第6話 八代の懺悔
キュルル、僕にしては珍しくお腹が減ってしまっている。
まだ門限まではあるしコンビニでも行こうか。
部屋には誰もいないけど。オートロックなので気にする事ではないな。
僕はある事情により留年しており、一年と同じチームに配属された。
正直引き籠りたい。ダンジョンに行きたくない。
しかし、税金でこの様な暮らしができているのも事実。
そんな生活を続けていたらどうなるか分かったもんじゃない。
コンビニで軽食を購入して部屋へと帰る途中、廊下で二年生とすれ違う。
目を合わせない様に長い前髪を垂らして視線を遮る。
今の二年生は僕と同い年だ。僕の事を少なからず知っている。
だから関わり合いたくない。
「ん? あれ、八代じゃん」
「ほんとだ」
「外に出てたんだ。てか生きてたんだ」
「それなぁ」
僕は急いで帰ろうと横を走る。
しかし、足をガッと出されて遮られる。
「挨拶も無しに行くのは失礼じゃない?」
「ねぇ聞いてるの?」
「チッ。返事しろよ!」
僕が何も言い返せないでいると、あからさまに不機嫌になり舌打ちもする。
嫌な気分になるなら最初から話しかけれなければ良いのに。
「今って一年のチームにいるんでしょ? 確かぁ」
「⋯⋯ゴミだったような。ゴミだから53?」
「そうそうそれ。53班にいるんだよね?」
さすがに広まっているか。
「年下と同じチームでさぞかし不安でしょうね」
「次は僕の番かもしれない⋯⋯って?」
「何それウケる」
ケラケラと笑い出す四人の女子。
「も、もう行って良いかな?」
嫌気がさした僕は弱々しい声で聞いた。
目的は果たしたし長間外にいると竜宮院とかに見つかるかもしれない。
そしたら厄介だ。
今でも面倒な誘いの言葉を投げられるのに過激化する。
「は? なんなのその態度。こっちは心配してあげてんのによぉ」
四人に囲まれて逃げ場を失ったこの状況で心配されているような言葉を投げられた記憶が僕には無い。
「てかさ、また仲間を殺しちゃうの?」
「ッ!」
「今度は僕ってモノマネしたけど、結局は八代ちゃん次第だもんねぇ。一年可哀想」
「まだ進級して僅かなのに、⋯⋯前回もこの時期だったよねぇ」
心臓の鼓動が鼓膜に届く程に大きく激しくなる。
思い出すのも辛い過去が鮮明に蘇る。
「ね、どうなのさ。今更になってダンジョンに行って、同じ事を繰り返すの?」
「はぁ、はぁ」
「教えてよ。質問してんだよこっちはさ?」
「うっ」
今になって彼女達の目が悪魔の様に見えた。凄く怖くて、足が震え出す。
逃げ出したいのに身体が言う事を聞いてくれない。
「八代さん?」
そんなタイミングで竜宮院と黒霧がやって来た。
二年の意識が僅かにでも二人に傾いた瞬間、僕は部屋に向かって一直線で逃げ帰った。
軽食を無理やり胃に詰め込み、毛布に包まる。
程なくしてドアが開いて、二人が入ってくる。
「八代さん。実は少し聞いてたんだよね。もし良ければ話してくれないかな? 何か力になれるかもしれないしさ」
竜宮院が話しかけてくれるが、今は顔も見たくない気分。
「何も無い。話しかけないでくれ」
やっと、やっと外に出られる様になったのに。
翌日。昨日の出来事もあってか、まともな食事が取れずにお腹が減った。
今度はガッツリと購入してコンビニ袋を持って帰る。
「待ってたよぉ」
「昨日はいきなり帰って酷いじゃん」
「せっかく会えたんだから、もっと話そうよ」
待ち伏せでもしていたのか、昨日の四人がまた僕を囲む。
逃げようとしても先を塞がれる。
「ね、なんで逃げんの?」
「うちら何も悪い事してないじゃんかさぁ」
「⋯⋯べ、別に、関係ない、だろ? 帰りたいんだ、足を、退けてよ」
「はぁ? 相変わらず根暗で酷い性格してるねぇ。⋯⋯もしかして去年のアレ、事故じゃなくて故意だったのかなぁ?」
「違う!」
普段は出さない大きな声で否定する。
意識していた訳では無いけど、これに関しては否定しなくてはならなかった。
僕は決して、わざとミスなんかしない。
「なんか偉そうじゃ⋯⋯」
一人の手が僕へと伸ばされる⋯⋯恐怖を紛らわせるために目を瞑る。
待てど暮らせど掴まれる気配はなく、恐る恐る瞼を持ち上げる。
そこには僕に伸ばされた手を掴んでいる竜宮院の姿があった。
「私の仲間に何か用ですか」
初めて聞く怒りの籠った言葉に、言われている訳でも無い僕にも緊張が走る。
あまりの剣幕にたじろぐが、不敵な笑みを浮かべて返す。
「仲間、ねぇ。なら気をつけておくと良いよ。これは先輩からの親切な忠告」
「どう言う事ですか」
「そいつと同じ仲間だと死んじゃうだよ。全員ね。ソイツを除いた全員死ぬのよ!」
僕の視界がずっと揺れて落ち着きを取り戻さない。
頭がグルグルと回って正しい判断がなんなのかも分からなくなる。
「ご注意感謝します。ですが、そんな事は無いと私は信じますのでご安心ください。八代さん、行きましょう」
竜宮院は僕の手を取って早足で寮の部屋へと戻って行く。
なんで、大して知らない人間にあそこまで言えるんだ。
普通、不安に思ったり疑問に思ったりして言い返したり質問するだろう。
なんで、何も言わずに手を取れるんだ。
訳分かんないよ。
「ふぅ。⋯⋯クロちゃん怖かったあああ!」
一瞬でもカッコイイと思ってしまった僕を殴りたい。
部屋に入った瞬間、竜宮院は黒霧へと抱き着き泣き言を零した。
あんなにキリッとしていたのに、今ではスライムレベルにふにゃふにゃしてる。
僕の方を向いた竜宮院は一度咳払いをして、微笑む。
「何か話したくなったら話してください。私からは聞きません。説得力は無いと思いますが。⋯⋯そろそろ消灯時間だね。寝ないと」
「そうだね。リエちゃん、今日は隣で寝てあげよっか?」
「もぉ。子供じゃないんだから大丈夫だよぉ!」
いつものホワホワとした二人に戻った。
コイツらは危険な事をしている自覚があるのだろうか。ダンジョン攻略がどれ程危険な事なのか。
僕の事を話すべきか。
ああなってしまったからには二人にはずっと疑念の種が埋め込まれた状態だ。
いつ芽吹くかも分からない疑念。
そんな疑念を抱いた状態でダンジョン攻略は危険すぎる。
「二人とも、僕の過去を聞いてくれるか?」
二人は一度目を合わせてから、頷いた。
「ココアでも入れよっか?」
「⋯⋯お願いする」
「ありがとうクロちゃん」
僕は買って来た食べ物を口に運びながら、ゆっくりと過去を思い出しながら話した。
僕の犯してしまった大罪を。
◆
僕は趣味嗜好が似ている大切な仲間が三人いた。
今の黒霧と竜宮院のような関係になれた仲間達だった。
緑迷宮も完全攻略して順調と呼ぶ他ないレベルだった。
学年ランキングも上位に入るくらいには優秀だと自負できる。
このまま卒業後も一緒のクランに入って同じチームでダンジョン攻略をするものだと思ってた。
僕らならそれが可能だって思っていたんだ。
⋯⋯あの時までは。
それは六月中旬の頃だった。
ダンジョンの戦闘中に危険なトラップがあったから解除していた。
きちんと最初のトラップの解除には成功した。
だけど、戦闘中と言う焦りもあってか『解除したら発動するトラップ』に気づけなかった。
安堵した瞬間だった。
一面を包み込む大爆発が起こったのだ。
咄嗟の事で反応が遅れた僕を仲間の一人が庇ってくれた。
爆発が終わると、黒焦げになって立たない仲間達が転がっていた。
その時の恐怖、絶望、今でも鮮明に蘇る。
僕がもっと冷静だったのならば、気づけない罠ではなかった。
僕が仲間を全滅させてしまったのだ。
だと言うのに、僕は生き残って、死ぬのが怖くてこうしてズルズル生きている。
希望も無くただ惰性で生きている様なモノなんだ。
同じ趣味の話で消灯時間後も話続けた程に仲の良かった友人達。
それで何回も怒られた事がある。
だけどそんな日々が楽しかった。掛け替えの無い時間だった。
それをたった一つのミスで全部失ったんだ。
「その事が今でも頭に過ぎって、ミスしたらどうしよう。また死んでしまったらどうしようって、怖くて怖くて。手が震えるんだ。解除するのがとても恐ろしいんだ」
僕がトラップ解除を良くミスる原因。それはトラウマだ。
「仲間は僕を憎んでいると思う。ずっと夢でも囁くんだ。どうして、なんで、最低って。きっと今も僕の近くで憤怒してるよ。⋯⋯どうしてわたし達を殺したのってさ」
全てを話終えた僕は横になろうとした。
すると、竜宮院が立ち上がり僕を見下ろす。
「確かに、聞いてて私もそう思った!」
◆あとがき◆
お読みいただきありがとうございます
僕っ子八代ちゃんでした!
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