第3話 再びソリエンの町から
ギルドマスターの部屋に呼ばれたゼロ達だがどう言う理由だか見当もつかなかった。
この町のギルドマスターはがっちり型の40代位のヒューマンだった。
やはり獣人からヒューマンに変わっていたかとゼロは一応の安心をした。
「ゼロとシメ君だね、まぁそこに掛けてくれ。私はここでギルドマスターをやっているカルソンと言う」
何故俺だけ呼び捨てなんだと思ったがまぁいい。ギルドマスターの用件の第一は、かってこの国で「隻腕の殲滅ヒューマン」と呼ばれた二つ名の男はゼロと言ったが君の事かと聞かれた。
「同名だが別人だ。それに俺は片腕ではない。ちゃんと両腕がある」と動かせて見せた。
何故そんな事を聞くのかと尋ねると今はそう言う戦力が一人でも欲しいと言う事だった。
ギルドマスターの話によるとこの国の人間はまだ獣人国に対して疑念と恐怖があると言う事だった。
いつまた領土奪還に来ないかと言う恐怖だ。あの獣人達の態度を見ていたらそう思っても仕方のない事だろうが、ゼロはそれはないと思っていた。
それはゼロがハンナを信用していたからだ。あいつがこの国を再び危機に晒す事はないと。自分の命を賭けて話に来たのだから。
ただヘッケン王国としては少しでも戦力になる者を集めておきたいんだろう。例え冒険者と言えども。
そしてギルマスはゼロのランクをEからDランクに戻した。そして詩芽のランクはいきなりEとなった。
これは妥当だろう。何しろ詩芽はCランク冒険者に勝ったんだから。
それに冒険者ギルドでもランクの底上げをしたかったのだろう。
この時ゼロは詩芽(シノメ)をシメと言う名前で登録していた。
「何ですかこれは。モロ音読みじゃないですか」
モロに日本人の名前とわかるものはまずいと言う事でこうした。こうして手続きが済んでやっとゼロ達は冒険者ギルドから解放された。
ただシメにはこれからしなければならない事がある。それは文字を覚える事だ。
この世界はまだまだ文盲率が高い。だから文字が読めなかったり書けなくても日常生活に困る事はないが読み書きが出来る事に越した事はない。
これはゼロがミレやゼロマ、またハンナにも教えて来た事だ。ここから派生して獣人の中でも読み書きの出来る者が増えた事は言うまでもない。
今では獣人の国で学校の様な物も出来ていると聞く。これも全て当時のゼロの指導の賜物だった。
ゼロはシメを連れて町の中を見て回り、この町でかって貧民街と呼ばれていた所にやって来た。
そこは今でも他の地区と比べて貧しい者達が集まる場所だった。当時はここに食えなくなったヒューマンや獣人達が住んでいた。
戦場地域では何処にでもある様な場所だ。ここの方が戦場よりはまだましかも知れない。
食えなくなってしまえばヒューマンも獣人もあまり変わりはない。ここだけは一種の人獣共同体の様な場所だった。
かと言って仲がいい訳ではない。いつも喧嘩は絶えなかったがやはり体力的には獣人の方に利があった。
この一角にゼロが5人の獣人の子供達と一緒に生活してた場所があったのだがその跡はもうなかった。
獣人達の祖国復帰に伴ってここで住んでいた獣人達もまた子供達もカールかカサールに移って行ったのだろう。
その辺りは流石ハンナだ。こんな所の獣人達もちゃんと拾って行った様だ。
とは言っても100%の獣人がこの国を去った訳ではない。この町に残った獣人達もいた。ただしそれらは彼らの意思でと言う事だ。もしくは拾い切れなかった者達もいただろう。
そう言う者達はどうしても恵まれない環境の者達と言う事になる。この貧民街にもヒューマンと共に貧しい獣人達も生活していた。勿論子供達も多くいた。
ゼロとシメがそんな街の中を歩いているとやはり周りから冒険者に対する恐れと困惑の目線があった。
しかしゼロは以前初めてここに来た時にあった敵対心が薄れていた。
何とか話の出来る住人を捕まえて聞いてみるとこの街には以前冒険者の救世主がいたと言う。
その人物は病気に苦しむ者達の為に薬草を取り、そこから薬を作って病人を救ってくれたらしい。
そしてその薬を全てこの街に残し、薬草に知識のある者に簡単な薬の作り方を伝授して去って行ったと言う。
ほーそれはまた奇特な冒険者もいたもんだとゼロは思った。しかしそれで少しでもこの貧民街の助けになるのなら良いだろうとゼロも思った。
この街にはもはや目的のものはなかったので街を離れて中心地に戻って行った。
この町は以前ほどギスギスした感じと圧迫感はなかったがそれでもまだ少しまだ混沌としていた。
無理もないだろう。いきなり100年の実行支配から解放されたのだ。譲渡された方もまだ準備不足と言った所だろう。
こう言う混乱期にはどうしても暴力が幅を利かせる。それは何処の国、どの人種でもみな同じだ。
この町でも今まさに集団による商品の略奪が行われている最中だった。きっと野盗の類だろう。
この町の保安体制はまだ完全には回復していない様だ。そんな時何処から現れたのか一つの集団がその野盗達に向かって行った。
数の上では野盗達の方が勝っていたが彼らの一人一人は強かった。野盗達を片っ端から排除して行った。
そして皆同じ制服の様な物を着ていた。それを見た時ゼロにはその制服に見覚えがあった。
『そうか、あいつ等は「自警団カリヤ」のメンバーか。なる程強い訳だ』
「ねぇねぇゼロさん、今戦ってる人達の戦い方って何処かゼロさんに似てませんか」
「そうか、まぁ何処にでもある技術だろう」
「そうかな・・・」
どうやら彼ら「自警団カリヤ」のメンバーは依頼を受けてこの町の保安にも当たっていた様だ。言ってみれば警察緊急特別警備隊の様なものか。
それにこの町は彼ら「自警団カリヤ」達に取っても聖地、祖師の町だ。守って当たり前なんだろう。
盗賊の制圧は殆ど終わっていたがその内の二人が捕縛の網を搔い潜って逃れて来た。
その時シメは前に出てその盗賊をいとも簡単に投げ飛ばし無力化していた。
そのあまりの手際の良さに後を追いかけて来た「自警団カリヤ」のメンバーが驚いていた。
「ご協力ありがとうどがいました。しかし凄いですね。一体その技を何処で習われました」
「えっ、いえ、うちの田舎で少々」
「そうでしたか。きっと素晴らしいお師匠様なんでしょうね」
「いえ、それ程大した人では」
「自己紹介が遅れました。私はこの『自警団カリヤ』の第三班班長をやっています、バロムと言います」
「それはご丁寧に、私は冒険者をやっていますシメと申します」
「シメ殿ですか。それにしても見事な腕前ですね、きっと高名な冒険者の方なんでしょうね」
「いいえ、この間冒険者になったばかりでまだEランクです」
「まさか、Eランクでその腕ですか。信じられませんね。それでそちらのお方は」
「俺はこいつのパーティ仲間なんだが一つ聞いていいかな」
「はい、何でしょう」
「君達は『自警団カリヤ』のメンバーだよな。団長は確かダニエルさんと言わなかったか」
「よくご存じですね。そうです、我々の団長はダニエルです」
「彼はこっちには来てないのか」
「ええ、本当はここに来たかったそうなんですが、北西部でもっと大きな騒動があったとかでそっちに向かってます」
「北西部か、すると首都サルーンの方か」
「ええ、よくご存じですね。向こうにはまだ獣人の残党もいると言う話ですので」
「そうかご苦労さん。ここの住民もみな君達には感謝しているよ」
「いえ、これが我々の仕事ですから」
そう言って彼らは野盗達をこの町の兵舎に連れて行った。
「ゼロさんはあの人達を知ってるんですか」
「いや、彼らに会ったのは初めてだが『自警団カリヤ』は有名だからな」
「そうですか。私には何もわかりませんが、前にここで何をやってたんですか」
「大した事はやってないさ」
「またー」
彼らもまたゼロの顔は知らなかった。何しろあれから4年が経っている。きっと新しく招集されたグループなんだろう。
しかし捕縛術はきっちり継承されている様だ。しかもかなりの完成度で。
今日はこれ位でいいかとゼロとシメは宿屋に戻った。
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