第2話 班長としての自覚
「ごめんね。私がリーダーなばっかりに」
「リエちゃんが悪い訳じゃないよ。これはチームの成績なんだからチームの責任だよ。部屋戻ろ」
ランキングは掲示板に堂々と掲示されるが、手帳で見る事もできる。
部屋に戻る途中で見下された視線を学年問わず向けられたが気にする事はない。
ただ、リエちゃんは気にしていそうで嫌だった。
部屋に戻ると、掲示板の方に顔を出さなかった八代さんが自分のベッドの上で転がっていた。
「八代さん。そろそろお昼だし、一緒にご飯行きませんか?」
リエちゃんが八代さんに聞くが、返事は短く返って来る。
「一人で行くから、良い」
「そ、そうだよねぇ」
仲良くしたいが難しい状況だ。
昼がもうすぐと言っても後一時間はあるので部屋でリエちゃんとのんびり過ごす。
テレビゲームもあるしネットもきちんとあるから部屋でも充実している。
外でも遊べるところは沢山あるけど、数日は出たくないよね。
周りの目がリエちゃんを傷付けそうで嫌だ。
でも食事は食堂で取らないとダメだし、コンビニとかで買うにしてもポイントを無駄にしたくない。
ただでさえ余裕が無いのだ。武器などに使うから。
私的に使えるポイントは総合ポイント×10が月初めに振り込まれる。
他は攻略の度に手に入ったアイテムや配信でのボーナスだろう。
それが微々たる我が班はポケットマネーは他の班と比べてかなり劣る。
歴代最弱の烙印を押されるだけはあるよね。
「立花さんは部活かな?」
「そうじゃないかな。日曜日の朝は練習するって言ってたと思うよ」
「そっかあ」
私ももっと仲良くなりたい。
配属されたチームなんだから、壁があったら大変だ。
ダンジョン攻略は訓練も兼ねているとは言え実戦だ。
心の底から信頼できる仲間と戦いたい。
遊んでいたら時間になったので食事しに行く。
結局八代さんは一緒に来てくれなかった。
「⋯⋯急にお腹が⋯⋯先行ってて」
腹を抑えてあからさまな痛いアピールをする。
「別に待つよ?」
「大丈夫だよ。それにさっきからクロちゃんのお腹鳴ってるし」
ば、バレてた。恥ずかしいや。
「じゃあリエちゃんの分も取っとくよ。先行ってるね」
「ありがと」
長い銀色の髪を靡かせて、部屋に戻って行く。
琥珀色の瞳も特徴的だ。同性である私も羨むスタイル。
「と、食堂行かないと」
朝はビュッフェ形式だが昼と夜は決められた料理が与えられる。
栄養面はしっかりと考えられている。
食堂は三階建てととても広く、12~13時の間が昼食が与えられる時間となっている。コレはタダだ。無料だ。
タダで美味しい料理が食べられるので贅沢だよね。
お金を払えばスイーツとか色々と買えたりするけど、我慢である。
「二人分お願いしまーす」
受け取り二人用のテーブルに腰掛けてメッセージを送って待っておく。
「あっれぇ今日は一人なの底辺怪力女」
「こんにちは〜」
「は、ウザっ」
急に話しかけて来たのはそっちなのに。
「てか今日のランキング見た? まっだ三桁なの? 遅くなーい」
他の三人もゲラゲラと笑い始める。
「亀なの? ねぇ? いや、亀に失礼か。ごめんなさい亀さん」
「何か用ですか?」
絡んで来た人はランキングで一個上のチームの人達だ。自分らも下の方だと言うのにマウントを取って来る。
焦りと不安を下の者にぶつける事で拭っているのかもしれない。
「は〜なにスカしてんのウザ。力が強いだけで何も役に立てない弱虫がさぁ」
「ほっといて欲しいんですけど⋯⋯」
「はぁ。一般人に申し訳ないとか考えない訳? 税金で運営されてるんだよここはさぁ。私だったらもう恥ずかしくて外も歩けないよ」
「だね。面の皮は亀の甲羅並に厚いのかもね〜」
「上手い事言うねぇ」
上手い⋯⋯のか? あ〜面倒だなぁ。
もう無視しよう。そうしよう。
ガヤガヤその後も言われたけど無視してリエちゃんを待っていると、それがウザかったのだろう。
机の足を蹴って来る。
「何無視してんだよおい」
それでも無視を続けると、今度は強く蹴って来る。
揺れに耐えられなかったトレイは机を滑って落ちそうになる。
「危ない!」
リエちゃんの分のトレイを支えて料理が落ちないように支える。
私の分までは手が届かず、背中で支えるが少し落ちる。
「ごっめーん。わざとじゃないんだよ? 足が当たちゃってさぁ」
「はは。これが当たっただけって言うなら重症だね」
「何か言った?」
「何も言ってませんよ」
リエちゃんの料理を戻してから自分のも戻す。
「ちっ」
反抗されると怒るが無視されても怒る。難しいなぁ。
「アンタも弱いけどリーダーも弱いんだっけ? ほんと、落ちるべくして落ちたチームだよねぇ」
「あぁ?」
仲間に同意を求めた女に対して私は声を低くして唸った。
それで少し怯んだが、負けじと声を張り上げる。
自身の防衛本能による虚勢に見える。
「何よ、ホントの事でしょ」
「そんな訳あるか。私の事はいくらでも言えば良いさ。だけどリエちゃんの事をバカにするような事言うな!」
「は? 何マジになってんのキモ」
「もう行こ」
「そうね」
人の目が気になったのか、離れて行く。
「はぁ。イライラするなぁ」
リエちゃんが来るまでに落ち着かないと。
「クロちゃん、大丈夫?」
早いっ!
「大丈夫だよ。全く暇な人達だよねぇ。それより食べよ。冷めちゃうよ」
「トレイの上にご飯落ちちゃってるじゃん。交換しよ」
「良いよ。ソレはリエちゃんの分で貰ったんだから。いただきまーす」
一口食べて、笑みを浮かべる。
「美味しいね」
「そうだね」
⋯⋯虚勢を張っているのは私も同じかもしれない。
◆
私達のチームは落ちこぼれだ。それは紛れもない事実だろう。
最初はリーダーの責任で私だけが陰で色々と言われていた。
でも別に良かった。私だけなら耐えれば良いから。
仲間にその事が広まらなければ良い。傷付いて欲しくなかったから。
いつか挽回できると思ってた。
でも、遅かったらしい。
食堂でクロちゃんが怒声を響かせているのを聞いてしまった。
一人にした時に酷い事を言われたのだろう。
チームの総合ポイントが低いから。
「嫌だな⋯⋯」
凄く嫌だ。
私だけなら問題ない。だけど仲間を悪く言われるのは我慢ならない。
チームの責任はリーダーである私の責任であるべきなのに。
幼馴染で親友のクロちゃんが悪く言われるのは凄く嫌だ。
今までは地道に仲良くなって行けば良いとか、楽しく皆で生活を謳歌できるなら良かった。
それだけで十分だった⋯⋯でも、ダメだ。
「ねぇクロちゃん」
「うん?」
「七時くらいに屋上来てくれる?」
「分かった」
七時。
六月に入ったばかり。夜はまだ少し冷える。
「どうしたの〜」
屋上には少なからず人はいるが、私達を気にする人はいなかった。
「クロちゃん、今のチームどう思う?」
「ん〜立花さんと八代さんとの壁を感じるかなぁ」
「そう、だよね。私もそう思う」
私は覚悟を決めてクロちゃんの目を見る。
夜空と一緒の黒髪に黒い瞳。昔ながらの長くストレートの綺麗な髪が風に揺れ動く。
「私は、今のままでも良いんじゃないかって思ってたんだ。クロちゃんと同じチームになれて、楽しく暮らせそうだったから」
「照れるなぁ」
「でもそれだけじゃダメだった。クロちゃんが悪く言われるの、凄く悔しかった。クロちゃんは強いのに、私のせいで弱く見られるの凄く嫌だ!」
「私は弱いよ?」
そんな事無い。
クロちゃんは一人で前衛をやって攻撃を引き受けてくれている。本当は戦いたくないのに。
そんな彼女が弱い訳無い。
「私、もっと上に行きたい。強くなりたい」
「リエちゃん⋯⋯」
「バカにして欲しくない。クロちゃんを。それに立花さんや八代さんも。私はチームをバカにされたくない!」
「それは私も一緒だよ」
「ありがと。でもチームが貶されるのは、私が無能だからだ」
クロちゃんなら「そんな事無いよ!」と言ってくれるだろう。
その優しさに私は甘えていた。それが良くなかった。
「そんな⋯⋯」
「事ある! もっと私がリーダーとしてしっかりしていればもっと攻略できてた。ボスだって倒せてたかもしれない!」
「それは⋯⋯分からないよ」
「そうだね。⋯⋯私、もっとリーダーとして、頑張りたい。このままじゃダメだって思い知ったから。でも私は弱いから、一人じゃ難しいんだ。だからクロちゃん、私を手伝って欲しい」
結局優しさに甘えてしまう事になる。
事実私は弱いし、一人で変えようとしても難しいだろう。
「⋯⋯」
クロちゃんは数秒考え込む。そして、ゆっくりと口を開く。
「分かったよ。リエちゃんの覚悟は受け取った。全力で協力するよ」
「ありがとう。クロちゃん。絶対、下に見られないチームにする。絶対に!」
「それで私は何をすれば良いの?」
「⋯⋯何も考えてないや」
「ありゃま」
チームとして強くなる必要がある。そのために必要な事。
信頼関係。命を預けられるくらいの信頼関係が必要だと思う。
「まずは、立花さん達の事をもっと知りたいと思う。知らないと、どんな風に戦うのが得意か分からないし」
「おっけ。立花さんについては私に任せて。考えがあるから」
「任せて良い?」
「うん。大船に乗ったつもりでいてよ」
「分かった!」
クロちゃんが自信ありげに言うなら信じる。
私は八代さんともっと仲良くなろう。
リーダーとしての覚悟を決めるのが遅かった。
クロちゃんの優しさに甘えて、このままでも良いんだって現状に満足してしまった。
だから遅れを取り戻す。
仲間が悪く言われないために、私がもっと頑張らなくてはならない。
チームは一人の意識改革では変わらない。皆で足並みを揃えて変わるんだ。
だからまずは足並みを揃える。
「はっきりと現実を突きつけられないと動けない怠惰な私がリーダーでごめん。本当に⋯⋯」
「誰に謝ってるのよ。それに謝る必要は無い。頭を下げる必要も無い。リエちゃんが向くのは下でも前でも無い。上だ。そうでしょ?」
優しい微笑みを浮かべる。月明かりに照らされるクロちゃんの笑顔は心の緊張を優しく解してくれる。
「うん。そうだね。改めてよろしく、クロちゃん」
「よろしくね、リエちゃん! 目指せランキング1位!」
「おー!」
◆あとがき◆
お読みいただきありがとうございます
リエちゃん、責任を感じすぎて背負いすぎる臭いが⋯⋯
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