第9話 託された命
ーサエカー
ピリリ…ピリリ…
「はい。」
スピーカーモードにして返事をする。
『やぁやぁ、三人とも。動きがあったよ。』
「っ!」
クズネの顔が少し強張る。
「了解です。こちら三名とも準備は出来ています。」
『ん、今から情報を送るね。
良い知らせを待ってるよ。』
そう言って、ノイさんは通話を切った。
「大丈夫?クズネ。」
「…うん、行こう!」
サキの心配する言葉にしっかりと頷く。
私達は情報を確認しながら現場へと向かった。
「あの人……?」
サキが指を指す。
「そう…だね。あの人で間違いないよ。」
人払いは済んでいるし、確定ね。
「結構美人さんだぁ。」
「呑気なこと言わないの。」
その時、怪人と目が合った。正確にはその深紅の瞳は主にクズネを見ていた。
「スゥゥゥ…」
「警戒!」
「あぁぁぁぁぁぁ!!!」
波打つような音の波動が私達を襲う。防御のために使用したサキの水もクズネの火も私の氷も、なんの意味もないと言わんばかりに破壊し、私達の身体に直撃した。
「っ!」
「痛!」
「やっぱり、強い!」
痛みに慣れたところで指示を出す。
「二人とも、作戦通りに!」
「いいよー!スプラッシュサーフィン!」
まずはサキの水を操る力で一気に怪人に近付く。
それにより、最初は狭かった音波による攻撃が全体的に広がっていく。その攻撃は見るからに威力が下がっていた。
「アイスフロア!」
私の言葉と共に辺り一帯の地面が凍る。
「あぁぁ!?!?」
「おぉ!速い速ーい!」
足を取られて驚く怪人と移動速度が上がったことに感動しているサキ。
「今よ!」
「あいあいさー!走り火!」
高速で動く火の玉を三つ出現させ、怪人に向けて放つ。前回の火を見た件で、威力の弱い走り火を警戒している所を囮にして一気に叩く作戦。
うまくいくと良いけど。
「………っス…ああああああぁ!!!!」
走り火を見た怪人は、短く息を吸うと、目が完全に見開き、走り火がある前方に向かって今までで最大の音量を出してきた。声を出した後も目を見開いたままで、身の危険を感じた。
フラグだったっぽいわね。
「アイシクル!」
怪人の頭上に数十本の氷柱を出す。
「…っあぁぁぁぁぁぁ!!!」
さっきよりも攻撃までの速度が速くなってるわね。
私の出した氷柱達は、音の衝撃に破壊されると、その音波が横に広がり、広範囲に小規模な落雷のようなものが発生した。
「うわ!」
「あぶ!」
「………なんとか、凌いだわね。」
深紅の瞳がさらに燃えるような色になり、威圧感が増す。
「っあああああぁぁぁぁぁぁ!!!」
電撃を纏った音波がトンネル状になって私達を覆う。
「二人とも私の後ろに!」
サキの言葉に直ぐ様従う。
「純水!」
三人を覆う水の壁は圧こそ感じたものの、電気を通すことはなかった。
「すご……」
「もっと良い名前あったんじゃない?」
「ごめん、急いでたから………」
私の言葉に予想以上にへこむサキ。
「気にしないで、助かったわ。」
サキの機転で命拾いしたわね。だからそんなにリアクションされると困ってしまうわ。
……ここからどうしましょうか………
「さっきの純水で無傷で近付けないかな!」
怪人の音波を避けながら話す。
「分かんない!でも、ずっとは無理!」
………ここは。
「サキ!後で治療費出すから、クズネだけでも連れてって!」
「えぇ!?」
「よし!行くよ!」
「えぇぇぇぇ!?!?」
私はサポートしましょうか。
怪人の音波を少しでも弱めるように氷を放つ。すぐに割れる氷でも、何度も阻めば効果はあるはず!
クズネを先導するサキは能力を何度も何度も使用しながら怪人に近付く。それを見て音波を狭めた怪人の背後をバレないように狙う。
やっぱりあの怪人、戦闘に慣れてないし一般の人ね。早く元に戻してあげないと。
「クズネ!頼んだよ!」
「あいよ、サキ!
少し眠ってね!シャイニングバーン!」
クズネが跳躍し、ネックレスのボタンを押し込んで右手に炎を集中させる。
「…覚悟して。氷乱・極雪」
それに隠れて私も追撃を放つ。
クズネは目映い光の灼熱を、私は触れるだけで凍てつく雪を。怪人の前後からぶつける。
「あ…あぁ……あぁぁぁぁぁ!!!!!」
怪人は上空に大量の音波を放つ。
失敗かと身構えたけど、その後にさっきまで感じていた緊張感がなくなっていることに気付いた。
「戻…せた?」
「……かも?」
サキとクズネが顔を見合わせる。
私も安堵の感情が浮かんだ刹那。違和感に気付いた。本来の怪人であれば、黒いスーツのようなものをベースにした異形の姿。倒すと黒いスーツ部分とその人にとって、とても愛着のある所有物がチリになって消えてしまう。
じゃあ怪人態が生身だった場合は………
「「「っ!!!」」」
そう思っていると、怪人だった女性の全身がチリになっているのが見えてしまった。
「え?…待って!待って!どういうこと!?」
「人が……チリに………」
これは………最悪の結果ね。
「ご、ごめんなさい!た、助けようとしたのに!こんなことに………」
クズネが涙を流しながら必死に謝る。
「…………ニコ」
それを見た女性は、黒い瞳を目一杯細めながら笑顔を浮かべた。
「…うぅ……」
それを見てさらに涙ぐむクズネ。
サキが声をかけようと動いたため、私がそれを止めた。これは彼女に任せるべきだと、私の直感が判断した。
彼女は右手の優しい手付きでクズネの頭を撫でた。
それもたちまちチリとなって消える。
彼女は口を動かした。私からは遠くて見えなかったけど、それを見たクズネはとても嬉しそうにしていた。
最後に彼女は残った左腕を大きく開く。
気付いたクズネは思いっきり抱き付く。
その衝撃で、彼女は完全に崩れてしまったけど、最後の最後まで彼女は悔いのない澄んだ表情だった。
チリが風で全て流された後、その場にはボロボロのクマのぬいぐるみが落ちていた。
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