第8話 陰る輝き

 起きる。


 顔を洗う。


 朝食を食べる。


 歯磨きをする。


 身だしなみを整える。


 登校する。


 授業を受ける。


 授業を受ける。


 授業を受ける。


 授業を受ける。


 弁当を食べる。


 授業を受ける。


 授業を受ける。


 下校する。





 

 家に帰った後も、機械のように昨日と同じ時間に同じことをしてから布団に入る。


 そして一日が終わる。


 イヌイさんの事が起きて一週間が経過した。

 未だに実感が湧かず、まだ生きているのではと思っている自分がどこかにいる。あれ以降、魔法少女としての活動はしていない。ノイさんに休息が必要だと言われたから。

 そう、私は疲れてるんだ。なぜなら何度試しても変身出来ないから。心なしかネックレスがくすんでいるようにも見える。………いや、そもそも日常の風景が白黒の漫画のように見えるし、そんな私を、ページをめくるように俯瞰している自分がいるようにも感じる。

 そうだ、私は疲れてるんだ。落ち着いたらまた連絡をしてと、ノイさんも言っていたし、その言葉に甘えよう。

 訓練や魔法少女としての活動、それに学校生活。慣れない身体で行動したせいだ。きっと疲れてるから身体が追い付いてないんだ。そうだ、そうに違いない。

 私は目から溢れる水滴を、自分自身が感知しないように枕で拭った。












ーサエカー


「この三人が揃うのって久し振りだね。なんか、初めて会った時のこと思い出しちゃう。」

 サキがクズネに配慮するようにしながらも、嬉しそうに呟く。

「そうね、あの時はアメリカから来た魔法少女にボコボコにされたわね。」

「懐かしいなぁー、でもその後の戦闘のコツを教えてくれたのは嬉しかったな。」

「えぇ、それでここまで戦ってこれたとも言えるわね。」

 未だにクズネは無言………

「えっと………」

 流石にサキも困り顔ね。

「……クズネ!」

「ひゃい!?」

「あなたは誰?」

「え…………?冴島葛音………?」

 サキがおろおろとした顔で私とクズネを交互に見てるけど、今は構えない。

「本名聞いてんじゃないの。もう一度聞くわ、あなたは誰?」

「…………魔法少女クズネ……………」

 思い当たったようにポツリと呟く。

「そう、そうよ。魔法少女は誰かを助けるの。助けられた人がお礼言ったとき、今のクズネの顔を見たらどう思うかしら?」

 私はクズネの肩を掴んで、強引に姿見の前に引っ張る。

「……………」

「そんな酷い顔で助けてたって、助けられた方はどう思うかしら?」

「えっと……」

「自分のせいで辛い思いをさせた……自分が助けを求めなければ……ごめんなさい………そう思う人だっているんじゃないかしら?」

 私が実際に言われたことがある言葉を告げる。

「っ!」

「あなたは助けた人を不安にさせるつもり?」

「……………………違う。」

 ドンッ!

 クズネが自分の肩をグーで叩いた。

「そう、その顔で良いのよ。」

「ありがとう、サエカ。」

 サキも一安心したように一息ついた。



「それじゃあ作戦会議始めるわよ。」

「うん。」

「私から良い?」

 サキが真っ先に手を上げた。

「えぇ。」

「情報にあった、痛いっていう言葉に過敏に反応したって話はどうなの?」

「どうだった?クズネ。」

「……うん。あると思うよ。レイちゃんは相手を良く見てるから、そういう違いに気づけたんだと思う。あの怪人も痛いって言った私を見て、あの攻撃をしてきたから。」

 あの攻撃ね。大分戻ったけど、まだ思い出させるべきじゃなさそう。イヌイくん、気さくないい人だったわね。

「それと、火の玉に自分から手を出したってのも気になるよねぇ。」

 サキが資料にペンで赤線を引いた。

「クズネ的にはどうだった?」

「んー…私はよく見てなかったんだけど、レイちゃんは未知のものに興味を持つ子どもみたいって言ってた。」

 なるほど。

「クズネさー。」

「なぁに?サキ。」

「それは先輩としてどうなの?」

「う!?」

 クズネは気にしているところをつかれて、苦悶の表情をした後、苦笑を浮かべた。

 サキの天然の刺が決まったわね。

「あとは何かある?」

「いやーないなー。」

「じゃあクズネ、他になにかあった?」

「………攻撃が広範囲なんだけど、私の痛いって発言による攻撃以外は、全部拡散してたかな?攻撃が。」

 やっぱり防人の活躍は期待できないかもしれないわね。

「へー、でも拡散っていってもどんな風に?」

 サキがジェスチャーでわちゃわちゃしながら尋ねる。

「えーと、自分から周りにって感じだった。

 んーそう!自分に誰も近付けないようにって!」

「はえー。」

 サキはクズネの言葉を反芻して、頭の中でその情景を思い浮かべるように声を出した。

「それ、使えるかもね。」

「「え?そう?」」

「とりあえず、詰めてくわよ。もう一週間。そろそろ動きがあると思うから。」

「はーい。」

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