第5話 デレさせたい!
私は53班のリーダーを任されている八重だ。
ナンバーと成績が噛み合って『ゴミチーム』と陰では言われている。いや、言われていた。
今ではコソコソせずに面と向かって言って来る人達が増えた。
仲間や友達が悪く言われるのが凄く嫌でこの現状を変えたいと思ったのだ。
リーダーを任されてから何かの間違いなんじゃないかと日々思っていた。
クロちゃんの方が強いし親しみやすい。なのに私がリーダーなのだ。
でもリーダーを務めてバカにされるのが嫌だと感じた日から私はきちんと向き合うと決めた。
クロちゃんが立花さんと仲良くなれると自信ありげだったので私は八代さんと仲良くなる。
信頼し合えないと連携は上手くいかない。だから仲良くなりたい。
火曜日の朝、二人が居ない朝食前の時間に話しかける。
「や、八代さん」
「⋯⋯」
「少しお話しませんか?」
「めんどくさい」
八代さんとは立花さん以上に壁を感じる。
その理由は十中八九一つ年上だからだろう。
本来ならば彼女は二年に上がっている立場なのだ。
八代香織さんは留年にして私達のチームに配属されている。
僅かな年の差もあり壁を強く感じる。
でも、それで諦めたらダメなんだ。
上を目指すには、この関係はあまりにも不利。
八代さんが私を信頼してくれるようにならないと、チームとして不安定になる。
私自身仲良くなりたい。
「八代さんって、罠解除が得意ですよね?」
「もう何回も失敗して、危険に晒してる。嫌味か?」
ちゃ、ちゃんと話してくれた!
と、嬉しがったら終わってしまう。今は少しでも喜びを表面に出さないように。
あぁ、でもニヤけてしまう。
チームになってから何回も話しかけて、ようやくここまでの長文を話してくれた。
嬉しさのあまり笑みが零れそうになり、それに耐えようと口に力を込める。
すると、気持ち悪い笑みになったのかあからさまに八代さんが引いた。
「ゴホン、嫌味ではなく思った事です。手際の良さは見ていれば分かります」
「でも失敗している」
「そうですけど、そうじゃない気がするんです。スキルは十分足りていると私は思います。だけどきっと八代さんの中で何かがあるんじゃないかと。なのでそれを教えて頂けませんか?」
改善できるところはして行きたい。
その思いを込めての言葉は八代さんに届かなかった。
「何も無い。スキルが無いだけだ」
「いいえ私はあると思います! 私は自分が本当に思った事は突き通す様にしているんです。なので本人に否定されても私は八代さんの腕を信じてます!」
「勝手にしてくれ。なるべく迷惑はかけないようにするから。もうほっといて。めんどくさいんだ」
ゴロン、とされてしまい話す意思はもう無いように思える。
私は自分のベッドに座って、八代さんを眺める。
八代さんは丸まって寝る癖があり猫背だ。
そして、横向きで寝ると黒い髪の毛が全身を覆えるくらいに髪の毛が長く背が小さい。
黒い瞳などの色合いはクロちゃんと似ているが、クロちゃんはストレートで八代さんはくせ毛が酷くてボサボサしてる。
クシで何回か直している所を見た事があるが、難敵だったらしく髪型が変わった所を見た事が無い。
「このチームってロングヘアが多いと思いません?」
クロちゃんや私、八代さんは髪を伸ばしている。
だから咄嗟に出た会話の種⋯⋯は完全にスルーされてしまった。
私の能力にコミュ力を伸ばすモノが追加されないかな?
「って、寮内じゃ能力使用許可は降りないか」
時は流れ木曜日の一限目の体育となった。
体育は二限連続であり、二限目はバトミントンで遊ぶ時間となっている。
一限目が結構キツい。
自分の使う武具を装備して学園が用意したアスレチックを攻略すると言うモノだ。
壁を登ったり、高い所から飛び降りたり、振り子の様に動く丸太を回避したりと。
様々な壁を突破してゴールに向かわないと行けない。
「うぅ。運動苦手の私はピンチな授業」
「⋯⋯えっと、竜宮院さん」
「はい! なんですか立花さん!」
は、話しかけてくれた。嬉しいっ!
と、表情に出さないように出さないように。
「えっと、アタシも頑張るから一緒に頑張ろうね」
「は、はい!」
ゼロ距離魔法を成功させた日から立花さんは壁を一枚とっぱらってくれたのか、自ら私に話しかけてくれる。
良し、この調子で八代さんにも話しかけて三人で頑張ろう⋯⋯としたのだが先に行っていた。
私達も追いかける様に進む。
運動が得意なのか立花さんはサクサク攻略したが、私は最初の壁登りでかなりの苦戦。
アサルトライフルがメイン武器でサブにハンドガンなども持っていて重量がそこそこある。
⋯⋯でも、それで泣き言を言ってたらそれこそ笑われる。
そんなのは、絶対に嫌だ。
「あと、ちょっとで、登り切る!」
そのタイミングで上から綺麗な肌の手が伸びて来る。
「おつかれ」
「立花さん⋯⋯」
手を取ろうとした瞬間、油断して足を滑らせて真っ逆さまに落ちてマットで跳ねる。
恥ずかしいなっ!
「クロちゃんは大丈夫かな?」
このチーム唯一の強化系能力者だから、内容が別となっている。
素の身体能力が違うから分かれるのだ。
クロちゃんの事を考えて自分の訓練が愚かさになるのはまずい。
私が思っている以上にクロちゃんは強いから大丈夫だろう。
再び壁登りを再開する。
◆
リエちゃん達は皆で授業受けれて良いなぁ。
私一人なんだよな訓練体育。寂しいんだけど。
「今日は槍を持った敵にどう対応するかをやってもらう⋯⋯試しにそうだな。⋯⋯黒霧、前に来い」
対象を不快にさせる笑みを浮かべた教師が私を指名する。
木製の薙刀を持って前に出ると、先端にタオルが巻かれた長い棒で刺突を飛ばされる。
皮一枚で回避する。
合図も無い、いきなりの攻撃である。
「良い反応だ。そのまま続けてどう対応するかお手本になってくれ」
嫌な扱いだな全く。
全ての生徒では無いが、一部の生徒は私が失敗する事を今か今かと待ち望んでいるだろう。
しかし、先生の繰り出す攻撃を全て防いだり回避する。
するとフェイントやギアを上げての攻撃が繰り出される。
突きと薙ぐを組み合わせた攻撃もきちんと防ぎ切る。
先生の実力が低いかと言われたら否定する。
だけど、先生レベルだったらまだ母親の方が高いし怖かった。
教師だからか、その辺の手加減はしていると見て良いだろう。
まだ加減を感じる。
「な、中々良い反応だな」
「ありがとうございます」
褒めるから感謝しただけなのに、先生は冷や汗を流しながら苛立ちを微かに顔に出した。
「お前も攻撃して来て良いぞ。カウンターの対応もしないとな」
「⋯⋯へ?」
私が先生を攻撃?
無理に決まっている。
でも言われたからにはやるしかないだろう。お手本となるためにも。
「⋯⋯ふぅ」
荒くなり始めた呼吸を安定させる。
当てても相手は先生だ。何も怖がる事は無い。
「はあああ!」
考えを振り払い、私は強く踏み込んだ。
狙うは胴体で突きの攻撃を繰り出す。
怪我をさせないように、痛い想いをさせないように、できる限りの手加減を加えて。
そうすると、周りからも分かり易い程に遅い攻撃となってしまう。
手が震えて薙刀も小刻みに揺れていた。
その事を指摘される事も無く、先生の棒が私の武器を絡め取る。
「⋯⋯にひっ」
待ってました、と言わんばかりの笑みを浮かべて。
「うわっ!」
絡め取られた状態で巧みに棒を操り私を回転させる。
武器から手を放せば武器が絡め取られ、放さなければこの様に投げられる訳か。
「あたっ」
手で頭を守りながら地面に叩き着けられる。
マウントポジションを取られてタオルの方を首に当てられる。
本物の槍ならばそのまま首を刺して終わりだろう。
「お前にしては中々の良い動きだったぞ。敵は身体以外にも武器を中心に狙って来る奴もいる。その事を頭に入れて訓練を始める」
コソコソと『アンチキラー』と言う言葉が聞こえて来た。
それは私のあだ名。
この学園で唯一、モンスターを一度も倒した事の無い私に与えられたあだ名。
長いと『モンスターゼロキルのお荷物』と呼ばれたりもする。
その事も含めて、バカにするために前に出されたのだろうか。
「はぁ。ほんと、嫌いな授業だ」
◆あとがき◆
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