第10話 微睡む心

バスン!

 また無気力な一日が終わって下校していると、聞き覚えのある音が聞こえた。

 弓道場から聞こえる気持ちの良い音が、私を誘う。

 この音は…的石さんかな。………久し振りにお邪魔しようかな?


バスン!

 私が入ったタイミングで的に矢が刺さる。あんなスレンダーな身体であんな重いのよく持てるなと思う。深呼吸をしながら次の動作に入り、矢をつがえる的石さんが私には前より一層輝いて見える。

「フゥー………あ、入戸さん。」

 的石さんが私に気付いて笑顔でこちらに歩いてきた。

「あ……途中だけど大丈夫?」

「いいのいいの!今自主練だし!さ、上って上がって!歓迎しちゃうよぉー!」

 的石さんが手招きする。

「そういえば、前に言い忘れてたけど…私がこの道場に入って問題ないの?」

 私は靴を脱ぎながら聞く。

「あぁ………バレなきゃ?」

「え!?」

「「………ふふ、アハハハ!!」」

 なんてことない、話で一緒に笑えた。

 …久し振りに笑ったなぁ。

 ひとしきり笑った後、的石さんは弓を引き、私はその斜め後ろに正座で座る。これがなんとなく定位置になっている気がする。



「入戸さん。」

 スムーズな流れで矢の準備をしながら話しかけてきた。

「なに?」

「最近何かあった?元気無いけど……?」

「え?………なんで分かったの?」

 私はいつも机に突っ伏してるし、ほとんど話さないからバレないと思ってたのにな。的石さんはクラスの人気者だから、色んな人と話してるしいつ私のことを見てたんだろ?

「んー?女の勘?」

 口に人差し指を当ててウィンクする。

「はえーすごー。」

 抑えろ、レイ!こんなところで鼻血は出せぬ!

「フフ、入戸さんも女の子でしょ?」

「確かに。」

 こりゃ一本取られちゃったな。

 あー可愛よ。


「それで?」

「う…」

 話題をそらすことは失敗………

「抽象的でも話してみたら?

キリキリキリ…………ヒュン!…バスン!

 フゥー……気が楽になるかもよ?」

 そう言って、的石さんが弓を置いて矢を取りに行った。

 まぁ、一理あるよね………でも魔法少女のことは話せないからなぁ……





 矢の先端を濡れた雑巾で拭き取り、道場に戻ってきた。

「話す気にはなった?」

 矢をバサッと置いて、的石さんは笑顔で私の隣に座ってきた。

「……ごめん。あまり人に言うことじゃなくて………でも、ありがとう。またいつか、話を聞いてもらうね。」

「………うん、分かった。」

 何も聞かず、的石さんはまた弓を引き始めた。

 その対応が、私にはとても心地好かった。こういうのが人に好かれる所以なんだろうなぁ。

 結局、魔法少女に触れないように説明しようと考えたけど、どっちにしろ重くなっちゃうからね。流石にそんな話、もっと仲良くなってからじゃないと出来ないよ。




 下校する生徒の声が何処か遠くに聞こえる感覚。それほど、この道場と的石さんに安心感を覚える。これが………………癒し!












「もしもし?」

『あ、もしもしレイちゃん?どったのー?』

 今日、的石さんに癒された私は家でノイさんに電話をかけた。的石さんとの会話と道場の落ち着く感じで、大分心の整理が出来た。

「魔法少女レイ、いつでもいけます!」

『…………本当?』

「っ!?」

 今までで一番の威圧感を感じる声だった。

『無理して戦場に行っても迷惑だよ?』

「……分かっています。私はまだまだ経験の浅い子どもだって。……でも、だからって力があるのに、なにもしないのは違うと思うんです。

 だから、私に戦う機会をください。私がこれからも、魔法少女であり続ける為に!」

『…………』

 これが私の今の素直な気持ち……届いて!

「お願いです!どうか……!」

『…分かった。』

「っ!本当ですか!?」

『うん、ただし危険だと思ったら即座に退却してもらうから。そのつもりで、ね?』

 いつものノイさんの調子に戻り、私を諭すように話してくれた。

「ありがとうございます!それでは、失礼します!」

『うん、期待してるよ。』

ピッ。


「ハァー、緊張したぁー。」

 私はベットに寝転がる。

「………頑張ろう。」

 私はネックレスを握って、決意を固めた。

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