第7話 怒りの矛先
「え、リエちゃん?」
あの話を聞いた後にかける言葉じゃなくない?
そう思ったけど私は何も口出しはしない。リエちゃんなら大丈夫だと分かってるから。
「八代さんの仲間は怒ってると思うよ。⋯⋯でもそれは失敗したからじゃない!」
「⋯⋯え?」
八代さんはそこでようやく、リエちゃんの目をきちんと見た。
話を聞いて胸を打たれ、悲しみによって涙を流してうるうるとした目を。
「今の八代さんがその事を引きずって前に進めてない状況に怒ってる」
「そんな事⋯⋯」
「ある! だって仲間に庇ってもらったんですよね。私が庇った立場だったら、なんでクヨクヨしてんのシャキッとしろ! って言います!」
そこで私を見ないでください。
「八代さんの仲間は憎んでないと思います。それは八代さんの思い込みだも思います。⋯⋯八代さんは憎んで取り憑く様な仲間だって思ってるんですか!」
「そうは、思ってない。でも、憎んでるだろ。だって、まだ長い命を僕のせいで」
「確かにそれはその通りです!」
は、はっきり言うなぁ。
「でも! でも、そうじゃないんですよ。お仲間さんは八代さんが活躍する事を期待しているはずです。未来に必要だと、守りたいと思ったからこうして今、八代さんは生きてるんです」
「だから?」
「過去を忘れる事はできません。むしろ大切なお仲間さんの事は絶対に忘れてはいけません! ですが、で、す、が!」
声を張り上げるリエちゃん。
考えている事を必死に言葉にしようとしているのだろう。
「前を向かない事を喜んでいるとは思いません! 下を向いてダラダラと生きていたら、悲しむお仲間さんじゃないんですか! もちろん、私は詳しく知りませんけど!」
「⋯⋯で、でも。ずっと耳元で囁くんだ。どうしてって」
それはトラウマによる⋯⋯。
「それは単なる思い込みです! 自分のせいでって言う負い目からの捏造です! それって不誠実だと思うんです! 自分勝手にお仲間さんの事を捻じ曲げるのは良くないかと、思うんです!」
リエちゃん、必死なのは分かる。分かるけど凄くはっきり言うね!
これで関係が悪くなるようなら私とて不本意だ。
どうにかしてこの場を落ち着かせないと⋯⋯そう思った私はバカだったらしい。
八代さんはしっかりとリエちゃんの目を見ていた。そして、涙を流した。
「僕は⋯⋯まちが」
廊下から足音が聞こえた事で強制的に話は終わりとなり、ベッドに隠れる。
私も咄嗟だったので一段目のリエちゃんのベッドに侵入してしまった。
上に行くのも面倒なのと音を出したくないので、このままリエちゃんを抱き枕にして寝るとします。
音を出さないように移動できる自信はあるが、それは胸の内に秘めておく。
「⋯⋯クロちゃん、くるじぃ」
「ごめん」
⋯⋯リエちゃんの思いは八代さんに伝わっただろう。
「お疲れ様」
「⋯⋯うん」
もしも私がリエちゃんを庇って死んだ場合、それを負い目に感じて欲しくない。
ずっと下を向いて生きていて欲しくない。
忘れて欲しい訳じゃないけど、前を向いて生きて欲しい。
私達は能力者。ダンジョンを攻略する義務がある。
危険である。八代さんのように過去に囚われる人も現れる。でも、そんな人生は自由じゃない。
忘れる必要は無いし、心を変えろとも思わない。
だけど、そのとても重い過去を背負ってでも前に進んで欲しいと願う。
自由に人生を楽しんでくれないと、安心して成仏もできないよ。
心配してずっと傍にいてしまう。
これは私の意見であり、八代さんの仲間の考えじゃないけど。
だけど、命懸けで守る程に大切な友達だったらそう思ってるに違いない。
これもまた、願いに過ぎないのだけど。
翌日、今日はダンジョンでの実践がある日だった。
鉱石採取である。
ダンジョン攻略が一番重要なのは変わりないが、持ち帰れる資源は持ち帰るのも仕事だ。
ダンジョンでの資源は色々な物に活用される。ダンジョンに関する研究だったり、生活用品だったり色々。
「3年生が攻略したダンジョン、ボスを生かしての実践場か」
3年生がボス部屋前まで攻略して、資源回収兼実践場として残されているダンジョン。資源回収が終わったらボスは倒されるだろう。
運送用のトラックに乗り込み、いくつかのチームが同じダンジョンへと向かって行く。
武器の他にもツルハシと大きめの籠を持って行く。
「この中をいっぱいにしようねクロちゃん!」
「まっかせてよ! 力には自信あるよ!」
腕に力を込めて筋肉を見せる。
「うん。期待してる。だけど粉々にはしないでね?」
「善処します」
「絶対だからね!」
緑色のゲートのダンジョンに到着した。
各自支給されたツルハシと各々の武器を持ち、いざダンジョンへ!
「わあ」
迷宮型だけど自然型にも見える、神秘的と言うのだろうか?
水色のクリスタルが壁から生えており、それが大量にある。
透き通るクリスタルが光を反射して輝いている様に見える。
「僅かな光でかなり明るくなるね⋯⋯それにしても凄い量」
「何て名前のクリスタルなんだろ?」
青っぽいしブルークリスタルとか?
安直過ぎるしどうでも良いか。
「採取の基準は1キロだよ」
「目算で分からなくない!」
「だからこれを渡されたんだね」
リエちゃんが取り出したのはメジャーの様なアイテムだった。
それをクリスタルに着けて、ボタンを押すと数々の線が伸びる。
「このサイズで削れば問題ないって言う目安を教えてくれるの。⋯⋯来る前に説明されたよね?」
「⋯⋯あー、そ、そうだったねぇ。も、もちろん覚えてたよ! ちょっと眠くて半分寝てたとか、そんなのじゃないからね!」
立花さんとリエちゃんからジト目を向けられるので、咳払いで話を終わらせる。
私もそのアイテムを使って目安を導き出し、ツルハシを振るって砕いて行く。
二時間程採取して籠に詰めて行く。
私が運べば普通よりも多く一気に運べるため、まだ籠には余裕がある。
「一旦帰るのも手だけどどうする?」
「往復する時間は無駄だし、籠が埋まるまで回収で良いんじゃない?」
「立花さんと八代さんはどうですか?」
「アタシはどっちでも構わない。体力にもまだ余裕がある」
「⋯⋯僕も問題ない。地道な作業は得意だから」
皆のを意見を聞いた後にリエちゃんは判断を下す。
「いっぱいになった籠は隅っこに置いて、まだ空のを奥に持って行って採取してから、帰りましょう」
奥の方の採取を始める。
ここで私はツルハシを使うのが飽きたので、薙刀で採取しようと思う。
削る目安も段々と分かって来たので道具を使う必要も無い。
ツルハシよりも薙刀の方が扱いは慣れているし、砕ける事は無いだろう。
「私は武器を壊すのが得意なんだよ。武器の元になる鉱石だって同じだよ! 能力発動【怪力】!」
角度を意識して、少しでも欠けている部分を見つけてそこを刺突で破壊する。
衝撃が全体に広がらない様に注意して、真っ直ぐの亀裂を生み出す。
パリパリと音を立てて、綺麗に折れる。
「まずは大きな塊で砕いて、そこから小さくカット!」
スピード、パワー、テクニックがあれば金属など斬れない物では無い。
むしろ今回のクリスタルはそこまで硬度が高い訳じゃないので斬れない訳が無い。
この程度ができないなら父親とかにボッコボコにされる。冗談抜きで。
「うん。こっちの方が楽しいや」
「クロちゃん、刃こぼれには気をつけてね」
「大丈夫だよ」
次のクリスタルを破壊しようと息巻いていると、違和感のある光り方をしているクリスタルを発見する。
中を覗くと、奥に空洞が見えた。
「隠し部屋か何かかな?」
リエちゃんに一度報告してから、丁寧にクリスタルを回収し壁の中を見る。
「奥に宝箱が見える⋯⋯その周辺にトラップはあるけどモンスターの気配は無い。壁を破壊しても問題ない」
八代さんがチェックしたので、私の怪力パンチで破壊し開通する。
モンスターの気配も無いらしいが、その能力を掻い潜るモンスターがいる可能性もあるので警戒しながら宝箱に向かう。
周辺チェックを終えてから宝箱に八代さんが近づく。
「それじゃ、解除するから」
「頑張ってください八代さん!」
三十分の格闘で半分近くの解除は成功したらしい。
地面を掘り起こして罠をいくつか解除している。
「ダンジョンってこんな手の込んだトラップ用意するけど、誰がやってるのかな?」
「それもまた研究中だよね。こうやって生活が安定した様になったのも最近だから、研究の急速な進みはこれからだと思うよ」
「ふーん。ま、私達は国の軍人としてダンジョンを攻略して自由に生活するだけですがね」
「そうですね」
リエちゃんと呑気に会話していると、八代さんの様子がおかしくなる。
手が震えだしたのだ。
そろそろ終わりの合図と言う事なのだろう。
この問題を解決する事こそがチームとして前進する道となる。
八代さんのトラウマを払うのは難しい。でも、立ち止まる事はきっとお仲間さん達も許してないはずだ。
リエちゃんが八代さんに近づこうとすると、立花さんが八代さんの手を掴んだ。
「怖いんなら、無理してやる必要は無い」
「え?」
「でも自分の力を疑うのは違う。自信を持って欲しい」
「それって」
立花さんはトラップの方を見ながら、語り出す。
「アタシは自分の能力が嫌いだった。でも最近、それにも意味があるんだって思い始めたんだ。これはアタシにしかできない事だって、思える事ができる様になったんだ」
チラリと私の方を見て来る立花さん。
それが嬉しくて、ウルっと来てしまう。
我慢だ。ここは泣くところじゃない。
「八代さん、これは貴女にしかできない事だ。だから自信を持って欲しい。自信を持つんだ。自分のスキルを疑うんじゃない。⋯⋯そうすれば、なんも怖くない。八代さんの持つ能力、スキル、このチームにいるのは、絶対に何かの意味があるんだから」
「僕は⋯⋯僕は」
ポツポツと目から流れる水滴が手に落ちる。
「怖いのは仕方ない。それはアタシにはどうにもできない。だけど、自信だけなら支えてあげられる。アタシは八代さんの力を信じてる、この言葉は嘘じゃない」
「私も信じてます! リーダーとしてではなく、八重としてちゃんと!」
「もしも何かの手違いでミスしたら私が護るよ。もちろん全員。まっかせてよ」
「皆、ありがとう」
◆
僕はもう、間違えない。怖くない。
今の仲間が支えてくれている今ならば、僕は問題無く立ち向かえる。
過去は変えられない。
だから、今生かされていると言う事を噛み締めて、あの人達の分も、それ以上の活躍をしてみせる。
そう、決めた。
「⋯⋯行くよ!」
最後の解除をするために発火装置に繋がったロープを切断する。
いくつかあるロープを順番に切る。
シーンっとした時間が流れる。
「成功、した」
「やったね」
「お疲れ様です」
「わーい!」
喜ぶ皆の姿を見ると、一年前を思い出す。
「⋯⋯ぁ」
薄らとニコニコと笑っている仲間達の姿が見えた。
今の仲間では無く、過去の仲間。
皆、見守ってくれていたのだ。
「心配させてごめん。僕はもう、大丈夫だ」
でも傍にいて欲しいな。僕に勇気をずっとちょうだい。
「ありがとう⋯⋯」
過去の仲間達が霞の様に揺れ消えて行った。
でも僕の傍にいるのだろう。そう、感じるのだ。
◆あとがき◆
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