第4話 失態

 あれからしばらく、なんとか火の能力を使えるようになって一週間程。

 つまり、高校のカーストとグループが確定した頃。

 私?…………まぁ…良いじゃないか、そんなこと。

 まさか、クラスメート全員の名前より先生全員の名前を先に覚えるとは思わなかったよ。魔法少女として出動する時の合言葉を決める際、自分から伝えに行ったのもあるけどね。

 


 ピリリ!ピリリ!

 そんな私の日常が決まりかけた時、非日常がこんにちは。

『もしもーし。』

「はい、こちらレイです。」

 着信に返答するとそれは思った通り、ノイさんだった。

『今って、放課後だよねん?』

 ノイさんがおちゃらけた声で尋ねてきた。

「はい、部活などにも入ってないので大丈夫です。」

『あいあい、今日は………


 なるべく急ごうかな。丁度家が通り道だし、バッグだけでも玄関の前に放り込んどこう。



「彼方に願いを!」

 現場となっている公園までもう少しのところでネックレスに触れて叫ぶ。

 眩い光に包まれながら公園に降り立つ。既に避難は済んでいるようで、少し離れた所にポツンと怪人が立っていた。

 見た感じ……怪人トレンチコートね!

「覚悟しなさい!」

「フッハ!威勢が良いなぁ……」

 なんか…怪人って粘着質な喋り方の人がなるのかな?

「スネークファイア!」

 私の腕に絡み付くようにうねる火を四本生み出し、怪人を四方から囲むようにぶつける。

「トレンチコートが…燃えるじゃねぇか!」  

 怪人は突如として声を張り上げると、爪が伸びてきて、そのまま私の火を霧散させた。

 うげぇ……不利かも?

「ヒヒ、行くぞぉ!」

 怪人は底冷えする声を放つと、こちらに爪を光らせながら近付いてきた。

「そぉい!」

 ブン!という音と共に振るわれた爪による一撃を、紙一重で躱す。クズネさんの火の玉回避練習のお陰で、避けることが出来た。

 その後も、振るわれる爪を見極めながら避ける。クズネさんに、初見の敵は観察が一番大事と教えられたからだ。


「ちょこまかとォ……!これで、終わりだぁぁ!」

 イライラの限界に達したのか、怪人は大振りの一撃を放とうとする。

 フッフッフ…待ってたよ、この隙をね!……あっ!

 私は大技を射とうとして………転んだ。

 目の前には今にも止めを刺そうとしている怪人と、恥ずかしさで顔が真っ赤になっている私。

 はっずぅぅ……………

「ケヒッ、食らえェェェェエ!!」

「まっ!?」

「ゴハ!?」

「あえ?」

 私が涙目になっていると、突然怪人が横に吹っ飛んでいった。

「大丈夫?…レイちゃん!」

「あ、………ありがとう、トミちゃん。」

 私はスッ…と立ち上がり、見えないように袖で涙を拭き取り、何事もなかったようにお礼を言う。

 助けてくれたのは、前にクズネさんの火の玉を速度で避けていた、チャイナ服の魔法少女トミだった。


「ここからは僕も加勢するよ!」

「分かった、二人であの怪人トレンチコートを無力化するよ!」

 二人で背を預けあう。

 あ、これ良いかも………

 しばらく待つと、怪人が荒々しく立ち上がる。

「……ふざけるな……ふざけるな!ふざけるな!ふざけるなァァァァァァァ!!!!!」

 突然、怪人が狂ったように叫び始める。あまりの出来事に私もトミちゃんも困惑の表情だった。

「何故!?何故何故何故!?!?!?俺みたいな完璧な人間が、貴様らブサイクに結婚という夢を与えてやったというのに、口々に詐欺だと罵りやがって!たかが十万程度で俺との時間を手に入れられるんだぞ!?膝をつけて喜ぶべきことだろうが!どうせ、ホストか風俗で無駄金を支払うくらいなら、俺の方が良いに決まってる!」


「…………うわ。」

 やべ、素が出ちゃった………まぁしょうがないか。

 だって、触れたくないよぉ………

「ふー…ぞく?」

「あぁ!!トミちゃんは気にしなくて良いんだよ?」

 ダメだ!私の隣で少女が穢れるなんて我慢できない!

「ケヒッ…ケヒヒ………お前らも金さえくれりゃ、相手してやっても良いんだぜぇ?」

 粘っこい、悪寒のするような声でこちらに話しかける怪人。

「……無いわぁ。」

「そうだね。」

「はぁ!?どういう意味だぁ!?」

 怪人の質問にまた私達は困惑して目を合わせる。

「生理的に無理。」

「なんか、嫌~い。」

「んなぁぁぁ!?!?!?」

 ん、ちょっと今の驚き方は笑っちゃう。

「くそブスどもがぁ!!!言わせておけば良い気になりやがってぇ!!!動けなくなるまでズタズタにして、ネットに丸裸を晒してやるよぉ!ゴミクズどもなら喜んでブスのお前らの身体でも、端金ぐらいは俺によこすだろうよ!」

 歪んでるなぁ…………

「そういうこと人に言っちゃダメなんだよ!お仕置きしてごめんなさいしてもらうから!」

 こっちもこっちで可愛いしか感想がないや。

「まぁ、そういうわけで……怪人さん、私達の踏み台よろし?」

 明らかに、ブチッ、という音が聞こえた気がした。

「舐めるなぁ!!!!!」

 怪人が一目散に突っ込んでくる。

「ここは僕が抑えるよ!タイミング見て、レイちゃん任せた!」

「オッケー!」

 私は邪魔にならないように少しズレておこ。


 怪人がトミちゃんに近付くと、上と下から掴むように爪を動かす。

 それをトミちゃんは能力の風の力を全身に纏わせ、流れるような動きで怪人の後ろを取る。

「そぉこかぁ!!」

「ザ~ンネ~ン!」

 怪人は右腕を伸ばして水平チョップを繰り出すが、その時にはトミちゃんがしゃがみながら煽りつつ、怪人を足払いをする。

「ぐっ!?」

「今だよぉ!」

「アイアイサァ!」

 私はネックレスにある左のボタンを押し込み、さっき使おうとした大技を準備する。

「まだま…あだ!?」

 起き上がろうとした怪人の後頭部を、トミちゃんが後ろから思い切り蹴飛ばし、怪人はダサいポーズのまま地面に顔面から激突する。

「いっちゃえー!」

「任せて!三頭蛇!」

 火で形成された、頭が三つの蛇が怪人を爛々とした眼で襲いかかる。


「ぐあぁぁぁあ!?」

 爆発が起こり、怪人が人の姿に戻る。

 ………どうやらトレンチコートは無事みたい。無力化装置作れるノイさんって、やっぱり何者?




 ちなみに、怪人の素顔は、それなりにはイケメンだと思いました。

 まぁ、その後トミちゃんが謝ってもらうまでビンタしていたせいで、顔中腫れて見る影もなかったけどね。

 ザマァ見ろ!

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