第3話 立花天音を必要としている!
リエちゃんは大人しい子だ。怒った所をあまり見た事がない。
穏やかな性格をしているリエちゃんだけど、時には声を張り上げる。
私を守ろうとしたあの時もそうだった⋯⋯。
懐かしい記憶を思い出すのは、昨日の夜屋上で魅せられた覚悟のせいかな。
『下に見られないチーム』
リエちゃんが掲げた目標、そしてリーダーとしての覚悟。
私は親友であり仲間だ。全力で協力する。
「はわぁ。四時半、中々に早いね」
ジャンプで二段ベッドの上側から飛び降りる。
私の下で寝ているのはリエちゃん。スヤスヤと寝ている。
起こさないように静かに扉を開けて、外に出る。
着替えは済ましてあるのでグランドへと向かう。
「朝練やってんねぇ」
運動部の一部はこの早朝からでも部活を始めている。
能力者達だけのスポーツ大会もある。攻略だけが全てじゃない。
まぁそれでもオマケ程度で本分を疎かにしない程度に国が許している感じだ。
どうしても身体強化系の能力者が有利になってしまうけど。魔法系の大会もある。
「⋯⋯あ、いたいた」
グラウンドを一人走るショートヘアの青髪少女。
碧眼も特徴的だがやはり体躯だろうか。
スラッと身長は高く、足が細いのだ。
彼女は魔法系の能力者だが所属している部活は陸上である。
当然不利だ。だから一人で練習しているのだろう。
周りから敬遠されている。理由としてはこれが1番か。
「立花さーん!」
「むっ⋯⋯えっと、確か」
「
「黒霧さん。アタシは練習したいの。邪魔しないで」
「邪魔はしないよ」
私は名前を覚えてくれていなかった立花さんの隣を走る。
自慢じゃないけど同世代なら私も体力は多い方だと思う。
強化系の能力者は体力の消費も緩やか。
素の身体能力が高くなるため体力の消費が軽減されている。
下手な強化系能力者よりも立花さんの方が体力自体は多いかもしれない。
それくらい彼女は走れる。
「⋯⋯な、なんでずっと隣を⋯⋯」
現在は六時だろうか。かなりの時間走り続けている立花さんの体力はほぼ尽きかけている。
本当なら休憩とかを挟んでいるだろうけど、隣を走っていたせいか走り続けていた。
負けず嫌いなのかな?
「朝走るの気持ちいいね」
「は、話、聞いてる?」
限界が来たのか、倒れそうな所を抱き抱える。
触れて分かったのは身体ががっちりしている事だった。
中学、それ以前からも運動に関わっていたのが想定できる。
一緒にお風呂入った事ないから知らなかった。
「休憩しよっか」
「な、なんで、一緒に」
「水持って来るから」
「は、話を、きけー!」
ベンチまで運んで座らせ、自販機で水を購入して持って行く。
お礼を言ってから受け取ると、ガブガブと飲み始めた。
「私のせいで無理させちゃってごめんね?」
「無理はしてない。走る前に水分を僅かしか取らなかったアタシの責任だから」
隣に座ると、距離を開けるように移動される。
私は嫌われているのだろうか?
「で、なんの用なの?」
「立花さんと友達になりたい。だからもっと知りたいと思ったから」
「くだらない。高校卒業、あるいは進級と同時に再編成される可能性があるのにわざわざ仲良くなる必要なんてある?」
「あるよ! だって今がつまらないじゃん。私は今の仲間の皆と仲良くなりたいの!」
「あんなベタベタ馴れ合いをしろって事?」
「リエちゃんは特別だからそこまでは望んでませーん!」
腕で大きくバツを作って否定する。
仲良くなるためには私から踏み込まないといけない。
立花さんはずっと自ら壁を作って崩そうとしないから。
「立花さんって中学⋯⋯覚醒前は陸上部だったの?」
能力に目覚めてから学園に入るので、それ以前の話。
中学だけとは限らないからね。
「あんたには関係ない」
「今から無理やり関係を作ります! 私はもっと立花さんを知りたい。だから教えて欲しい」
「何も無い」
「何も無い訳無いよ。不利な中、走るのにこだわる理由が絶対にあるはずだよ。あんなに真剣なんだから」
「うざ」
毎朝欠かさず練習をして、授業終わりも練習を繰り返す。
そこには理由が絶対にあるんだ。
「今日話さなくて良いよ別に。私は毎日毎回立花さんの隣を走るから!」
「それは邪魔してるのと一緒でしょ!」
「ライバルは必要でしょ? 私が立花さんのライバルになってあげよう。私のタイムを超えてみてよ」
「⋯⋯能力の種類が違う。その時点で対等じゃない。ライバルにはなり得ない」
ほほう。ライバルにはなり得ないか。
「ライバルは無理でも友達はおっけーって事?」
「どうしたらそうなる!」
ならないのかぁ。
私が譲らない姿勢を取ると、大きな、それはもう大きなため息を一つ零す。
その後、親の仇でも睨むかのようにキッと鋭く私に眼光を向ける。
怖いよ。
「話したから絶対に来ない?」
「どうだろう?」
「確約してくれないなら話さない」
「話してくれないと決めれないなぁ?」
再び鋭い眼光を向けられたが私は笑顔を崩さない。
女の子の睨みなんてへっちゃらだ。
「話す。話すからもう関わらないで」
「そんなに私に関わって欲しくない?」
「うん」
即答っ!
「泣いちゃうよ⋯⋯」
◆
アタシは小さい頃から走るのが好きだった。
中学に上がって陸上に入って、友達と励まし合いながら記録を伸ばして行った。
少しでも速くなった時は凄く嬉しかったし、大会などで優勝した時は仲間と一緒に飛び踊る程喜んだ。
将来も陸上選手になる。小さい頃からの夢。ずっと思い描いて頑張って来た夢だった。
⋯⋯それは中学最後の大会が迫って来た時だ。
とても重要で親友とも呼べる仲間達と一緒に練習をしていた。
その最中だ。突然私の手から火が現れたのだ。
全身に感じる灼熱感は嫌な感じはせず、むしろ高揚感などの高まりを感じた。
しかし、そこから一気に絶望へと叩き落とされた。
能力に覚醒したのだから登録しないといけない。中学も卒業が近いがお構い無しに攻略学園へと入学。
魔法系の能力者であっても能力者には変わりなく、身体能力に一切の違いがなくても意味が無く、私は大会に出られなくなった。
アタシが抜けた事で補欠の人が入ったけど、エースだった自分と比べるとかなり劣った。
しかも仲間達とも上手くいかず大会は酷い結果になった。
アタシは仲間達に恨まれ、別れの言葉を受け取った。嫌われたのだ。
今後は攻略学園で生活をしてダンジョンに対抗する軍人として育つ。これは強制だ。
能力者が普通の大会に出られるはずも無く、魔法系だから能力者が遊び半分でやる陸上にも出られない。
魔法系だけの運動部も強化系能力者には勝てない。
そもそも私は本気で全力で陸上をやりたかった。それがアタシの夢だったから。
たったの一日だ。
能力によってアタシは夢を奪われ仲間を失った。
学園の中等部は攻略の基礎を学ぶが学習期間の少なかったアタシはその基礎も完成されずに高等部。友達なんて誰一人としてできなかった。
能力を憎んだ。
能力を扱う練習を続けても上手く行かず、嫌気がさした。
どうしてアタシがこんな目にあわないといけないのか分からない。
何が悪かったんだ。
神がいるのならばアタシは神を憎む。
◆
「今でも、心底失望した仲間の目が忘れられないんだ。それに走るのも辞められない。アタシにはコレしかなかった。コレだけだったんだ。なのに、奪われた! アタシ達は能力者ってだけで戦う事を強制される。夢も自由も奪われた。アンタだってそうだろ! ⋯⋯分かったろ。もう一人にしてくれ」
過去に囚われた女の子、それが立花さんなのかもしれない。
私には分からないけど、とても失望しただろう。この世に。
夢を諦めるしかない状況。
大切な仲間達に手の平を返された絶望。
どれだけの闇を抱えて、私達と一緒にいるんだろうか。
「立花さん」
「なんだよ。もうほっといてくれ」
「立花さんには能力があるよ」
「その能力に奪われたって言ってんだよ!」
怒号、心の奥底から響かせる怒りの叫び。
でも私は怯まない。こんなのは怖くない。
怖いのは、過去に囚われたまま立花さんが前を向けない事だ。
立花さんは私を拒絶している。自分の世界に入り込み他の世界を見たくないから。
「能力だけじゃない。私やリエちゃん、新しい仲間がいる。そのお仲間達程仲良くなれないかもしれない。それでも、仲間はいるよ」
「だからなんだよ」
「卑屈にならないで欲しい。もっと周りを見て欲しい。君を必要としているんだ」
「誰が! ろくに魔法も使えない、過去の経験が全く意味を成さない、役立たずでこの学校が大っ嫌いなアタシを誰が必要とする!」
そんなの決まってる。
思い込みと言われるかもしれないが、私はこう信じてる。
「この世界だ」
◆あとがき◆
お読みいただきありがとうございます
【まとめ】
立花天音のちょっとした過去話でしたね。
夢も自由も奪われ戦いを強制される。今の社会の悪い例かもしれません。
入った学園でもすぐに高校生になる環境では周りは既にグループを作っているでしょうし。
友達も作りにくい環境、基礎を学ぶ時間も無い状況、陸上経験が意味を持たない能力
それでも責任から逃れずに真面目に戦う、そんな人です
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます