第9話 魔法が使えないなら殴れば良い!

 水曜日、今日の訓練授業はゴーレムを使ってのモノとなっている。能力の使用は許可される。


 ただし、解放まではしてはならない。


 能力は覚醒、解放、発動の三段階で区切られている。覚醒が一番上。


 そのため、元は覚醒状態で能力に目覚めて扱いやすい様に力が封じられている⋯⋯と言う仮説がある。


 退屈な座学から解放されたらと思ったらこの授業。


 辛い訳では無いが、私はぼっちになるのであまり好きでは無い。


 ゴーレムを使っての訓練は基本的に個人の戦力を測る時に使われる。


 「黒霧、来い」


 訓練によって担任が変わる。


 ゴーレム訓練の担任は万が一暴走しても対応できる様にかなり強い人がなる。


 私はその人とマンツーマンで勝負する。


 ゴーレムにはレベルと個数を設定できるのだが、どちらも最大は10となっている。


 個数10をクリアできたら次のレベルに行くと言う流れが一般的だ。


 ◆


 「頑張ってね竜宮院さん」


 「頑張れ」


 「言い難いと思うので、八重で大丈夫ですよ」


 立花さん達に見送られながら私は訓練所へと入る。入ると同時に能力発動許可が降りる。私には意味無いけど。


 訓練用アサルトライフルに込められている弾丸はゴム弾で実弾では無い。


 詳しく知らないが、魔力的な改造が施されているため実弾と差程変わらない。


 訓練所を破壊しないための処置である。


 訓練用ゴーレム専用の弾だと考えれば良いだろう。


 「お願いします!」


 二体のゴーレムが起動して私に向かって迫って来る。


 接近戦は苦手なので片方を潰すべく銃口を向けて引き金を引く。


 私のゴーレムのレベルは2。1はとても簡単で乱射したら終わる。


 だけど2からは少し変わる。


 『防御』を扱う様になるため接近される前に倒す事が難しい。


 その防御も甘いので狙いがしっかりしていれば⋯⋯一体は倒す事はできる。


 問題がその後。


 「わっ!」


 ゴーレムの横薙ぎパンチを転がって回避する。


 体勢が悪い状態で撃つのは危険なので逃げる。


 詰められたらハンドガンに切り替えた方が戦いやすい。


 「ヒィ。速いよ!」


 全速力で逃げたのだが、既に後ろには攻撃に入ろうとするゴーレムさんの姿がある。


 振り返って撃つには遅い。


 制服の耐久性を信じて一撃被弾する。


 利き手側じゃない左側で受けるように体位を微調整。


 「あいった!」


 痛みに悶えている暇は無い。


 歯をグギギと強く締めて我慢し、振り返り狙いを定める。


 訓練ゴーレムの弱点は脳天に埋め込まれた制御システムの核だ。


 それを破壊すれば動かなくなる。


 「弱点ガードはレベル2に要らないでしょ」


 ハンドガンの火力は申し分無かったが、ガードされ中心から狙いが外れた。


 しっかり弱点を守るのでゴリ押しは難しい。


 ライフルを構えて照準を合わせた瞬間には次の攻撃が飛んで来るだろう。


 金欠で閃光弾とかの道具が買えないので訓練でも使えないのが歯痒い。


 「ああもう! 片手でポンポン撃てる映画の人達って何なのよ!」


 牽制射撃しながら距離を離す。


 反動の少ない銃を選んでいるが、体勢が適当なので当然命中しない。


 そもそも反動で結構手首とか痛くなる。


 身体強化系の能力者なら全く問題無いんだろうが、生憎と私は違う。


 映画の人みたいに二丁拳銃とか夢のまた夢だ。


 「弾切れか」


 リロードを手早く終えて構える。


 照準を合わせるのは随分と慣れたモノだ。


 後は盾となる手を破壊しながら核を破壊してクリアするだけ。


 レベル2の個体だからまだ行けるが、上のレベルになると硬くなりそれも難しくなる。


 それにまだ三体目も行けない。


 これでも限界なんだ。


 「壊れろ壊れろ!」


 私の気持ちを言葉にして吐き出し、とにかく撃つ。


 ガードしている腕を破壊して、脳天を貫いた。


 訓練終了となり、ゴーレムを回収する係員が入って来る。


 「はぁ。疲れた」


 ◆


 僕はレベル3を三体で訓練を行う。能力は使えるが意味は無い。


 「頑張って八代さん!」


 「頑張ってください」


 「うん」


 仲間に背中を押されて訓練所に入る。懐かしい感覚だ。


 僕はトラップ解除や索敵のレンジャー的ポジションだ。


 しかし、メインアタッカーが中途半端なチームなので僕も火力枠に入る。


 「どこまで動けるかな⋯⋯」


 僕のメイン武器はダガー。そして投擲武器だ。


 接近戦は人並みにはできるが、強化系能力者には何十歩と劣るだろう。


 ゴーレム三体がやって来る。


 高さは180センチと大きめの人間サイズ。人型である。


 脳天のコアを破壊する事を意識している竜宮院だったが、別にそれを破壊する必要は無い。


 コアから伸びる導線を使って全身を操っているため、導線を切れば活動できずに倒した判定になるのだ。


 脳から全身に繋がっているため、導線が集まり破壊しやすい場所がある。


 首だ。


 頭は硬いが曲がったりする首は柔らかく作られている。


 数が多いのは不利に見えるが、僕のようなチビは数が多い方が有利にもなったりする。


 搭載されているAIがレベルによって賢くなるので、レベル4からは難しいかもしれないけど。


 三体同時に襲って来るので近寄せてから行動する。


 各々の手が伸びて来る。


 股をスライディングで通ると、手を伸ばしていたゴーレム達がぶつかり合う。


 転がった瞬間に首にダガーを突き立てて切り裂き行動不能にする。


 脳であるコアは活動しているが、命令を出しても身体は動かない。


 それを素早く行う事で二体は倒せたが、立ち上がるのが早かった最後の一体は残った。


 距離を離して追いかけて来るゴーレムに集中する。


 「今っ!」


 ゴーレムがパンチを繰り出した瞬間に前方へ回避する。


 曲がる部分、関節の所はゴーレムの弱点。


 正面は硬いので裏側から攻める。


 膝を攻撃して導線を切断。


 動こうとしたら足が動かないのでバランスを崩して倒れる。


 「コレで終わり⋯⋯」


 この感じでどこまで行けるか分からないけど、訓練用ゴーレムならこの流れで倒せる。


 順番にやっているが、余裕そうなら三体程一気に数を増やすのもありだろうか。


 訓練所を出る。


 「立花さん、頑張ってね」


 「はい」


 「立花さん。ファイトです!」


 「行って来る」


 ◆


 アタシは攻撃方法に回数制限があるからレベル1を四体で今まではやっていた。


 だけど、自分のやって来た経験を活かすと決めたからにはそれだけじゃダメだ。


 魔法練習は当然だが、それ以外の練習も必要。


 現実逃避はもう止めた。


 ただ、一気に伸ばすのは怖かったので数を5にした。


 「ゼロ距離魔法で倒せるのは一体⋯⋯でもあれは反動があるからなぁ」


 自力でなるべく倒しながら距離を保った魔法も使う。


 ゼロ距離攻撃はタイミングを見計らってだね。


 レベル1のゴーレムは強くないので、冷静にやれば対処できるだろう。


 「はあああ!」


 アタシはいきなり魔法の準備をするのではなく特攻した。


 回避の練習をしたかったからだ。


 八代さんは攻撃のタイミングを見てしっかりと回避していた。


 それを見習って⋯⋯。


 「いっ!」


 腕を殴られて倒れる。


 すぐに立ち上がって逃げる。


 殴られる直前、恐怖により怯んでしまって足が動かなかった。


 前線で攻撃を防御している黒霧さんって、恐怖への耐性高いな。


 「痛い。この痛みに耐えて竜宮院さんは銃口を向けたんだ」


 この恐怖に勝って回避した八代さん。


 皆、凄いな。


 アタシも仲間なんだ。恐れて足を後ろに向けるにはいかない。


 「行ける。アタシならできる」


 自分を鼓舞して地を蹴った。


 攻撃に合わせて杖を振るって弾く。


 「これも、痛い!」


 でも我慢だ。


 「能力発動【火系統魔法】『ファイヤーボール』!」


 ゼロ距離で魔法を使って爆発を起こす。


 この反動でアタシも後方に吹き飛ぶが、周囲も巻き込む事ができる。


 一体撃破、二体にダメージを与えられた。


 「はああああ!」


 杖で殴ったり、タイミングを見て魔法を使って、ゴーレムを全員倒した。


 杖殴りで分かった事、杖は丈夫。


 ◆


 授業が終了したので皆の所に帰る。


 「立花さん大丈夫?!」


 「うん。大丈夫。痛いけど」


 かなりボロボロの立花さん。普段はこんな事無いのに。


 ゴーレムのパンチでも焼け跡のような黒っぽく成る事は無いと思うんだけどな。


 でも、立花さんの顔は清々しい。


 その日の夜、私もゴーレムと戦いたくなったので訓練施設へとやって来た。


 授業で使った場所だ。


 「あれ、立花さん?」


 ランニングマシンを使っている立花さんと遭遇した。


 今日は雨なので、室内での練習かもしれない。


 「黒霧さん⋯⋯」


 「クロちゃんで良いよ」


 「黒霧さんも訓練?」


 「⋯⋯そう。皆がやっている事を私もやりたいからね」


 私は係員に頼んでゴーレム訓練を行った。




◆あとがき◆

お読みいただきありがとうございます

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