第7話 heavy blow

 朝から訓練したこともあって、イヌイさんとのマンツーマンの後、併設施設で昼食をとる。ちょうどクズネさんも正座の時間が終わったらしく、私達に合流した。

「あぁ~膝が痛いよぉ~」

 正座により酷使していた膝を擦りながら、カレーをフゥーフゥーする。聞いてみたら猫舌らしい。

「お前が悪いんだから当たり前だ。」

 イヌイさんは見かけによらず、大盛りのカツ丼を食べながらクズネさんにジト目を向けている。

 クズネさんがいたたまれない様子だったから、ここは後輩として助け船を出そうかな。

「それにしてもここの料理は美味しいですね。」

 私はオムライスを呑み込んでから、イヌイさんに目を向ける。

「そうだね。やっぱりちゃんとした調理師を雇ってるだけあると思うよ。他にも申請すればなるべく要望を聞いてくれるし、それだけ僕達に期待しているってことだと思うよ。

 ……それとクズネ。後輩に気を遣わせるなよ…」

「あへ?」

 バレてた………


 イヌイさんの話を聞いて、改めて自分の立場を理解出来たような気がした。

 



 昼食を食べ終えて訓練に戻ろうとした時、あの音が鳴る。

ピリリ!ピリリ!

「「「はい。」」」

 三人同時に応答する。

『やぁ?さっきぶり。通報があったから場所を伝えるね。それと、今回は増援は期待しないで。最近怪人が増えてきてるからさ。』

「「「了解。」」」








 指定された場所に向かうと、既に人払いは済んでいた。

「通報で雷のような物が飛んできたという情報が鍵だね。手分けして探すかい?」

「そうですね、その方が……」

「いや……今回はまとまろう。」

 イヌイさんの意見に賛成しようとしたら、クズネさんに待ったをかけられる。

「え?どうしてですか?」

「………本気か?」

「うん。」

 イヌイさんの目を見て、しっかりとした態度でクズネさんが頷く。

「………そうか。すまん、レイ。こういう時のクズネの勘は当たるんだ。」

「それなら構いません。私はお二人に従います。」

「我が儘言ってゴメンね?でも、なんか嫌な予感がするから…」

 クズネさんが申し訳なさそうに俯く。

「気にしてませんから、早く行きましょう。」

「だね。」

 良かった、顔がいつもの顔に戻ってくれた。

 



 暫く歩くと、少し前に、女性がキョロキョロしながら歩いていた。

「逃げ遅れたんでしょうか?ちょっと行ってきますね。」

「あぁ、任せるよ。」

「………っ!ダメ!戻って!」

「え?」

 後ろから聞こえたクズネさんの声に、私とさっきの女性が反応する。

 そこで不意に、女性と目が合う。

 ……目が赤

「キャアァァァァァァァ!!!!」

 そう思ったつかの間、女性の悲鳴と共に周囲にバチバチと音が響く。

「何……いっ!?」

 ズザザ……と地面を転がる私の身体。

「大丈夫!?」

 クズネさんが私の身体を起こす手伝いをしてくれた。

「……まさか生身で能力を使用する怪人がいるなんてね。こんな事例がないのは初めてだ。」

 イヌイさんが剣に手をかけながら呟く。

「ごめん、私がもっと早く気付いてれば……」

「いえ、クズネさんのせいじゃないです。不用意に近付いた私が悪いんです。」

 全身がピリピリと痺れる。今回の相手はあの人であってるみたい。

「あぁ、お前だけのせいじゃない。全員の責任だ。」

 そう言って、イヌイさんはノイさんと連絡を取ろうとする。

「ダメだ…繋がらない。とりあえず、三人でこの場を収めるぞ。」

「はい、準備は出来てます!」

「うん、ちょっと痛いかもだけど、我慢してね!」

 ピクッ!と痛いという単語に怪人が異様に反応する。

「あ…あぁ……あァァァァァァァ!!!」

 頭を振った後、両耳を両手で抑えてまた叫ぶ。

 それに呼応するかのように電流が走り、私達を襲う。

「く!?」

「う!」

「めちゃくちゃ!」

 全身に走る痛みから逃れるために、三人揃って後退する。

「すまん!今回は二人のサポートに回る!」

 剣であるため、自身のリーチが足りないことを悟ってイヌイさんが端的に伝えてきた。

「うん!レイ、行くよ!」

「はい!クズネさん!」

 私とクズネさんが前に立ち、能力を使用する。

「火の玉ストレート!」

「ファイアスネーク!」

 クズネさんの火の玉に、私は火のへびを四匹をまとわせるように放つ。

 猛然と迫る火をじっと見つめる怪人。

 途端に怪人に火が直撃し、慌てたように身体を脇目も振らずに揺らしながら火から逃れる。

「…良かった、耐久は人並みですとかじゃなくて。」

 イヌイさんがホッと一息つく。

 確かに、それだと戦い方が分からなくなりそうね。

「うん、そうだね。」

 クズネさんがイヌイさんに賛成するように後ろを向いた時、怪人が動いた。

「カヒュ…アァァァァァァァァァ!!!!!」

 それは、さっきよりも大きく、ヒュンッ!と心臓の全てを掴むような圧力だった。

 っ!!クズネさん……!う、動けない!?

 その声の電流は、真っ直ぐにクズネさんを狙っていた。それに気付いて助けようとしても、私の身体はびくともせず、ただ目の前の光景を見ているだけだった。原因は分かっている。あの声に、私の身がすくんだのだ。

 どんなに超常的な力を持っていても、普通の人よりも圧倒的な身体能力を所持しても、私は、私の心はただ守られるだけの人でしかなかったのだ。


「まずっ!?」

「クズネ!!」

「……っ!」

 クズネさんに届くはずだった声の凶器は、クズネさんの前に立ち塞がったイヌイさんを貫いた。

「がふ……」

 血を吐きだし、身体から力が抜けるように倒れるイヌイさん。

 泣きながらもイヌイさんの出血を止めようと試みるクズネさん。

 怯えた顔で走り去る怪人。

「はっ…はっ…」

 私は…何を……

 

 私は動転した頭を整理させることが出来ず、クズネさんが懸命にイヌイさんに処置をしながらノイさんに一刻も早く連絡を取ろうとしている中、ただ突っ立ったままで何も出来なかった。

 そんな自分に幻滅しながら……それ以降の記憶はとても朧気で、思い出すのが困難だった。



 ただ一つ、ノイさんから告げられたイヌイさんの死をクズネさんと共に聞いて、となりでクズネさんが泣き崩れたのはとてもよく覚えている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る