第13話 大きな前進!
「それで⋯⋯どうしてまたテントの中に?」
「え、正式に友達になったから色々と考えようかと」
「今する事なの?」
「皆が集まる時間帯って少ないですから⋯⋯」
リエちゃんと立花さんの会話を遠くから聞いている。
元から友達のつもりだった私からしたら何かが変わるとは思えない。
しかし、その考えはリエちゃんの言葉で消える事になる。
「友達になったんだから、名前で呼び合わない⋯⋯って思いまして。苗字だと未だに距離を感じるので」
「確かにっ! 私は鬼賛成!」
「僕も賛成。それと敬語も止めよう。指示出しの時に敬語だと時間ロスに繋がる。普段から敬語を止めて癖付けしておくべき」
「それは助かります⋯⋯助かる?」
三人の意見がまとまり、何も言葉を出さない立花さんへ自然と視線が向く。
何かを言いたそうだが、呑み込んで諦めたかのようにため息を吐いた。
「アタシも賛成、だけど黒霧さんの事はどう呼べば良いの?」
「クロちゃんで良いよ?」
「⋯⋯じゃあ黒霧で」
「クロちゃんそんなに嫌なの?!」
少し凹むぞ!
嘘。かなり凹む。
「それと⋯⋯や、八重にか、香織。先輩だけど呼び捨てで良いの?」
「うん。僕も天音と呼ぶ。それとクロちゃんに八重」
「私もリエちゃんで良いよ?」
「僕がその名で呼ぶにはまだ親しくないからね。適切な距離感だ。クロちゃんに関しては苗字だと距離感がある感じがするからニックネームで呼ぶ」
「嬉しいい!」
ある一人の女の子に目を向けると、彼女はスっと目を逸らした。
距離感を大切にしたいと言っていたが、私は図々しく距離を詰める予定だ。
このチャンスは逃せない。
「私はそうだな⋯⋯テンちゃんとカオリンでどうかな?」
「そんなのダ⋯⋯」
「僕は良いよ」
「良いの?!」
「ニックネームは初めてだ。⋯⋯天音はダメなのかい?」
「え⋯⋯ん〜。しょ、しょうがないなぁ。良いよ! アタシだけ漢字の読み方を変えたニックネームは気になるけど」
二人からの許可が降りた。
天音さんの事をこれからテンちゃん、香織さんの事をカオリンと呼ぶ事にしよう。
それにしても、顔を赤らめながら許可するテンちゃんは可愛いな。
「⋯⋯えっと、私もお二人の事をニックネームで呼んで良いでしょうか?」
恐る恐ると言った様子でリエちゃんは二人に申し出る。
カオリンは全然オッケーの雰囲気を出して、テンちゃんの答えを待つ。
カオリンは最近まで自分の世界に囚われていたとは思えない程にフレンドリーだ。元々こう言う性格だったのかもしれない。
だけどニックネームに前向きじゃないテンちゃん。さぁ、彼女の答えは?
緊張の瞬間。今かと今かと、全員の注意深い瞳がテンちゃんを狙います。
「⋯⋯え、と。怖いんだが? 良いよ別に! 香織は?」
「僕はまだ距離感が⋯⋯手順を大切にして行くよ」
「そう!」
全員の距離感が七百歩くらい近づいたって事で攻略を再開する。
まだ怖いと思うけど、この戦うと言う覚悟が強く決まっているうちに初の攻略成功をしておきたい。
私の意志が揺るがず、能力解放が使える今の段階で。
移動中、テンちゃんが私にこっそりと近づいて来た。
「世界は平等、現実は理不尽って八重の受け入りなの?」
おっと恥ずかしい事を思い出させるね。
「そうだね。私が苦しい時に励ましてくれた言葉の一つなんだ」
現実は家柄や両親に縛られて訓練の日々。辛くて苦しかった。
私を助けてくれる人は誰もいないって諦めた時に手を差し伸べたくれたのだ。
世界は平等だから、助けはある。救いはある。
私にしかできない事がこの世界には絶対にあるんだって、リエちゃんが言ってくれた。
懐かしい思い出だ。
数時間後、このダンジョンのボスだと思われるモンスターを発見した。
リエちゃんがモンスターの情報を脳内フォルダから引き出して説明してくれる。
「
大きさは通常コボルトの二倍くらいかな?
私が覚悟を決めた戦いから一戦もせずにボスの所までやって来れた。その影響か、ボスの周りには数え切れないコボルトが蔓延っている。
私が能力解放して暴れれば対処は可能だ。コボルト一体はそこまで強くない。
「あれ?」
覚悟を決めたはずなのにな。手が震える。
不安か、それとも恐怖か。
そんな私の手をリエちゃんが優しく握ってくれる。気づいていたのかもしれない。
「モンスターを倒すのは怖いよ。自分も倒される可能性がある。今でもその気持ちは変わらない」
「え?」
モンスターを蜂の巣にするリエちゃんもモンスターを倒すのは怖いらしい。
知らなかった。
「恐怖を持つのは悪い事じゃない。慎重でいられる。でも呑まれてはダメ。恐怖に支配されたら抗う事もできない。私は戦いを強制しないよ?」
「リエちゃん、ありがとう。私は大丈夫。戦える。怖いからって逃げない」
「頼りにしてるよ」
「まっかせてよ!」
私は戦うと決めた。リエちゃんを手伝うと決めた。
躊躇うな。恐れるな。
私ならできる。心を鬼に。
「能力解放【鬼】テンちゃん、真っ直ぐついて来て!」
「え?」
「信じて!」
私はエルダーコボルトに向かって一直線に進む。
正直もう帰りたい。だから最短で倒す。
「道を開けろ!」
鬼の腕力は想像を絶する破壊力を持つ。
薙刀を振るえば数体のコボルトを一振で屠れる。拳一つで肉体を粉砕させる。
ボスに向かって一直線の道を作り出す。
「ああもう!」
テンちゃんは私の作った道を全力で真っ直ぐ走って来る。
指示出しを待たなくてごめんねリエちゃん。
「能力発動【意志共有】。か、カオリン。敵の位置を常に頭に浮かべて!」
「うん。能力発動【敵感知】」
頭の中に流れるのはカオリンが能力で把握した敵の場所。
考えた事が脳内に直接流れる。
『私がサポートする。テンちゃんは気にしないで前へ。カオリンは敵の位置に集中!』
短期決戦に決まった。
道を開けてボスの目前へと迫った。
「グオオオオオ!」
「はあああああ!」
振り下ろされるマチェットナイフに向かって攻撃を仕掛ける。
弾くのではなく完全な破壊を意識して。
走る速度も上がっている私だが、倒しながら進んでいるので本気のスピードを出せていない。
つまり、本気の火力が出せない。
「はああああ!」
しかし、それは些細な問題。
黒霧の技と鬼の腕力を持ってすれば、武器の破壊は造作も無い。
走るのが得意でずっと練習して来たテンちゃんなら、既に私の背後に迫っている。
「スイッチ!」
攻撃役の交代だ。気持ち的に叫んだけど、練習してないのであまり意味ないだろう。
「何よそれ!」
意味伝わらなかったしっ!
「能力発動【火系統魔法】『ファイヤーボール』」
顔面に杖を突き付けて、ゼロ距離魔法を発動した。
相手の顔が弾け飛び、衝撃によってテンちゃんも吹き飛ぶのでキャッチする。
「ご無事ですかお姫様?」
「ふざけてんの?」
「⋯⋯こう言うノリは嫌い?」
「苦手」
「そっか」
しょぼん。
ボスは倒れて魔石になる。
ボスを倒せばダンジョンは完全攻略となる。
生き残っているコボルト達が魔石へと姿を変える。
天井からガラスの破片の様な物がパラパラと落ちて来る。
ダンジョンの崩壊が始まった。
崩壊した場所から外に出たら帰って来なかった科学者が過去にいた様で、研究は行われていない。
「魔石を拾えるだけ拾って帰ろ!」
「まだ私の能力が使えるから余裕を持って良いよ」
魔石を回収してから全員を抱えて、ダンジョンの外へと向かって全力疾走。
53班、初のダンジョン攻略を達成した日である。
「防御も攻撃も一人でこれからやるんだ。負担が大きくなる。大丈夫か?」
「カオリン安心してよ。私は強いからね」
「ああ。それは十分知らしめられたよ。でも、慢心するなよ。油断に繋がる。二度と、僕にあの経験をさせないでくれ」
「もっちろんだよ!」
こうして晴れやかな気持ちで私達は帰った。全員して学園へ移動中爆睡した。
“弱いしつまらんと思って見なかったけどこれからは観ようかな”
“黒霧が強いな。こいつ一人で良いじゃん”
“ただのタンクだと思ったけど違ったのか”
“一人に頼って全員がサポーターになる未来がありそう”
“ホンワカな幼馴染がいるチームじゃ無かったのか”
“チャンネル登録と高評価しといた。ボーナスは期待して良いんじゃないか?”
“能力解放行けるんだな。素直に凄い。生徒会チームだけじゃなかったっけ?”
“愛知区の攻略学園なら他にも解放まで行ける人全然いるぞ。他の場所でもちゃんといるぞ”
“ちなみに生徒会チームは覚醒まで行ってる”
“愛知区の現生徒会チームってやばいんだっけ?”
“やばいぞ。高等部進級と同時に武力で生徒会の座を手に入れた”
“生徒会チームの話はスレでやれ”
◆あとがき◆
お読みいただきありがとうございます
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます