第2話 初陣

「ん…んんん………ふあぁー………」

 私があくびをしながら目を覚ますと、カーテンの隙間からの朝日に照らされるネックレスが目に写った。

 本当になったんだなぁ……魔法少女………


「おはよー。」

「はぁい、おはよう。」

 階段を降りて、お母さんが作ってくれた朝御飯を食べる。

「お父さん、また早かったの?」

「そうみたい。今忙しいらしいわよ。」

「ふぇぇー……」

 大変そうだなぁ………

 そう思いつつ、携帯のアプリを使ってあるアプリを起動し、動画を流す。

「また見てるの?」

「うん、これはいつ見ても飽きないから。」

「とりあえず、その人だけじゃなくて他の人のことも覚えなさいよ?一緒に色々するんだから。」

「う、はぁーい。」

 私が今見ているのは、魔法少女であり女優である、魔法少女カミナの戦闘映像だ。流れるような所作で怪人を翻弄し、優雅な佇まいで決着を付ける。とってもカッコいいんだけど、魔法少女の戦闘映像自体あまり出回らないせいで、私が知ってる魔法少女カミナはこの画面の先の姿だけだ。まぁ、魔法少女に生で会える一般人なんて、極少数だけど。

 でも、これからは私も魔法少女になるんだし、あわよくば、一度会って話してみたいなぁ。




「いってきまぁーす!」

「いってらっしゃい。」

 私はネックレスを制服のポッケに入れて外に出た。さすがに先生達は事情を知っていても、クラスの子達は私が魔法少女だって把握してないから、これ着けてたら怪しまれちゃうもんね。


 今日の授業は………考えたくないなぁ。一時間目が体育でその後が普通五教科とか、寝てくださいって言ってるようなものだと思うんだけどなぁ。

「うへー。」


 

ピリリ!ピリリ!

「えっ?」

 しばらく歩いていると音が聞こえる。何事かと音の正体をまさぐると、あのネックレスが音を出しながら光り輝いていた。

「うおぉ……これが……!って、言ってる場合じゃない!」

 えーと、確か…ここ!

『もしもーし?』

 聞こえてきたのはノイさんの声だった。

「はい!こちら魔法少女レイ!」

『いやぁ、初陣だねぇ。場所は……


「了解しました!今向かいます!」

『ん。学校には私から伝えとくよ。』

「はい!」

 魔法少女で出張る時は公欠になるはずだから、助かった。

 本当は不謹慎だけど、授業サボれてラッキー!





 急いで家に戻って、お母さんにカバンを投げ渡して現場に向かう。

 指定されたのは……もう始まってる!

「スゥーハァー………彼方に願いを!」

 私の言葉に反応し、ネックレスから放たれた光が私の全身を覆う。


 視界いっぱいの光が消えてから私は自分を確認する。 

 グレーと白とオレンジのドレス(後でお母さんに聞いたらミモレって言うらしい)を着ていて、髪色は金髪かな。瞳の色はまだ分からないけど、まぁいっか。


「魔法少女レイ!加勢します!」

 戦場につくと、戦っている魔法少女の姿が見えた。うぅ…やっぱりどこかの動画で見たことはあるんだよなぁ。魔法少女を見るといつもそう思う。


「ぐあ!?」

「おぉ!君が新人ちゃんかぁ!私は魔法少女サキ、よろしくね!」

 そう言って、サキさんは身体にまとわせた水で怪人を殴り飛ばしながら答えてくれた。

 ……私いらん子?

「えっと、怪人の特徴は?」

「んー分かんない!やられる前にずっと殴ってたから。」

「あ、はい。」

 なんて情緒がない、なんて口が裂けても言えない。だって私も含めて、彼女達は命がけで戦っているからだ。

「ハッハッハ!今だ!」

「「あ。」」

 私とサキさんの声が重なる。サキさんが怪人の何かしらの攻撃を受けてしまった。

「ハァーッハッハッハ!これで貴様は俺の操り人形だぁ!」

 もしかして、対象を操る能力!?私がサキさんと戦うってこと!?

「ありゃ、それはちょっとキツいかもね。」

 サキさんも苦笑いを浮かべる。

「行けぇ!魔法少女サキィ!」

 そう言うと、怪人は持っていたポロポロの人形を強引に動かす。

「うわ!?」

 すると、それと同じようにサキさんの身体も動く。

「ひえ!」

 魔法少女になって身体能力が上がっていても避けるのはギリギリだった。

「フハハハ!おい、魔法少女レェイィ……いいのか?攻撃しなくてぇ?悪の怪人が目の前にいるぞぉ~?」

 うっわ!怪人になってるから元の人の顔が見えないけど、絶対に悪どい顔してるよ!

「レイ!大丈夫!」

「……分かりました!やります!」

 えーと、確か能力はお腹に力を入れて、攻撃する方向に意識を向ける!

「なんとかなーれ!」

 待ってよ、サキさんも怪人も唖然としないでよ!

……しょうがないじゃん!急いでたから能力の確認してないんだよ!

ゴオォォ!

 私の言葉に反応して出てきたのは、火の能力だった。

 でも……

「ハッ!これなら先輩殺しは無理か。」

 怪人はそう言ってサキさんを操り、水の力で私の火を掻き消す。

「じゃ、予定通り後輩殺しのショータイムだな!」

「うぅ……」

 怪人が嬉しそうに人形を握る。しかし、その人形はポロッと崩れてしまった。

「何!?」

「ハァー、あんたバカねぇ。」

 サキさんはそう言って、怪人のお腹を膝蹴りする。

「グハッ!?」

「どーせ、その能力で操ったのは、物とか動物とかの抵抗が少ないやつでしょ?」

「あぁ!?だから…ゲホッ!」

 続けて横腹を回し蹴り。

「悪いけど、能力を操るのって大変なのよ。あんたは抵抗が少ないやつで十全に能力を使用できると錯覚してしまった。」

「チッ!ふざけ…ブバッ!?」

 最後に顔面ストレート。

「こちとら自然物操ってんのよ。」

 フン!と、言って怪人を縛ると、私のもとに駆け寄ってきて、思い切りハグをされた。

「大丈夫?怖かった?」

「あ、いえ、大丈夫です。」

 その変わり身が一番怖いです…………

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