第8話 スカウトされた?

 「お、攻略新聞が更新されてる」


 掲示板に張り出されている新聞部が用意する『攻略新聞』。


 どこのチームが何を攻略したとか、色々とネタを集めては張り出されている。


 左端の方を見れば私のゼロキル更新日も見れたりする。


 「このコマまだ入れてるの? クロちゃんやっぱり新聞部に抗議しようよ」


 「良いよ別に。それだけモンスターを倒した事が無いって珍しい事なんだよ」


 今回の見出しで一番目を奪うのは生徒会チームの話だった。


 学生で挑める最高難易度である青迷宮を初見攻略したらしい。


 流石は高等部最強のチームである生徒会チームだね。


 「私達も負けてられないねクロちゃん!」


 「そうだねリエちゃん。今日も頑張ろー!」


 翌日にはダンジョンに行く約束を取り付けて、今晩は一人でブラブラと校庭を散歩する。


 リエちゃんと居るのは楽しいし好きだけど、時々一人で静かな時間を過ごすのも好きだ。


 今日は他にも用事がある。


 ◆


 クロちゃんは時々一人で散歩をしたりする。


 その時の私は暇になってしまい、珍しく私も散歩をしている。


 明日は再びダンジョンに行くつもりだ。


 立花さんや八代さんとも親しくなれたし、これからもっと連携が良くなるだろう。


 「ん?」


 夜空を眺めながら散歩していると見知った影を二つ程発見した。


 ベンチに座っている。


 一人はクロちゃん。もう一人は生徒会長だった。


 白い肌に白い髪、瞳も白色でとても白い。


 1年生にして武力で生徒会を乗っ取たチームのリーダーだ。


 盗み聞きは良くないと思いながらも、内容が気になり気配を殺して聞き耳を立てる。


 「⋯⋯どうだろうか。生徒会に入るつもりは無いかい?」


 生徒会へのスカウト⋯⋯だった。


 それを聞いた瞬間、ドクンっと心臓が跳ね上がるのを感じた。


 これは不安である。


 今のままだとチームはずっと下で軽蔑の眼差しを向けられる。


 生徒会のチームに入ればそれは無くなるだろう。


 それに⋯⋯クロちゃんだったら武闘派の生徒会チームはとても合っている。


 もしもここでクロちゃんが賛成して、生徒会に入ると言って来ても私は否定しない。


 ただその場合、私達のチームの前衛が居なくなり攻略はままならなくなる。


 「⋯⋯ごめんね。私は今のチームが良いんだ」


 「今の現状がか?」


 「今の現状じゃなくてチームね。私はリエちゃんが居るチームが良い。それに今では立花さんや八代さんとも普通に話せるんだよ」


 心臓が砕かれそうなくらいに、嬉しかった。


 まだまだ未熟なチームだけど、そう感じてくれているのが心の奥底から嬉しく思う。


 「そうか。分かった。だが気が変わったら連絡してくれ」


 「変わらないよ。私は今のチームが好きだから。上に上がるから見ときなさいな!」


 「ふふ。そうか」


 ⋯⋯リーダーとしての覚悟を決めたんだ。遅すぎる覚悟を。


 クロちゃんが好きって言ってくれるこのチームをもっと好きでいて貰うために。


 私も頑張らないと。


 ◆


 翌日、今日は白迷宮に向かう。


 「武器の準備は良いですか? 後、道具も」


 私は基本的に薙刀しか持ってないので大丈夫。


 防具も部位鎧を装備している。


 「私は大丈夫」


 「アタシも問題無い」


 「いつでも行ける」


 「分かりました。それでは行きましょう」


 ダンジョン攻略にはまず、攻略する迷宮を指定し予約する必要がある。


 その次に移動用の車両と運転手の確保だ。これは簡単で難しいのはダンジョン確保。


 私達以外のチームも休日にダンジョンに向かう所は多く、混雑するのだ。


 その時はポイントを使って競り落としたり、前々から予約して固めていたり⋯⋯。


 私達は移動に時間がかかり低難易度の人気の無いダンジョンを意識しているので競う事は滅多にない。


 競売に入った場合、総額ポイントの少ない私達のチームは負けが濃厚になる。


 片道三時間の長距離移動。


 ギリギリ愛知区の学園が担当できる範囲にあるダンジョンだった。


 移動中の作戦会議も短時間で終わる。


 後は暇を持て余し各々時間を潰す。


 私は寝る。


 「今日も迷宮型か。そろそろ自然型に行きたいね」


 「自然型は人気なんだから仕方ないじゃん」


 自然型は内容次第では良い環境だ。


 内容次第ではくっそ悪い環境だけど。


 自然型が人気な理由は純粋に見栄えが良いから。配信ウケが良いのだ。


 それにボス部屋を探さずともその辺をほっつき歩いているから、迷宮型とは違うやり方でボスと戦える。


 自然環境の方が力を出せる能力もあるしね。


 「今回の事前調査ではモンスターの傾向が出て無いから注意してね」


 「事前調査が迷宮の種類だけって、生徒の命を預かる学校的にどうなのよ」


 「まぁまぁ。ピンチになればすぐにプロの人が助けに来てくれるよ⋯⋯その分獲得ポイント激減するけど」


 「ピンチにはさせないよ」


 私が前衛な限り、絶対にそんな事はさせない。


 ダンジョンに到着したので、下準備を終えてダンジョンに入る。


 見慣れた迷宮型の構造に感想なんて出るはずも無く、弱い私達を見てくれる珍妙な視聴者も極僅か。


 今日こそダンジョン攻略、と息巻いているが難しいのが現実だろう。


 立花さんの魔法を温存しつつ、リエちゃんが倒して行くしかない。


 八代さんも投擲武器で戦うと言ってくれたが、その火力はリエちゃんに劣るだろう。


 地図を作成しながら奥へと進んで行く。


 時々宝箱を発見しては中身を回収する。


 「宝箱の中身がリセットされればなぁ」


 「そんなシステムがあるなら、高難易度のダンジョンで国がやってるよ」


 「分かってるよ。ちょっとした愚痴」


 白迷宮で手に入るアイテムはポイント換算しても高が知れている。


 それでも塵も積もれば山となる精神で回収は怠らない。


 攻略を初めて三時間、八代さんが敵の気配を察知した。


 角からの距離があると言う事で不意打ちで倒す事が決まる。


 「それじゃ、私がやるね」


 リエちゃんがサブウェポンのハンドガンでしっかりと一撃一撃のヘッドショットで倒す。


 ハンドガンなのは連射して無駄撃ちを避けるためらしい。


 「⋯⋯銃声を聞きつけたのか。後ろから気配がする」


 「そこは私が対応するよ。手助けよろしく」


 後ろに走り、ゴブリンのヘイトを集める事にした。


 タイミングを見て八代さんが投げナイフを放つ。


 「おっと」


 中には私に直線で向かって来る物もあるので、まだ使い慣れてないのだろう。


 冷静に回避しつつゴブリンの攻撃を引きつける。


 「ごめん。次は当てるから!」


 「大丈夫ですよぉ!」


 ゴブリンと八代さんのミス攻撃を回避しつつゴブリンを引き止め、リエちゃんが参戦する。


 前の奴らが終わったから駆けつけてくれたらしい。


 リエちゃんの攻撃によってゴブリンの殲滅が完了した。


 「⋯⋯ふぅ」


 「黒霧さん大丈夫?」


 ゴブリンが倒れる度に顔色を悪くしていたのか、私を心配する立花さんが声をかけてくれる。


 「大丈夫だよ。ありがとう。あと、クロちゃんで良いよ。八代さんも!」


 「うん。分かったよ黒霧さん」


 「気が向けば⋯⋯」


 「リエちゃん壁を感じるよ〜」


 泣きつくとヨシヨシされる。


 「そんな事無いですよ〜よーしよし」


 順調に探索を進められている。


 精神的負荷が減ったからか、八代さんもミスをしなかった。


 「ぐっ。アタシ役立たず」


 「そんな事無いよ」


 まだ魔法を使うタイミングが無いだけである。


 「⋯⋯ッ。沢山のゴブリンが来るよ!」


 「何体ですか!」


 「分からない。密集し過ぎて。こっちに一直線で迫って来るよ」


 「一旦撤退。来た道を戻ります」


 走って逃げるがゴブリン達の方が足が速いようで姿が見える。


 見えただけでも⋯⋯二十は超えている。


 数が多すぎる。


 「⋯⋯このまま追って来るようじゃ先の探索は難しい。ダンジョンの外へ撤退します。最悪、リタイアします」


 「無理して進む事はしない?」


 「うん。今日はすごく順調だったけど、安全第一なのは変わりないから」


 私は三人を抱えて本気のダッシュで外を目指す。


 ゴブリンの先頭に向かって立花さんが魔法を放つが、距離があるために壁に命中する。


 「これじゃ牽制にもならないや」


 「大丈夫、逃げ切れる!」


 ゲートの外に出て、今日の攻略は終わりとなる。


 翌日には今回の攻略情報を利用して誰かが攻略するだろう。


 明日は残っていたら攻略、或いは休日として楽しむ事になる。


 ゴブリンを十三体も討伐する事ができたので、順調だ。宝箱も二つ発見したしね。


 しかし、ゴブリンと言う弱小モンスターに撤退した事はすぐに広まり、周りからは白い目を向けられた。


 配信のコメントを流し見で確認すると、こちらも呆れたようなコメントが多かった。




◆あとがき◆

お読みいただきありがとうございます

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