第6話 先輩の失態

ー???ー


 あぁ、どうしよう。

 片手に持ったコーヒーカップを揺らして、中身が渦を巻くのを見ていた。

 つまらない、刺激が足りない、あの時のように……

 そう考えていると、手が滑ってコーヒーが地面に零れてしまった。

「そうだ!少し弄るかな。」

 地面に広がるコーヒーを見て何か思い立ったように椅子から立つと、後ろのベットに横になっている名も知らぬ女の漏斗胸の部分に、自らの手を差し込んで探るように動かす。

 その間に、グチュ、グチュという音と共に、女の苦しむような声が部屋に響く。

「あぁ、あったあった。ここを……こうして……これでいいかな。」

 ズリュ…という音がして、女から手を引き抜く。

「楽しみだなぁ………ヒーロー達はどんな顔をしてくれるんだろう…………」




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「あれ?誰だろう。」

 私がいつも通り訓練場でクズネさんを待っていると、知らない男の人が入ってきた。

「新顔だね。初めまして、僕はイヌイという名前で活動している防人だよ。」

「つい最近、魔法少女になったレイです。よろしくお願いします。」

 イヌイさんと握手をする。

「これから訓練かい?」

「はい、クズネさんを待っています。」

 とっても爽やかイケメンって感じっすねぇ。

「あぁ、じゃあ君は火の能力なんだね。」

 そう話していると、クズネさんが走り寄ってきた。

「やぁやぁ、お、イヌイくん久し振りだねぇ。」

「そうだね、半年振りかな?」

 クズネさんが私とイヌイさんを交互に見やる。

「あ、そうだ!イヌイくん、レイちゃんの訓練手伝ってよ!」

「それはいいね!是非。」

 私が喋る前に、どんどん話が進んでいく。


「それじゃ、イヌイくんとレイちゃんの一騎討ちってことで!イヌイくんは少し手加減してね?」

「分かってるよ。」

 ……あれぇー!?



 気を取り直して。イヌイさんは剣を持った防人。なるべく学べることは学ばないと!

「いつでもいいよ。」

「いきます!スネークファイア!」

 四匹の蛇を作り出し、イヌイさんに向けて放つ。

「へぇー面白い。」

 ニコニコと笑いながら、一振で四匹を斬り伏せる。

「えぇぇ……」

「ほら、ボサッとしない!来るよ!」

「え?…っ!?」

 クズネさんの言葉に反応して顔を上げると、イヌイさんがすぐ目の前まで来ていて、縦の一閃を間一髪で避けることが出来た。

「うん、回避は良い感じだね。」

「くっ!…ソニックスネーク!」

 私は体勢を崩しながら、指から蛇を射出する

 これはトエちゃんの弓道からインスピレーションを受けたもので、蛇を直線に飛ばす技。

「威力は高くても単調だし、それだけじゃ、牽制にもならないよ?」

 ソニックスネークをヒラリと避ける。そのアクションをした瞬間に、地面から数本の蛇のしっぽを出現させ、行動を封じる。

「スネークバインド。」

「なるほど、それと地味に熱いね。」

 イヌイさんは脱出を試みる。

 あれじゃ、すぐに抜けられそう……なら!

「もう一度!ソニックスネ…」

「はい!そこまで!」

 クズネさんが叫びながら、私とイヌイさんの間に巨大な火の玉が通過する。

「ェェkっ!」

 危ない、熱くなりすぎた………もう少しで、イヌイさんに大怪我させるところだったよ。

「うんうん、良い戦いだったよ。これならすぐに名を上げそうだね。」

「ありがとうございます!」

 私とイヌイさんは健闘を讃える握手をした。

「やれやれ、あんな無鉄砲誰に似たんだか。」

 お前だよ、という言葉を飲み込むイヌイであった。



「それにしても、クズネもあんなでかい火の玉出せたるようになったんだな。」

「ふっふん!まぁね。後輩が出来たんだから、見栄のためにも目立つ技持った方が良いでしょ!」

「まぁ、あんなでかいのじゃ、コントロールも大変だろ?」

 はえー私もでっかい蛇とか出せるかな?でも、コントロール大変らしいし、蛇一匹一匹に知能があれば楽なんだけどなぁ………

 私が呑気なことを考えていると、クズネさんが衝撃の発言を口にした。

「うん、疲れるね!だからコントロールしてないよ?」

「え?」

「は?」

「いやぁ、そりゃ危ないと思うでしょうけど、待ってほしい。いつもより速度を緩めてるから、すぐに対処が……」

ドオォォォォン!!!

 クズネさんがそう言った瞬間、訓練場の壁にでかい火の玉がぶつかり、大爆発が起きた。


 煙がなくなると、そこにはあの立派な訓練場にポッカリと穴が………

「あは、あはははは………」

「おい!新人が壊れたぞ!?それにここの修繕、どうすんだ!」

「うぅ~~ん………てへぺろ☆」

「なにしてんだぁ!?」

 訓練場に穴が空いたことで、イヌイの叫びはこの施設全てに轟いた。




 その後すぐ、ノイさんが駆け付けてきて、状況確認と共に私達三人は正座をしながら説教を受けた。私とイヌイさんは三十分で終わったけど、クズネさんは三時間コースらしい。

 でも、修繕費はノイさんが出すらしく、クズネさんがめっちゃ拝んでた。

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