第4話 立花さんだからできる事!

 能力は与えられた、目覚めるもの、考え方は人それぞれで解明された訳じゃない。


 だから正解なんてのはまだ分からない。


 だから私は『与えられた』と考えている。


 だとしたら誰に与えられたか。神か?


 それも一つの答えだ。


 でもきっと、能力を与えたのは必要だと判断して用意したこの世界だろう。


 神と世界をイコールで結ぶなら同じ答え。


 「立花さんの力は世界が立花さんのために立花さんだけに与えたんだ。それが不幸を招くなんておかしいんだよ。現実は理不尽でも世界は平等なんだ」


 「ふざけるな。世界がアタシの夢を奪ったのか! アタシはこんな力望んで無かった。必要として無かった! なのに無理やり与えて夢を奪われた!」


 確かに、望まない力を無理やり与えられた事実は変えられない。


 頭を切り替えて頑張ろう、なんてのは難しいんだろう。


 「確かにその通り」


 「⋯⋯もう良いかな。気分が悪くなる」


 「でも立花さん!」


 「まだ何かあるの!」


 私の考え方は伝えた。後は私の想いを伝えるんだ。


 「世界が必要に感じたように、私も、私達も必要としている。立花さんを!」


 「迷惑よ!」


 「それでもだよ」


 私の伝えたい事は終わった。


 これ以上長引いても好感度パラメータがマイナスに到達してしまう。


 ベンチからゆっくりと離れる。


 私が離れると落ち着く様子を見せたので、振り返って言葉を投げかける。


 私は諦めが悪いのです。


 「夢を奪われたのなら新しい夢を探せば良いと思うんだ。諦めるのは嫌かもしれない。だから並行して新しい夢を見つけようよ」


 私達はナノマシンによってルールに縛られている。


 ルールの中で自由を謳歌できる。


 「夢をいくつも持っちゃいけないなんてルールは存在しない。夢は誰にも縛られない。世界は想像できない程に広いし楽しいんだよ。時間はたっくさんある。考えてくれると嬉しいなっ!」


 立花さんと対面で長く話す事ができたので『今日は』満足だ。


 翌朝。


 「なんでまた来たの」


 「来ないなんて言ってませんから。夢の話考えてくれた?」


 「ふざけないで。アタシの事全然知らないくせに、ズケズケと踏み込まないでよ」


 「教えてくれないから知らないんだよ仕方ないじゃん。それに踏み込まないと、立花さんはずっと一人で孤独の世界に入ってるしね」


 昨日と同じようにベンチに座り、会話をしようと内容を考える。


 立花さんがどうして走り続けるのか、その理由は知った。


 夢を今でも諦められないのだろう。それが例え限りなく不可能に近い事でも。


 能力を憎むのも学園を嫌いになるのも当然彼女の自由だ。


 「立花さんに私を知って欲しいから少し身の上話して良いかな?」


 「嫌だ」


 「ありがとう」


 「はぁ」


 私は自分の事を話す事にした。


 嫌? そんな自分に都合の悪い言葉は聞こえません。


 「突然ですが問題です。私のフルネームはなんでしょう!」


 「⋯⋯黒霧、くろ⋯⋯えっと」


 「残念時間切れです!」


 真面目に考えてくれる所、普通に可愛い。ノリが良き。


 答えを発表しよう。


 「私の名前は黒霧長女ちょうじょ。込められた意味は最初に産まれた女だから」


 分かりやすくとても合理的な名前かもしれない。ある意味の個性。


 私はこの機械番号的な名前が好きではない。もしも愛情やまともな意味があれば問題なかったけど。


 「え⋯⋯じょ、冗談でしょ?」


 怪訝そうな立花さんは私の答えが冗談だと思ったらしい。


 「冗談じゃないよ。ほんと。なんなら手帳も見せられる」


 「えっと、なんて言えば」


 優しい立花さんの一面を見る事ができたね。


 「私の家は代々武術を引き継いで来たんだ。その過去はまだ刀で人々が争っていた時代まで遡る」


 「そうなの?」


 「うん。私の父は思想が強くてね。子供にも技を継がせる事ばかり考えてた。友達と遊ぶ事も休む事も許されない。とにかく技を叩き込まれた」


 虐待と言われればその通りだと答えられる。


 でも逆らう事はできなかった。怖かったから。


 「いずれ名前は変える予定。だからあまり気にしないで。なのでクロちゃんって気安く呼んで」


 「⋯⋯アタシだけが不幸だって思ってたけど、違うんだね」


 「それはどうだろう?」


 なぜなら私は今とてもこの生活を楽しんでいるから。


 「私はここに来て毎日が楽しい。嫌いだった力でリエちゃんの役に立てるし、無理な訓練もしなくて良い。ルールを守る絶対的常識さえあればこれ程優雅に自由に暮らせる場所は無い」


 「自由、か。アタシには難しいや」


 「そんな事無いよ。自由は誰にでも許されるんだ。ここでは縛りと同時に保証されてる。後は気持ちだけだよ」


 「気持ち⋯⋯」


 これで少しは私の事を知って貰えただろうか?


 それだったら嬉しいと思いつつ、朝食の時間が迫って来たので立花さんを拉致って向かう。


 「え、ちょ。なんでええええ!」


 「このまま詰めれば好感度マックスだよぉ!」


 「なんの話!」


 脳内友情シュミレーションゲームの話。


 今日は緑迷宮の実践訓練があったのでダンジョンに向かっている。


 これは授業の一環で緑魔石を三つ持ち帰ればクリア。


 緑迷宮を攻略した事のあるチームは授業免除でそのままこの日の授業は終わりとなって自由時間を謳歌しているだろう。


 羨ましいね!


 「リエちゃん何見てるの?」


 移動中、リエちゃんが手帳でネットを見ていたのが気になった。


 一度画面から視線を外して私を見る。


 「えっと、今日行くダンジョンについて調べておこうと思って」


 「じゃあ私もやる」


 「これはリーダーとして⋯⋯」


 「リーダーだからって全部背負う必要は無いんだよ。私が協力したいの」


 てなわけで。


 授業で扱うようなダンジョンはボス部屋まで一度プロの手で攻略されている。


 授業で扱えるようにボスは生かされているのだ。


 ボスさえ居ればダンジョンは機能するから。


 「動く鎧かぁ」


 無機物なのかな?


 それだったら私も⋯⋯。


 「うっ」


 頭に広がったイメージを払うように顔を振る。


 授業とは言え危険が無い訳じゃない。集中しないと。


 過去を思い出さないためにもモンスターについては調べないでおこう。


 大丈夫。例え鎧だろうと攻撃は私が防ぐ。それだけで良い。


 ダンジョンに入ってモンスターを探す事十分。


 大剣を持った動く鎧を発見。黒と銀を混ぜた色。


 「中身は肉の塊らしいよ」


 「幽霊とかじゃないんだ」


 「うん。黒っぽいのは魔法に弱い特徴があるらしい」


 攻略情報を短時間で覚えたのかな?


 いつも通り私がヘイトを集めて攻撃を防ぎつつ、リエちゃん達が攻撃をする。


 「中々に力強い」


 生身じゃ無理だったので能力を発動させる。


 「能力発動【怪力】」


 言葉にして出す理由はスイッチと一緒。


 能力についても分からない事が多く、発動させるためのスイッチとして言葉を用いる事が多い。


 慣れた人とかだと意識するだけで発動できるらしい。


 真正面から大剣を受け止め攻撃の合図を出す。


 「撃つよ!」


 リエちゃんの声と共に放たれた銃弾が鎧によって弾かれる。


 物理攻撃への耐性がかなりある。


 ⋯⋯まずいな。


 リエちゃんの銃でかすり傷も付かないとなると八代さんも難しい。


 ここは弱点攻撃となる魔法攻撃を使える立花さんに任せたい。


 「立花さんっ!」


 「立花さん魔法攻撃お願いします」


 「分かった。能力発動【火系統魔法】『ファイヤーボール』」


 火の球体が迫って来ると、騎士は大剣を使ってそれを消滅させた。


 続いて虚空を切り裂いて斬撃を飛ばす。


 「危ないっ!」


 皆の所へ全力で戻り、斬撃を防ぐ。


 「クロちゃん!」


 「大丈夫!」


 騎士は斬撃を飛ばしながら距離を離して来る。


 距離が離れ過ぎると魔法は当たらなくなる。数も打てる訳じゃない。


 確実に決めないと⋯⋯。


 「能力発動⋯⋯」


 「立花さ⋯⋯」


 リエちゃんが止めるよりも先に立花さんが魔法を放つ。


 距離が離れた騎士に真っ直ぐ飛ばず、壁へと当たる魔法。


 「⋯⋯ダメだ。アタシじゃ、無理だよ」


 グギギっと杖を握り締め、俯く立花さん。


 自分が中学まで練習していた事が無にされ、扱いが未だに上達しない魔法を持つ女の子。


 「ごめん、ごめんなさい」


 「立花さん立ってください。まだ敵はいます!」


 リエちゃんが鼓舞するが泣き崩れる立花さんは聞けるような状態じゃなかった。


 斬撃は私が防げるがこのままではジリ貧だ。


 「なんでわざわざ魔法系の能力なんだ。能力なんて要らなかったのに」


 私が過去を深堀させてしまったからだろう。


 立花さんの心は壊れる寸前だった。


 ギリギリで留めていた壁を私が取ってしまったのかもしれない。


 だから私が立花さんの心を直さなくてはならない。


 「立花さん立って! まだ戦いは終わってない!」


 私の叫びが届いてくれたのか、少し顔を上げる。


 綺麗な顔が涙で台無しだ。


 「アタシじゃ無理だ。あの距離を当てられない!」


 「当てられないなら、当たる距離まで行けば良い!」


 「どうやって!」


 「走るんだよ! どんな経験も能力も無駄なんてのはありえない。どう生かすかを知らないだけだ!」


 リエちゃんが何をするのだろうと不安な顔をする。


 大丈夫だよリエちゃん。私には自信があるんだ。


 「当たる、距離」


 「そう。私がサポートする。私の背中を追って来て!」


 タイミングを見て騎士との距離を詰める。斬撃を破壊しながら。


 「走る⋯⋯リーダー、行くね」


 「え、あ、お、お願いします?」


 「うんっ!」


 私に向かって大振りで振り下ろされる大剣。


 私なら砕く事はできる。だけど今回は安全のために体勢を崩したい。


 だから弾く。大剣を強く弾いて相手のバランスを崩す。


 「私は力持ちいいい!」


 薙刀を大振りで振るって、相手の大剣を押し上げた。


 「立花さんっ!」


 立花さんはバランスを崩した騎士に肉薄して、鎧に杖を押し着けた。


 そう。そうだよ。


 立花さんは走るのが好きで、得意なんだ。


 わざわざ止まって距離を確保して魔法を使う必要は無い。


 苦手を克服するのは必要かもしれないけど、今は長所を生かして短所を補うんだ。


 「能力発動」


 小さい頃から追いかけた夢を奪われた絶望は私には分からない。


 どれだけの苦悩を抱えてここに来てくれたか分からない。


 でも私には、私達には立花さんの力が必要なのだ。


 「【火系統魔法】『ファイヤーボール』」


 私は願う。まだ私の知らない彼女が浮かべてただろう笑顔を見れる事を。


 私の知らない彼女をもっと知れる事を。


 未来に希望や夢を持ってくれる事を。


 「爆ぜろおおおお!」


 ゼロ距離で放たれた魔法は鎧を破壊しながら爆発し、立花さんを吹き飛ばす。


 火傷とかありそうだけど、そこは帰ってから回復可能だ。


 今は痛いだろうけど。


 「ぐっ」


 「立花さん、ナイスファイト!」


 吹き飛ぶ彼女を回収して仲間の所に戻る。鎧の一部が剥げて肉が見えた。


 そこなら物理攻撃は入るだろう。


 「撃ちます!」


 立花さんが作ってくれた弱点をリエちゃんが連射する銃によって貫かれる。


 血を沢山流した後、倒れながら塵となり消えた。


 「⋯⋯か、った?」


 「やったね立花さん!」


 歓喜のあまり抱きつくと、顔を真っ赤にする立花さん。可愛いね!


 しかし、段々と苦しそうになる。


 「ごめん力込めすぎた⋯⋯」


 「こ、殺されるかと思った」






◆あとがき◆

お読みいただきありがとうございます


ゼロ距離魔法士の誕生

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