第10話
必要な情報を伝達し、そしてやるべき事を命令して。
幹部会議は閉幕した。
生きとし生ける者、全てを憎むアンデッド。だが幹部たちは全員が百年以上生きている。
自我も強まり、冷静に物事を考える事ができる一方で、様々な欲もまた持ち合わせている。
各々戦いが迫っている事を伝えたからか、準備の為に足早に玉座の間を出て行った。
しかし階下に降りる前に、珍しく
「……少し良いか、元人間。貴様に耳寄りの情報を教えてやろうと思ってな」
「あ? お前は信用ならねえんだ。失せろ」
先ほどのやり取りもあって冷たくあしらうが、ザガンは余裕の笑みを浮かべて、
「……エルハイド様が言っていた新たにやってくる屍霊四将の話だ。人族なのに魔王軍最高幹部の地位についている意味を知りたくないか?」
「……」
それは確かにゼノンも知りたい情報だった。
王都陥落という功は間違いなくゼノンの協力なしにはできなかった。
多大な働きをして魔王軍入りを認められた。
しかし、それだけでは信用に値しないと告げられ、魔王軍に入る前提条件として下された魔物化を了承した。
自分は駄目で、何故そいつは人族のまま入団できたのか。
「……場所を変えるぞ」
ゼノンの表情の変化を見逃さなかったザガンがついてこいとばかりに身を翻した。
主を殺されたからか、人一倍人族に敵対意識を持つザガン。
それが嬉々として元人族であるゼノンに話を持ち掛けている時点で裏があると思ったが、情報は必要だった。
「……」
無言で後を追い、他の幹部やエルハイドの眼が届かない王城内の通路に身を置く。
ゼノンは壁に寄りかかりながら背を向けているザガンに尋ねる。
「……魔王軍に人族がいるなんて聞いた事もなかった。早く教えろ。人族が何故屍霊四将という魔王軍大幹部の地位についているのか」
ザガンが振り返って面白くなさそうに口をへの字に曲げた。
「決まっているだろう。人族のままの方が利用価値が高いからだ」
「……どういう事だ」
「魔物になるという事は
「あの女……?」
人族とは言え、大幹部を指す言葉ではない。
「……どんな職能なんだ?」
「
「……女の……
「人族の中では生きられない、忌み嫌われる存在の彼らは進んで魔王様に仕えてきたわけだ」
「……俺は聖騎士時代、遠方の任務で
「問題はそこだ、元人間」
ザガンは酷薄な光を瞳に浮かべる。
「はっきり言ってあの女は弱い。使役するアンデッドがいなければただの雑魚なんだ。魔力量と
つまりそれは、従来の死霊術師と同じという事だ。
それが本当かどうかは分からない。だが、ゼノンは経験上、強い
「……何が言いたいんだ」
「手を組もうじゃないか」
「……何?」
「魔王軍は実力主義だ。屍霊四将の地位に就くあの女を殺した者が次の屍霊四将に数えられる。代替わりはいつだって突然起こるものだ」
「……協力者としてのお前を信じろってのか?」
「話に乗るかどうかは貴様次第だ。
「……黙れッ。エルハイド様はその人族の
「それはない。遠方の情報収集は現状、私が全て一人で行っている。消される事はないし、魔王軍は実力主義だ。クーデター等日常茶飯事なのだから、負けたらそれまでの話というだけだ。エルハイド様に咎められる事はない」
即答するザガンに焦りは見られない。
「……地位に相応しくない者は排除するに限る。どうだ、この話に乗るか?」
「……」
初めて伸ばされた青白い吸血鬼の手。ゼノンはしばらく眺めながら考える。
弟である勇者フレンはエルシュタイン王国最高戦力である【王国四英傑】のリーダー。
対して自分は平の聖騎士から魔王軍の幹部になっただけだ。
もし、もし上手く行けば魔王軍の大幹部となれる。
四体しかいない、魔王軍最高幹部に。
「――裏切ったらお前から殺すぞ」
ゼノンは青白い手に自らの土気色の手を重ねた。
「……それでいい。交渉成立だ。人族が魔王軍の中ででかい顔をするのは耐えられんからな。これは私にとっても貴様にとっても利がある話なのだ」
ザガンは頷きながら見たこともない爽やかな笑みを浮かべた。
――――――――――――――――――――――――――
あとがき。
この第10話ですが少々内容を変更いたしました。
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