死霊術師ッ、お前‼︎」


 ゼノンは思い出した。

 死霊術師ネクロマンサーはアンデッドを一時的に不死身にできる職技能クラス・スキルを持っていたことを。


 それを使って人知れず援護していたのだろう。


 だが分かってもどうすることもできない。


 既にアシルは闘気を纏い、ゼノン目掛けて走り寄ってきた。

 身体は傷つこうとも、闘志は一切揺るがない。


 ゼノンも憎々しげに牙を剝き出しにして、長い左腕を振りかぶる。


「<闘風刃>……!」


「<白炎よ>ッ!」


 放射状に放たれた白き炎を赤の斬撃が斬り裂いた。


 そのままアシルは近づき、最後の力を振り絞って職技能クラス・スキルを発動した。


「――<闘気斬>」


 交差する屍鬼グール包帯死人マミー・コープス

 爪を振り下ろした体勢のまま屍鬼グールは振り返って呆然とした表情を浮かべた。


「……俺の……餌の、分際で……」


 脇腹から勢いよく血が噴き出した。


 



 


 


 

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