第14話
自らを魔王軍最高幹部だと名乗った銀髪ツインテールの可愛らしい幼女。
傍目から見ると魔法使いごっこをしている子供にしか見えない存在がエルシュタイン王国にとって絶対的な討伐対象であるという事実に混乱しそうになる。
衝撃が抜けずにいるアシルを他所に、ノルは彼の手を引いて、
「……すごい? ノルすごい?」
「……ソ、ソウダナ」
瞬きしながらとりあえず頷くアシル。返答に対して、満足げに鼻息から息を吐くノル。
正直なところ複雑な胸中だったが、アンデッドになっているからか冷静さを取り戻すのは早い。
今はノルの立場は忘れて目的を優先する。
(城に行きたいのは俺も同じだ。サフィア姫救出の目処を立てるためにも……)
警備の状態やルートを探るうえで下見は必要だ。
というわけでアシルは魔王軍最高幹部である幼女と共に尖塔が天に向かっていくつも伸びた白亜の巨城へ向かう事にした。
今は黒い靄に覆われ、かつての華やかさは失われている。近付くにつれて、アシルはどうしても忌々しい記憶を思い出してしまう。
あの日、ゼノンに殺され姫を連れ出せなかった。
国王を筆頭として、同僚である師兵団の仲間たちや使用人、文官たちがその身を犠牲にしてアシルに王国の未来を託した。
その期待に応えられなかった思いは罪悪感となって心の中の大部分を占めている。
「……マミーさん。考え事?」
「……イヤ、ナンデモナイ」
城門にかけられっぱなしの跳ね橋は所々崩れているため、自重の影響で
案の定、城の周囲を舞うように飛んでいる蝙蝠がやってきて、
『……
年若い青年の声で喋った。
「……んー、しょうがない。ここで待ってて、シャーロット」
『……』
どことなく寂しそうにこちらを見送る骨の地竜を他所に、アシルは身体をよじ登ってきたノルを肩車しながら石造りの門をくぐった。
すると視界が一気に開け、目の前に荒れ果てた庭が現れた。
王妃とサフィア姫の趣味であった花壇は踏み荒らされ、池は干上がり、庭の中央にあった噴水は崩壊している。
目を伏せながら拳を握りしめるアシルの頭をぽんぽんと叩くノル。
彼女の視線の先を辿ると、王城前には物凄い数の
全身武装しており、魔王軍の正規兵といった様子である。
「……マミーさん、ノル偉い人。本当だったでしょ?」
アシルの頭の上で再びどや顔を披露する幼女に内心苦笑する。
「……ソウダナ」
能力値の観点から別に信じていなかったわけではないが、証拠を得た事で一層調子づいているらしい。
えっへんと胸を張るノルが落ちないように彼女の足をそっと支える。
もう慣れたものだ。
警備兵と思われる骸骨兵は決して襲ってくる事はなく、それどころか道を開けて普通に城内へと通してくれる。
王城エルシュタッド。
血が染みついた深紅の絨毯にアシルは足を置いた。
「……おいおい、嘘だろ」
だが途端に聞き覚えのある声がエントランスに響いた。
見上げると、大階段から降りてきた
「新しくやってくる屍霊四将ってのはまさかと思うが……こんなガキだったのか?」
「……む?」
その言いようにノルがぷくりと頬を膨らませてゼノンを睨む。
「……こう見えて俺は元人間だから話が合うかと思ったんだ。しかしこんなガキだったとはな。そして、なんでまた俺の餌を連れてやがるんだ?」
アシルの事を言っているのだろう。
「……マミーさんはノルの友達になった。そもそも、お前は誰?」
「俺の名はゼノン。この王都陥落の立役者。その功によって新しく魔王軍幹部となった」
「……知らない」
「これから知ればいい。魔王軍は実力至上主義なんだ。お前の骸に、俺の力を刻み込んでやる」
ゼノンは口を釣り上げて笑う。
(……こいつ、ノルを殺すつもりなのか)
目の前の
両腕の爪を見せながら、ゼノンはアシルに命令を下した。
「……
避けられない戦いの気配を察して、ノルがアシルの身体からするりと降りた。
「……面倒。シャーロットを呼び寄せるか」
しかしアシルは彼女の手を掴んで、代わりに自分が前に出る。
「……マミーさん?」
「……ノル。俺ニ任セテクレナイカ?」
この状況に、アシルは思わず笑いが漏れそうになった。
まるでかつて起こった再現のようだ。
守る者を前に、何もできなかった生前の自分。
そのトラウマと決別する機会を運命の神がくれた、そう思わずにはいられない。
普通に戦ったら負けるだろう。
だが、可能性はゼロではない。
今度こそ、死力を尽くして戦おう。
名前 アシル
種族:
Lv16(320/2700)
Lv12(147/4800)
体力:D
攻撃:D
守備:D
敏捷:D
魔力:E
魔攻:F
魔防:F
<
・
<
・
<
・闘気斬
・闘風刃
進化解放条件:レベル30
上位
名前 ゼノン・レイフォース
種族:
Lv34
体力:C
攻撃:C
守備:C
敏捷:D
魔力:B
魔攻:D
魔防:D
<
・喰吸収
・白炎魔法
<
・尖爪
・毒爪
自らの
このままノルに任せれば、
しかしゼノンだって勝ち目があると思ったから挑んでいるはずだ。
あの白炎魔法は普通の炎以上の火力を誇る。
アンデッドは炎が弱点だ。
万が一、ゼノンが
そうなったら手が付けられない怪物になるはずだ。
(……いや、そんな理屈はどうでもいい。ただ、俺が戦いたいだけだ)
あの時の雪辱を晴らしたいだけだ。
ステータスは下、更に
それでももう二度と負けるわけにはいかない。
此奴だけには。
「――なんだぁ、お前。進化したとは言え、低位アンデッド如きが俺に歯向かうのか?」
「……ノルハ後ロニ下ガッテクレ」
「……マミーさん……」
キラキラとヒーローを見るように瞳を輝かせるノルの前に出て、庇うように立つ。
「……サッサトヤロウ」
「……ふん。良い度胸だ。お前を喰うのはもう一段階進化して、食べやすくなった後と考えていたんだが、まあいい」
(後回しにしてくれた事で、自分の寿命が早まった事に気付かせてやる)
戦いの合図はなかった。
大階段から飛び降りてきたゼノンの長い爪を使った斬撃を躱し、アシルは
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます