第3話「狼と王女様のスローライフ」

何十年も前に貴族が別荘として建てた洋館。

今では不便な場所だと所有が放棄され、手つかずの状態となっていた。


そこをリアムが見つけ、居住地としている。

旧式の暖炉や水回りではあったが、慣れればまったく問題なく使用が出来る。


王城暮らしのルーナには不慣れなことも多かったが、順応性は高く知識を駆使して生活スタイルを確立した。


とはいっても、リアムはなんだかんだで世話焼きな面があり、なんでも試そうと突っ込んでいくルーナの暴走を止める。


狼の嫁となると胸を張りやってきたはいいものの、根っこはお姫様であり料理を作ることも出来ない。

これでは危なっかしいと、リアムが何から何まで尽くすようになっていた。


「旦那様。これは食べられますか?」


ルーナの問いかけにリアムが頷く。

ぱぁっと表情を明るくし、ルーナは喜びにほんのり頬を染める。


寒冷期が訪れる前に食料は確保する必要がある。

野菜やきのこ類を加工し、保存食にしていく。

狼なのに、リアムは調理加工と簡単にこなしていった。


負けじとルーナはリアムに教わりながらではあるが、肉の処理など冬支度として積極的に取り組んだ。


「今日は旦那様が用意してくださりましたうさぎのお肉を使いましょう!」


リアムはよく狩りのため、森を駆けることがある。

長生きしているだけあり、狼としても人間としても、両方の生活能力を兼ね備えていた。


「まさかお前……」

「はいっ! 今晩は私が作ります!」


両手をぐっと握りしめ、気合を入れる。


「アイスノ王国の名物、ラビットシチューを召し上がれ」


にっこりと楽しそうに笑うルーナにリアムは身を震わせる。

ぶるぶると首を横に振り、足早に前へと出てしまった。


アクティブでだいたいは器用にこなすルーナ。

だが料理だけは放っておくと何をしでかすかわからないため、リアムは今晩が恐ろしいと唸っていた。


「キャッ!?」


清廉された王城で生まれ育ったため、まだまだルーナは足元に無頓着だった。

木の根につまづき、転倒しそうになり身を固くする。


だがリアムが身を挺してルーナの身体をささえ、事なきを得る。


「ありがとうございます、旦那様」

「……」


森での生活に慣れるため、リアムはルーナに付きっきりであった。

歩きなれない土壌で横に付き、歩調を合わせてくれる。


鼻をスンと鳴らし、何度も安全確認をする姿は狼らしさのないやさしさに満ちていた。


尻尾が揺れる後ろ姿を見て、ルーナはほんの少し切ない気持ちになる。


リアムはやさしく、献身的で、たくましさもある。

人間を模した姿は涼やかに美しく、狼の姿は凛としてカッコいい。


だがリアムはルーナに必要以上に近寄らない。

艶やかな毛並みを見て手を伸ばすと素早く避けられてしまう。


(私って、そんなに魅力がないかしら……)


これではただの同居人であり、嫁とは言えない。

本質は狼なのだから人間には興味がないのかもしれない。


ルーナにとってリアムは特別な存在だ。

婚姻を結んで共に生きていく覚悟をもってきたが、考えが甘かった。


(好奇心ではおさえられなくなった。だって、この気持ちは……)


狼だろうが、人であろうが、どちらでも良いこと。


いや、両方の種族を持ち合わせているから気持ちは動いたかもしれない。


最初は愛護の気持ちだったかもしれないが、今は違う。


目いっぱいに触れていたいし、話をしていたい。

壁を感じて寂しいという気持ちに襲われる。


胸やお腹がゾワゾワするような感覚。

匂いや、触れると過敏に反応してしまい、疼くような歓びが体中を駆け巡る。


狼でも、人間でも、どちらの姿でもいい。

ルーナはリアムを意識し、欲していた。

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