第11話



 会議に出席するために城へ向かったゼノン。


 アシルにとっては少しでもあの屍鬼に追いつくチャンスである。

 そのまま共同墓地を出て、ミイラ男は次なる狩場へ移る。


(自らの力がどれほど向上したのか確かめる為にも、中央に少し近づいてみるのも手だ)


 歩きながら隙間なく包帯に巻かれた己の身体を見下ろす。

 下位アンデッドである骨人スケルトン屍人ゾンビからはもはや大した力は得られなくなっている。


 城に近付けば近付く程、上位のアンデッドの姿がちらつく。

 遠目に城の近くに建てられた王国師兵団の武骨な石造りの詰所が見えた。


 その前では鋭い角のような突起を頭や肩から生やした竜牙兵スパルトイ二体が歩いていた。


(まだここからでは遠すぎて解析が使えない)


 使ってみて、無理そうなら別の場所へ行き、勝てそうだったら仕掛けよう。

 ゼノン公認でアンデッド狩りを許可されているのだ。


 こうなったら後々、兵士の数が少なくて魔王軍が困るくらい狩りつくす気持ちでいく。


 そう考えたアシルが現場へ向かう途中、付近から悲鳴が耳に届いた。


「たーすーけーてー」


 棒読みの悲鳴。


 何とも気が抜けるが、その幼い女の子のような声音にアシルは条件反射のように駆け出した。


 勿論、アンデッドだらけのこの街で人が生き残っているとは思えない。だが、一縷の可能性があるなら無視できない。


(……あれは……?)


 路地を走り抜け、悲鳴が聞こえた場所に辿り着くとそこには冗談のような光景が広がっていた。


 銀髪をツインテールにした、眠そうな瞳が特徴の幼女がいた。


 サイズの合っていないブカブカのローブを着ており、手には身長以上に大きな杖を持っている。

 いや、持っているというかほぼ抱いているに近い。


 杖を抱きながら、彼女は三体の闇骸人ハイ・スケルトンに追い掛け回されていた。


 漆黒の骸骨たちの動きは骨人スケルトンとは訳が違う。まるで人間のように流麗なものだ。


 響く足音を見れば、周りにいたアンデッドもまるで彼女に引き寄せられるように集まってきている。

 

 アンデッドは生ある者に襲い掛かる習性を持っている。


 つまり目の前にいる謎の幼女は生きているのだ。

 アシルは咄嗟に彼女と闇骸人ハイ・スケルトンの間に割って入った。


「……むむ?」


 こてんと首を横に倒した幼女に構わず、アシルは拳闘の構えを取る。

 師兵団で培ったのは剣術だけではない。


 犯罪者を捕縛するために多少、武術も齧っている。特に同期のロイは剣よりも拳に長けていたため、何度か教えてもらった。


 敵意を向けても、闇骸人ハイ・スケルトンはアシルに目もくれない。

 骸骨たちは一心不乱に幼女に異形の手を伸ばしてくる。


 アシルは回し蹴りで二体を吹き飛ばした後、残りの一体が伸ばしてきた手を取って魔物技能モンスター・スキルである<生気吸収ライフ・エナジー>を発動した。


 使うのは初めてだが、触れれば発動できると感覚で分かる。


 その瞬間、手を当てている骸骨の肩から骨片がぽろぽろと崩れ落ちていく。

 反対にアシルの包帯に覆われている干からびた肌に、僅かだが生気が宿る。


(……相手の体力を吸収する技だな)


 ステータスを覗くまでもなく何とか勝てそうだ。

 そのままアシルは<生気吸収ライフ・エナジー>を発動し続け、肘に下から掌底を当てて脆くなった腕を捥ぎ取った。


 バランスが取れなくなって倒れこんだ闇骸人ハイ・スケルトンの頭上に、アシルはもぎ取った上腕骨を剣代わりにして赤い光を纏わせる。


 その瞬間、背後で庇っている幼女の瞳により濃厚な興味の色が浮かんだ事をアシルは知らない。


「<闘気斬>」


 そのまま上腕骨で頭蓋骨をかち割り、更に鎖骨を割り胸骨をバラバラに粉砕して。

 アシルは闇骸人ハイ・スケルトンの眼窩にある赤い光が明滅しながら消えた事を確認した。


 手の中の獲物、黒い上腕骨も衝撃に耐えきれず砕け散った。


 倒せたのはまだ一体だ。

 吹き飛ばした残りの二体が起き上がり、眼窩に浮かぶ赤い光を一層輝かせて襲ってきた。


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