第10話 成長した者としてない者

 「皆さんご注目ください!」


 部屋に全員が集まっている時、リエちゃんが自信満々の様子でスマホを掲げで皆の注目を集める。


 画面が小さくて見にくい問題が発生して、タブレットの方に切り替えた。


 タブレットは主に授業のノート、教科書の役割をしている。


 「ん〜」


 私の視力で捉えて、何とか言いたい内容が分かった。


 「この度、白の自然型ダンジョンの予約が取れました!」


 「「「おー」」」


 人気になりすぐに予約は奪われてしまう自然型ダンジョンが取れたのは凄いだろう。


 だけど、それと攻略できるかはまた別の話だ。


 それに自然型の経験は少ないので慣れていない。


 普段よりも厳しい戦いになるのは予想に難くない。


 「でもどうやって予約したの?」


 「立地が良くなくて徒歩で一時間の移動があるから、超不人気だったの」


 ニコニコ笑顔のリエちゃんに私含め三人は言えなかった。


 そこまでする必要は無いんじゃないかと。


 きっとリエちゃんは自然型のダンジョンに憧れがあったのだろう。うん。


 私達も特に意見を出している訳では無く、リエちゃんに任せっきりなので文句は言えない。


 武器を持って一時間の移動か。


 「どんな秘境にできてんのよ全く」


 「大昔は無かった大穴みたい。神災時にモンスターにやられた場所なんじゃない?」


 「もう埋めれば良いのにね」


 立花さんの意見に賛成だ。


 能力者が集まれば大穴くらい埋めるのは造作も無いだろう。


 「既に利用できるように改築されてるからできないらしいよ。と言う訳で明日土曜日は朝食後すぐに移動します」


 「はーい」「分かった」「うん」


 やって来たダンジョン。


 白色のゲートを囲むのは草のような芝生に近いモノだった。


 ダンジョンの中が反映されるゲートの見た目。


 事前調査の情報でもあったのだが、中は草原らしい。


 「念の為に隠密テントを購入して持って来たし、準備は良いね!」


 リエちゃんが張り切ってる。


 隠密テントは敵からの認識が甘くなる力を持った道具だ。


 チーム全員で出し合い購入したアイテム。中古で耐久性が高い訳じゃないが、我がチームでは限界のお値段だった。


 超不人気の自然型ダンジョン。草原だから四方八方から囲まれる可能性もある。


 十分に注意しよう。


 「行きます!」


 ダンジョンに入り周りを見渡すが、敵らしき姿は見えない。


 自然型の特徴を大きく活かすには、エネミーとは遭遇せずにボスを叩く事だ。


 どれだけバレずに移動して攻略できるか。


 「⋯⋯それにしても」


 「うん。これは⋯⋯」


 「凄いね」


 「僕は初めてじゃないから⋯⋯」


 八代さん以外は感動している。


 ダンジョンと言う謎に包まれた場所。


 ゲートを通り入るその先に広がっている草原。


 奥はまるで見えず青空すら広がっている。結界らしくて破壊もできずに脱出もできないらしい。


 踏み締める地面は迷宮型とは違い、柔らかい土と草の感触だ。


 「これあれだな。水系の能力者がいると泥になって足元を疎かにするヤツだ」


 私の様な前衛から見たら整備されてない地面は要注意。


 新たな世界のような場所に入り感動している私達は八代さんの「そろそろ移動しよ」に現実に戻される。


 リエちゃんの指示の元、ゲート正面から真っ直ぐ攻略して行く。


 地図は作って行くがどこまで役に立つか。


 「太陽は無いけど明るい⋯⋯外の天気と時間が反映しているんだっけ?」


 授業でやった気がする。外が夜ならここも夜だ。


 「黒霧さん。あまり余所見は良くないよ。アタシらも警戒しないと八代さんの負担が大きくなる」


 「そうだね。ごめんなさい八代さん」


 「気にしてない。僕も初めての時はワクワクしたさ⋯⋯だけど気は緩めちゃダメだよ。遮蔽物も少ないし壁も無い。囲まれたらかなり厳しい戦いになる」


 それはきっと経験から語る言葉なのだろう。


 八代さんが言うからにはそうだ。重みが違う。


 改めて気を引き締め、私達は移動を続ける。


 歩き慣れない地面のため普段よりも体力の消耗が激しいのか、リエちゃんの歩くペースが落ちて来る。


 敵は何回か避けて移動している。


 「リエちゃん。ちょうど木があるし休憩しない?」


 「い、良いかな?」


 「アタシは大丈夫」


 「僕は休みたい」


 満場一致で休む事が決まり、リエちゃんを座らせる。


 私は木の上に登って遠くを警戒しておく。


 「望遠鏡とか欲しいな。いつか買おう」


 「ソレ、いつになっても買わないやつじゃない?」


 「ほ、欲しい物リストに入れておけば忘れないよ。⋯⋯多分!」


 八代さんのツッコミにオドオドしながらも返事をする。


 休憩してから十分、三体のコボルトがやって来た。


 小学生並みの身長に狼のような外見、だけど二足歩行で武器は錆びたマチェットナイフ。


 錆びているとは言え刃物だ。


 「錆びてて斬れ味は悪そうだけど⋯⋯逆に毒にもなるかも」


 「攻撃を受けないのは大前提。クロちゃん、防御をお願い」


 「もちろんだよ」


 コメントを見ていた電子手帳を懐にしまう。


 “戦えよ”

 “退屈なんだが?”

 “モンスターを避けるのは仕方無いけどさ、やっぱ暇だな”

 “宝箱とか無いわけ? はよリタイアしろよ”


 “自然型は危険度が上がるイメージがある。危険じゃない?”

 “リタイアするに一票”

 “程々に頑張ってね”

 “命に大事にだよ”


 珍しく三桁に届く同接に数々のコメント。それを頭の隅っこに追いやる。


 十分休憩ができたリエちゃんは息が整っており、しっかりエイムを合わせている。


 「さて、行きますか」


 木の上から跳んで正面に降り立ち、コボルト達のヘイトを集める。


 これでも私は武術を幼い頃より刻まれた女だ。


 三体程度かつコボルトレベルならば問題ない。


 白迷宮は最も簡単で私達以外のチームは攻略実績もあるのだ。


 リエちゃんの目標達成のために、この程度の奴らに遅れは取れない。


 「右の奴は僕が殺る」


 「分かりました。立花さんの魔法は温存、距離がある内に一体は倒します」


 私の横を通り抜ける弾丸が左側のコボルトの顔を撃ち抜いて行く。


 それが分かったら腕を前に出して防御しながら私に迫る。


 「来い」


 私が攻撃に対処するため構えていると、全力疾走の二体が左右を抜けて行く。


 「⋯⋯へ?」


 コボルト達の狙いは一体撃破したリエちゃんだった。


 少し考えが甘かったか。前に出ている奴よりも仲間を倒した奴を先に殺るらしい。


 「でもさせない。能力発動【俊足】」


 振り下ろされるマチェットナイフを防ぐ。


 能力を使わずともパワーは私の方が上である。


 攻撃を流しつつ体勢が崩れた所を弾き飛ばす。


 「ナイスっ!」


 飛ばしたコボルトが立ち上がる前に八代さんが首にダガーを突き刺す。


 太い血管を切断して絶命させ、残りの一体は攻撃を防御しているタイミングで立花さんが杖で殴る。


 ゴンっと言うかなり鈍い音が鳴った。


 「げっ」


 当然それで倒れるモンスターでは無く、ヘイトが立花さんへと移る。


 向かう瞬間に足元に薙刀を転がし、それを踏んだコボルトはコケた。


 ガオっと怖い顔とは裏腹に少し可愛らしい鳴き声を出しながらコケた。


 「これで最後!」


 リエちゃんが立ち上がらないようにコボルトを片足で強く踏み、脳天に鉛玉をプレゼント。


 スタイルもルックスも抜群なリエちゃんの足踏みはある層に一定の需要がありそうだな、とかくだらない事を考えていると八代さんの顔が曇る。


 「囲まれた。数は二十を越える!」


 「嘘!」


 「これは先行隊だったか」


 「えっと⋯⋯しっかりしないと。⋯⋯ふぅ。魔石を回収して脱出し逃亡します。まだリタイアはしません!」


 「「「了解」」」


 リエちゃんの指示に従って一方向に猛ダッシュ。


 最初に見えたコバルトをリエちゃんが倒そうと銃を構えるが、今回のコボルトは盾を持っていた。


 「盾ごと貫く」


 連射して木製の盾を破壊しコバルトを倒す事に成功はしたがまだ数がある。


 しかも囲まれた。


 「ちっ!」


 「立花さん、魔法を削った場所にお願いします」


 「分かった」


 私は接近戦に持ち込んで来るコボルトの攻撃から皆を守る。


 私なら、できるはずだ。


 守って他の誰かが倒す。今までのように。


 「はぁはぁ」


 「げっ」


 「八代さん!」


 私の防御が間に合わず、八代さんの方に一体のコボルトが。


 そいつが凶刃を振りかざす。


 「止めろおおおお!」


 「ぐっ」


 振り下ろされた斬撃が襲ったのは立花さんの背中だった。


 八代さんを身を呈して守ったのだ。


 「立花さんっ!」


 「なんで⋯⋯」


 「アタシの方が大きいからね。致命傷にはならんさ」


 「クロちゃん守りが薄くなった。皆を抱えてそこから逃げて!」


 「⋯⋯え? あ、う、うん!」


 斬られた立花さんを見て動揺していた私はリエちゃんの指示で我に返った。


 皆を大急ぎで抱えて、リエちゃんと立花さんが倒して数の減った場所から逃げる。


 生暖かい液体が私の手に当たるが、気にする余裕は無かった。


 数分走り見えなくなった辺りで皆を降ろし、私は応急処置を始める。


 八代さんはテントを建ててくれる。


 「ごめんなさいごめんなさい。私の、私の力不足で⋯⋯」


 「違うよ。数が多かった。どうしようもない」


 「で、でも背中が⋯⋯」


 「傷は浅いし平気だよ。帰ればちゃんと治るし」


 「で、でも」


 「あーもう! 痛いけど平気だって! 黒霧さんがそんなんじゃ先に進めない!」


 両手でパチンと私の頬を挟み、グリグリと動かす。


 「ふぇ?」


 立花さんはまだ先に進むつもりなんだ。


 攻撃を受けて痛いし怖いはずなのに。まだ、進もうとしてくれている。


 「僕もごめんなさい。索敵が甘かった」


 「それは戦闘中で冷静に使えなかったから仕方ないよ」


 「私も本隊の線を考えれなかった。ごめんなさい。立花さん、八代さんを守ってくれて、ありがとう」


 正面から八代さんが攻撃を受けていたら、もっと酷い結果になっていただろう。


 だからこそ、リエちゃんは感謝を伝える。


 「経験不足だから仕方ないよ⋯⋯ねぇ、普段明るい二人が暗いと不安になるから笑ってよ。ね?」


 「「立花さん〜」」


 「あーもう。泣かないでよ! ⋯⋯テントに入ろ?」


 八代さんが建てたテントに全員が入り、外を立花さんを除いた皆でローテンションを組み警戒する。


 「黒霧さん」


 「はい」


 「質問良いかな?」


 立花さんからの質問?


 「どうぞです」


 「⋯⋯どうして君はモンスターを倒さないの?」





◆あとがき◆

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