第2話 異世界へ再び
ゼロは再び前回来た異世界に来ていた。しかも今回は日本から助手の矢野詩芽(やのしのめ)を連れて。
と言うのも日本には住み難くなり、ゼロも何かと面倒事に巻き込まれるので、うるさくなって日本もその世界も捨てたと言うのが実情だが、それでも何も異世界に来る事はないだろう。
ある意味ゼロに取っては勝手知ったる世界かも知れないが、そこに詩芽を連れて来る事もないと思うのだが本人が承諾したのだから良しとしよう。
少なくとも未来マシーンJPT336895号によって異次元転移のメカニズムの解析が終わり、一応自由に行き来が出来るようなった。
勿論それなりのリスクと制限はある。ゼロと詩芽の二人位なら何とか転移は可能だった。
そしてJPT336895号にはまだ完全に脅威が去った訳ではなかったのでしばらくはこの異世界で監視を続けるらしい。
この世界のクソ神は未だに古代遺跡を敵視している様だ。ただバグたるゼロの排除には失敗し、自身もそれなりのダメージを負ったのでシステムの修復が出来るまでは何もして来ないだろう。
ゼロはゼロでまたやって来たら今度こそ叩き潰してやると思っていた。しかし神を叩き潰すとはまた物騒な事を考えるものだ。
何はともあれ、ゼロに取って一番記憶の奥底にあった最初の地、ヘッケン王国の田舎町ソリエンの外側にある「返らずの森」へ転移した。
今回もまた召喚ではなく自力による転移だったので神の恩恵も祝福も何もない。
逆に神に巡り合っていたらそれこそこで大戦争になっていただろう。と言う事で詩芽もまたゼロと同じく魔力はゼロだ。
この世界に今度はまた魔力を全く持たない人間が二人現れた事になる。これはこれで珍事であり、またある者にとっては脅威だろう。
ここはゼロに取っては勝手知ったる場所だ。今度は迷わず真っ直ぐにソリエンの町に向かった。
途中ゼロは威圧を巻き散らしていたので一匹の魔物の襲撃にも合わなかった。詩芽に取っては初めての世界なのでいきなり驚かせてもどうかと思い、まずは静かな立ち上がりにしておいた。
そしてこれから町に着くまでの間に森の中での生活の仕方を教えて、それから冒険者ギルドで冒険者登録をしようと思っていた。
ここは現代日本とは違う。言ってみればゼロのいた戦場の様な所だ。基本的に弱肉強食の世界だ。この地で生きる抜く為にはサバイバル・スキルは必須だ。
この事は詩芽にもよく話しておいた。ここは日本の常識、いや詩芽達が住んでいた世界の常識が通用しない世界だと。まさに異世界だ。
ただ救いは詩芽には地力があった事だ。この世界での戦い方には慣れるまで少し苦労するかも知れないが素でAランクの実力はある。
「ねぇ、鳴海さん、これは何なんですか。ワンダーフォーゲルの野外キャンプですか」
「まぁそんな物だと思えばいい。それとなこの世界では俺はゼロだ。だからゼロと呼んでくれ」
「何なんですかそのゼロって、戦隊ロボですか」
その時ゼロが威圧を消していたので早速フォーレストボアが襲って来た。
「詩芽先ずはテストだ。あのボアを倒せ」
「ボアを倒せって、あれ猪ですか。でもあれってちょっと大き過ぎるでしょう。それに何であんな角があるんです。おかしいでしょう」
そう言ってる間にもフォーレストボア突っ込んで来た。しかしそこは詩芽だ。ギリギリでかわしていた。
するとかわされたボアはそのまま大木に激突し、大木をへし折ってしまった。
「何なんですか、あれは。何でボアが大木を倒せるんです。ちょっと滅茶苦茶じゃないですか。ここは漫画の世界ですか」
「いいから倒せ、気を抜くと串刺しにされるぞ」
「本当にもう、どうしろと言うんです」
しかしそこは流石は詩芽だ。紙一重で横に交わしてボアの側面に勁打を入れていた。それでボアは真横に吹っ飛ばされて死んだ。
「流石詩芽だ。今日は猪鍋にでもするか」
「何なんですかこれは。冗談ですか」
その後詩芽はゼロからこの世界の事やこの森の事、そして魔物のレクチャーを受けた。
「本当にあったんですね。ゲームの様な世界が」
「ああ、そうだ。しかしここはゲームではなく現実の世界だ。俺達も致命傷を負えば死ぬ」
「そうなんですか、わかりました。ではここで修練すればいいんですね」
「そうだ。分かりが早くて助かる」
翌日からゼロは詩芽に薬草の知識を教えた。これは冒険者に取って基礎となる知識だ。
薬になる草、食べられる草、毒になる草、それらを目で見て匂いを嗅いで感触で理解して記憶する。そう言う事を繰り返しながら森の旅を進めた。
勿論その途中で幾度となく魔物の襲撃も受けたが、今の所どれもが詩芽の敵ではなかった。詩芽は全てを素手で倒していた。
ただその魔物達は一応DからCランクだったから比較的倒しやすかったとは言えるだろう。
それでも冒険者にもなってない者がこれらの魔物を倒せる事自体がこの世界では異常だ。
ただここでゼロは冒険者登録の事を考えていた。二人共また一から登録するかどうかだ。
それも悪くはないが手続き上面倒な事がある。出身地や職業、それらは適当に胡麻化せるが問題は魔力測定だ。
ゼロも過去これで色々問題があった。本来この世界では誰でも魔力を持っている。それは言ってみれば生命エネルギーの様な物だ。だたゼロ達二人は持ってない。
魔力はないが気力は持ってる。しかしそれはこの世界では認識されないものだ。魔力がないと言う事は死人と同義語とこの世界では理解される。
しかしないからと言って生きている以上は否定の仕様もないだろうが手続き上面倒な事ではある。
また以前の様に魔力のない者は冒険者にはなれませんと言われても困る。
ゼロは前回にいた時の冒険者カードは今でもまだ持っている。確かDランクだ。
ならそれを使って詩芽をパーティとして追加登録すれば何とかなるかも知れないと考えていた。
ただ問題は今は前回からどれだけ時が経っているかだ。同じなのか過去なのかそれとも未来なのか。これが分からないと自分の持ってる冒険者カードの有効性が測れない。
ともかく出たとこ勝負でゼロと詩芽はソリエンの町に向かった。
そしてようやくソリエンの防壁が見えて来た。少し古ぼけて所々ひび割れはしているが前のままの防壁だった。
ゼロの持ってるアイテム・ボックスの中にはまだ以前の備品や金も入っている。
その金を門番に握らせて門を通してもらった。ゼロの持っていた金はまだ通用する様だった。
そこで衛兵に今の時を事象で確認するとどうやらゼロが消えてから3年が経っている様だった。
つまりゼロのいた元の世界からの時間の誤差はなかったと言う事だ。
そして獣人達はこのヘッケン王国から撤退して自国領である北のカール国と南のカサール国へと帰って行ったと言う。
その為にこの国も始めはかなり揉めて不安定な状態で政権も成り立たなかったが、中央モラン人民共和国に亡命していたヘッケン国王の王女の血筋があると言うので、その三代目皇太子を呼び戻してヘッケン国王に据えたらしい。御年40歳だと言う。
と言う事はカロリーナ・デブレンス・ヘッケン王女の孫と言う事になる様だ。
まだ完全に国が安定したとは言い難いが少なくとも混乱は収まった様だ。
ゼロは町に入る前に詩芽に対して自分の持ってる一部の意識転送行った。それはこの世界の言語に関する物だった。これでこの世界の言葉はわかるだろう。
そしてこの町の冒険者ギルドに入ってみるとここは相変わらず雑音と酒とたばこと汗の匂いの入り混じった喧噪の溜り場だった。
受付に行ってみると今は皆人間がやっていた。3年前までは皆獣人だったのだが随分と変わったものだ。
そこで再登録を申し込むと、受付嬢はゼロのカードを見て、
「ゼロさんは3年間更新をされてませんよね」と言われた。
それはそうだがいなかったんだから仕方がない。
「Dランクの方が3年も更新しないと格下げになるのをご存じでしたか」
と言う事でゼロはEランクに落とされてしまった。別にランクに拘る気もないので維持出来るならそれでいいと思っていた。
そして詩芽の登録をするとここでもやはり魔力測定と言うのがあった。
そして予想通りと言うか面倒くさい通りと言うか、詩芽の魔力はゼロだった。
そこで受け嬢は考え込んでしまった。普通なら跳ねのけてしまうのだが、今はまだ国情不安定なので冒険者の数はあればある方が良いと考えている様だ。
それならとゼロが初めてここに来た時にやった様に模擬戦で実力を測ってみたらどうかと提案した。
受付嬢はギルドマスターに確認を取り、テストの模擬戦をする事になった。
試験相手はここを地場にしているCランク冒険者だそうだ。ゼロの意識センサーでは悪い気は出てなかった。
相手は模擬専用の木製の両手剣、詩芽は素手で戦う様だ。
この対戦はまるであの時のゼロとクリフトとの模擬戦の様だ。ただクリフトは一応あの時はBランクだったが。
当然ギルドのバーで屯していた連中も暇つぶしに見に来ていた。そして当然そこで賭けも始まっていた。
「おい、マッケンシー、負けるなよ。そんなド素人の女の子に負けたら恥だぞ」
「分かってるって。負けねーよ」
そして対戦は一方的なものになってしまった。詩芽の受けに剣を流されて一発の中段突きで周りの壁まで吹っ飛ばされてしまった。
そのあまりの威力に観衆は声も出ず静まり返ってしまった。そこで受付嬢が詩芽の勝利を宣言した。
これで晴れて詩芽も冒険者だ。その時受付嬢がギルドマスターが話があるので2階まで来てくれませんかと言って来た。
また何か厄介事の匂いがした。
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