第12話 能力解放
これは雨の日、最近の出来事だ。
施設で練習していると黒霧さんとすれ違い、訓練所へと向かって行く姿を見た。
気になり何をしているのかと思って後ろを追いかけた。断じてストーカーでは無い。
訓練所ではゴーレムを使った訓練をしているらしく、どんな様子か覗いた。
その日の授業でやった内容だったが、黒霧さんはこの授業は毎回教師に連行されるためゴーレムと戦った姿を見た事がなかった。
何のレベルで数は何体か確認した。
「⋯⋯えっ」
言葉に成らない声。衝撃の内容にアタシは言葉を詰まらせたのだ。
レベル10、数10の最高難易度。学生で挑める最高難易度の青迷宮の中でも難しいと言われるレベルと同じ。
そんなゴーレム達相手に黒霧さんは薙刀一本で正面から突っ込んだ。
どれくらいの戦闘なのか気になった。レベル10なんて見た事無かったから。
でもそんなの分からなかった。戦闘が見れなかった。
一分にも満たず全滅したのだ。ゴーレムの上に立つ黒霧さんが印象に残ってる。
◆
コボルトの大群に襲撃されて、このままでは敗北してしまう。
これをピンチと捉えて助けが来る可能性もあるが⋯⋯それまで耐えられるかも分からない。
黒霧さんが立ち上がらない限り、全滅は目前だ。
どうやったら戦わす事ができるの?
⋯⋯はは。そうじゃないか。
「黒霧さん。友達になろう」
「え?」
「友達は強制しない。貴女がアタシに新しい世界を見せてくれた。だけど、強制はしなかった。だからアタシも、強制はしない」
もしもここで終わるなら、それまでの運命なのだろう。
だけど最後まで足掻いてやる。
魔法は後二回使える。魔法が使えなくても杖で殴れば良い。
竜宮院さんと八代さんの火力頼りだけど、やるしかない。
⋯⋯連携の練習をしてない事を後悔する事になるなんて、昔のアタシは信じないだろうな。
◆
リエちゃんが矢を受けてから私の足は震えて立てなかった。
怖い。
傷つけるのも傷つけられるのも。
リエちゃんが傷ついた現実が辛くて怖くて、背けたくなる。
そんな時に立花さんの「友達になろう」と言う言葉が届いた。
私が戦えない現実を受け入れて、諦めたのだろうか。強制しないらしい。
「うぐぅ」
「リエちゃん!」
新たな攻撃をリエちゃんが受ける。
このままでは皆死んでしまう。なのに、どうして私は動けないんだ。
傷つけるのは怖い。倒すのも凄く怖い。想像するだけで全身が震える。
『でもこのままじゃ、友達が死んじゃうよ。守ってくれたリエちゃんを守るって、決めたじゃんか』
心の中の私が冷たい声音で耳元に囁く。
『親の暴力から勇気を振り絞って助けてくれたのは誰だ? 鬼と蔑まれ誰からも距離を置かれた中、ずっと隣にいてくれたのは誰だ?』
魂を逆撫でする冷淡な声に私の体温は下がる。
『ほら見ろよ。リエちゃんの腕から、足から流れる血を。お前が戦わないから親友が傷ついてるんだ。このままでは死ぬだけだ』
嫌だ。皆死ぬのは嫌だ。
『立て。戦え。その力があるだろ。友が死ぬか敵を殺すかの二つだ。心を鬼にしろ』
冷たい私が霞の様に消えて行く。
「心を⋯⋯鬼に」
産まれたての小鹿の様に震える足で必死に立つ。
戦わないと⋯⋯死ぬのは皆だ。そんな現実は傷つけるよりも辛いし怖い。何より嫌だ!
自分が傷つくのはもう慣れた。だけど、友達が傷つくのは世界で一番大っ嫌いだ。
だから⋯⋯私は。
「クロちゃん! 現実は理不尽だけど世界は平等だよ。だから、クロちゃんの恐怖を私も等分で背負う! 私がクロちゃんの分まで戦うんだ!」
皆のお陰で倒れるコボルトの数は多い。しかし敵の数はその倍以上。
押し切られるのは時間の問題。
世界は平等、現実は理不尽。
世界は平等だから、後は自分達次第。リエちゃんが私の恐怖を背負ってくれると言ってくれた。
共に現実と言う名の理不尽に立ち向かってくれる。
リエちゃんの言葉により、勇気を貰った。私の覚悟は決まった。
今のままの私はもう嫌だ。皆のように私も変わるんだ。
前に進むんだ。皆を守るんだ。
皆を傷つけるのは⋯⋯絶対に許さない。
「心を鬼にしろ!」
心臓の部分に手を当て、昔の私を呼び起こす。
解放しろ。己の心を。己の力を。
「能力解放【鬼】」
ドクン、心臓が跳ねた様に強く鼓動する。
髪の毛がお尻辺りまで伸びて、伸びた分は赤黒い色をしている。
額から二本の角が生える。
「ヒュー」
沸き起こる破壊衝動を抑えて薙刀を握る。
コボルトの数と位置を把握して薙刀を構える。
「皆、しゃがんで!」
鬼の状態でいられる時間は二十分。終わると体力が空っぽになって倒れる事になる。
短期決戦。
「はっ!」
一閃、それだけで周囲にいるコボルトの全てを容赦無く斬り裂いた。
肉を初めて斬った。骨を初めて斬った。それもあっさりと。
込み上げるのは恐怖心。自分の犯してしまった罪が蘇る。
「黒霧⋯⋯」
そんな時、八代さんが私の髪の毛を掴んで意識を向けさせる。
「トラウマは簡単に消せない。その時間に囚われて動けないかもしれない。⋯⋯だけどな、立って前に進めるんだ。今度は僕が君の背中を押す。だから、怯える必要は無い」
「⋯⋯はいっ!」
その後はもうただの殺戮劇だったと思う。時間にして二分にも届かない。
このチームにサポート系の能力が二人いて、四回近距離の魔法系が一人。
火力不足が懸念されたこのチーム。
それは全てバランス調整とリエちゃんと言う幼馴染の影響。
私一人がこのチームの攻撃力を大きく上げている。
チーム編成をしたのは学園長。私の事を知っている。
私には戦うための技術、知識、能力が備わっている。
必要なのは覚悟と勇気。その二つを仲間達から貰った。
モンスターを倒すのは今でも怖いし嫌だ。
だけど。
「戦うのが能力者の義務。私は友達を守りたい。⋯⋯そのためならば、この身を鬼にしよう」
能力を解除すれば角は無くなり髪も元に戻る。衝動も収まる。
ただ、倦怠感が一時的に襲って来るけど。
大量に転がる白色の魔石。
「黒霧さん、やっぱり強いじゃん」
「クロちゃん、大丈夫?」
「良く頑張った」
私は皆の元に駆け寄り、頭を下げる。
「今まで逃げてごめんなさい。ずっと戦わずにいて、ごめんなさい。そのせいで皆に怪我をさせた」
リエちゃんも立花さんも八代さんも怪我している。私が戦うのを嫌がったせいで。私のわがままのせいで。
「⋯⋯でももう、躊躇わない。また、皆を守れる前衛にいさせて欲しい⋯⋯ですっ!」
「私は⋯⋯」
「アタシは良いよ。むしろ、その覚悟が嬉しい。頑張ろう」
「うん。僕も一緒。怖い過去は僕にもある。怖くなったら、一緒に励まし合おう」
「私は⋯⋯」
「ありがとう、ございます」
再び頭を下げる。
皆の気持ちが嬉しくて、涙が流れて来てしまった。感動の涙だ。
不思議と止まらない。
「あ、あの。私も喋ってよろしいでしょうか?」
「「「どうぞどうぞ」」」
「息ぴったり⋯⋯ごほん」
拳を口に近づけてわざとらしく咳払いをする。
「私はクロちゃんの意志を尊重する。戦う覚悟をしたと言うならありがたいし頼らせて貰う。もちろん、私もサポートするからね」
「うん。よろしくねリエちゃん。⋯⋯それともリーダー?」
「は、恥ずかしいから面と向かってそう言わないで」
皆して笑い出し、区切りがついてから魔石の回収に入った。
⋯⋯そこで私はとても重要な事を思い出した。
「立花さん」
「ん?」
「友達になろうって言いましたよね?」
「うん。⋯⋯黒霧さんの目的はそれだったでしょ?」
私は立花さんに近づき、両肩をガシッと掴んだ。
「私達って友達じゃなかったって事! あんなに良い雰囲気だったのに?! 好感度100は行ってると思ってたのに!」
「し、知らないよ⋯⋯凄い剣幕だな。さっきみたい。⋯⋯それだと嫌だ?」
「なんか悔しいけど友達になれるなら良しです! 八代さんは!」
「え、僕はドライじゃないから元々そのつもりだよ?」
嘘だって目を皆で八代さんに向けた。
「⋯⋯なんだよ」
能力解放について問い詰められ無かったのは、正直意外だった。
でも、だからこそ、私もこのチームで良かったと心の奥底から思える。
“たまたま暇潰しで仕事中流し見してたら解放したんだが?”
“まじか。まだ高校一年だよな?”
“幼い頃に能力に目覚めていたとか?”
“それでも凄いだろ”
“力に振り回されず扱えるのか”
“解放できるんかコイツ”
“鬼ってシンプルやな”
“発動の時点で力と速度を上げてる。その二つを強化した状態なんかな?”
“目が怖かった”
“白迷宮とは言えかなりの数⋯⋯50は超えてたよな? それを一人で殲滅すると”
“広範囲の魔法でも無い、ただのパワーのゴリ押しか”
“まさかの脳筋能力者だったのか”
“これは評価を改めないとな”
“まじか”
“さすがに予想外”
“人が増えていく〜”
◆あとがき◆
お読みいただきありがとうございます
ここからこのチームは飛躍するでしょう
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます