第14話 打ち上げ!
「祝、ダンジョン攻略!」
「いえーい!」
「騒がしいな」
盛り上がりを見せる私とリエちゃんをベッドの上で眺めるテンちゃんとカオリン。
ノリが悪いね全く。
「ほら。人数分のクラッカー用意してるよ?」
「無駄遣いしてない?」
「してないしてない。ね、リエちゃん!」
「うん。念願のダンジョン攻略だからね。祝わないと」
「あんたら二人が仲良いのが良く分かるわ」
テンちゃんが照れる事を言ってくれる。
祝うと言ってもお金を湯水のように使える訳では無いので最低限の物しかない。
ケーキだ。リエちゃんと出し合って買ったそこそこ高級なケーキ。
部屋も飾り付けを頑張った。
「苦節二ヶ月と数日」
「そう聞くとそこまで苦労している様に感じないね」
「テンちゃん!?」
「冗談だよ」
リエちゃんが咳払いをしてから司会を再開する。
「この調子で安全に気をつけてダンジョン攻略をしていきましょう! 乾杯!」
「うわっ! いつの間に手にオレンジジュースが!」
「さっき私がこっそりとね」
私が用意したオレンジジュースで乾杯した後、ケーキを食べ始める。
甘い物好きな私からしてみればケーキは全部美味しい。だがやはりお高めなだけあって、コンビニのケーキとは違うね。
どこがどう違うかを具体的に説明しろと言われたら、私は心を鬼にして逃亡するだろう。
おもむろに私は立ち上がり、自分の筆箱をマイク代わりに口元に持って来る。
「私はもう怖がりません。傷つけるのも傷つくのもまだ怖いけど、でも戦う。友達である皆が傷つくのはもっと怖いし嫌だから。今まで攻撃を頼ってしまった分、私は頑張ります!」
「いきなりの決意表明だね」
「こう言うノリも重要かと思いまして。それに、声に出して言った方が、覚悟がより固くなるんだよ」
知らないけど。
そんな気がするだけだ。
それはそうとカオリンが漸く喋ってくれた事に喜ぶ私。リエちゃんは身を震わせて喜んでいた。
ニマニマと笑みを浮かべているので喜んでいるが顔に出さなように気をつけているのだろう。
その顔にテンちゃんが飲もうとしていたオレンジジュースをコップにブッと戻していた。
「それでは不肖私もリーダーとして宣言します。誰からも舐められず侮られず、陰口を叩いて来た方々全員見返してギャフンと言わせるチームにします! 攻撃力の面でクロちゃんに沢山頼ると思いますが、このチームを任された身として、誠心誠意努めます! なので、このチームから脱退しないで」
最後の方は涙声になり、私の方に視線を送って来た。
思い当たる節があるためにギクッとしたが、その後に二人にも視線を送った。
あの夜の事を聞かれてたかな?
「私はこのチームが好きだよ。リエちゃんがリーダーの。全然頼ってよ。私は全力で君の協力者となるから」
「アタシも出ないよ。他でやって行ける気がしない」
「僕も天音と一緒だ。きっと他のチームじゃ見捨てられた。こうしてまた、会話したり攻略できたりするのは見捨てずに信じてくれた、皆のおかげだから」
凄く恥ずかしい事を言いますねカオリンさんは!
照れ空間が構築される前にテンちゃんへ話題を振る事にした。
急に振られたテンちゃんは嫌そうな顔をしたが、立ち上がり空になったコップをマイク代わりにする。
なんやかんや付き合うテンちゃん⋯⋯ツンデレさんかな?
「アタシは物心ついた時から走る事ばかり考えてた。将来は陸上選手⋯⋯そんな夢も能力に目覚めて失った。失意の中から這い上がって今こうして立っていられる。アタシの可能性を引き出してくれて、道を切り開いてくれて、世界が広いと教えてくれた」
「⋯⋯て、照れるなぁ」
「黒霧とは言ってない」
「ふぇえ?」
何を言っているのか理解していなかったのか、一区切りした後リンゴの様に真っ赤な顔になって行く。
かなり恥ずかしい事を言った自覚が無かったらしい。
その後の言葉が詰まったが、落ち着いて深呼吸してから話し出す。
「中途半端なアタシだけど、頑張ろうと思う。自分が自分の可能性を信じて色々と挑戦するつもり。黒霧、アンタに頼らなくても十分な様に」
「酷いっ! もっと頼ってよ!」
「クロちゃん違うよ。コレは一人に重荷は背負わせない。一緒に戦うぞ。おんぶにだっこは嫌だって言う気持ちの現れだよ。デレだよデレ」
「なるほど。やっぱりツンデレさんか」
「そうそう」
「おいそこ聞こえてるぞ! 誰がツンデレだアホ!」
必死になっているところがまた⋯⋯これ以上言うと怒られそうなのでリエちゃんと黙った。
最後になったカオリンが拳を握って口元に。マイクを持っている風にしている。
ゆっくりと私達を見渡した後、枕元にある写真立てを机に置いた。
その写真はかつての仲間達だろう。
「僕はどんな時でも冷静でいられて、正確なトラップ解除を志す。二度とあんな想いしないために。僕は自分の腕を信じる。僕の腕を信じてくれる皆を信じる。⋯⋯だから絶対に、死なないでくれ」
「もちろんだよ」
「はいっ! 私もです」
「ああ」
「ありがとう。それと皆」
屈んで写真と同じ目線になる。
「僕はこの新たなチームでレンジャーを努める。敵を見つけ、罠を回避させる。でも、皆も僕の仲間だ。だからどうか、見守っていて欲しい。わがままでごめん。僕のせいで長い未来を奪ってしまってごめんなさい。皆の事、大好きだから」
涙を流して仲間達に挨拶をした。
私達はこの写真の中に見える仲間からカオリンを託された様に感じた。
だからだろう。彼女の後ろに複数人の女性の姿が見えたのだ。
それは霞。すぐに消えたが。
「良し、それじゃ次は何しよっか!」
ケーキは食べた。オレンジジュースはもう無くなってる。
2リットルのを買ったのに⋯⋯テンちゃんの飲むスピードが早かった。
次はトランプでもして遊ぼうかと考えていると、デンチョがなった。
「電子手帳?」
「うん。⋯⋯あ、呼び出した。ちょっと行って来るね。すぐ帰って来るから」
ついでにジュースの追加をしようかな。
呼び出された場所に向かうと、とても白い肌に白い髪を一つに結んだ、立ち姿が凛々しい女子が待っていた。
月明かりに照らされた彼女はまるで妖精のようだ。それだけ神秘的で幻想的。
現生徒会会長、
「お待たせ、すーちゃん。いきなりの呼び出しでびっくりだよ」
すーちゃんは私とリエちゃんの幼馴染だ。
「すまない。打ち上げでもしていたか?」
「良く分かったね」
彼女は中学一年の時に能力に目覚めたので会ってない時期がある。
それでも私が二年の時に目覚めてここに来た時、すぐに会いに来てくれた。
とても優しく、それでいてカッコイイ人だ。
「二人の事は良く知っているつもりだ。ダンジョン攻略おめでとう」
「ありがとう」
「臆すること無く戦う事はできるか?」
「うん。できるよ」
「そうか」
そんな確認がしたくて呼んだのかな?
来れば良いのに。
「なら、私のチームへのスカウトはできないな」
「元々今のチームを離れる気は無かったよ」
「だろうな。⋯⋯それじゃ。互いにこれからも精進しようか」
「うん」
すーちゃんは優しい。
私のように戦えなかった人達やリエちゃんのような能力者のために生徒会長になったのだから。
元々の学園は個人の強さを評価していた。
しかし、彼女が生徒会の座を奪い取りすぐに方針を変えた。
ダンジョンは仲間達と攻略する。だからチーム単位で評価するべきだと。
それによって個人では輝けない能力者を救済する。
チームだから輝ける能力者がいるのだから。
個人的成績は当然必要だが、ランキングなどの評価はチーム単位だ。
「すーちゃん」
「なんだ?」
「方針の変更で上級生の過半数から煙たがられてると思うけど、めげないでね」
「当然だ」
「何かあったらいつでも手伝うから、声かけてね。頼ってね!」
「ああ。その時があれば必ず最初に声をかける。ありがとうね」
すーちゃんを見送り、私はコンビニへと向かった。
彼女が私を生徒会チームに入れたがったのは、一番見下されている私を助けたかったからだ。
愛知区学園高等部最強のチームメンバーを見下す事はできないだろうから。
モンスターを倒せないお荷物だと言われる事も無くなっただろう。あくまで直接的には。
⋯⋯でももうその必要は無い。私は戦える、戦うのだから。
◆あとがき◆
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