第7話 奪われた者
「………………ここは何処?」
私はあの後、あのお茶を飲んだあと目を覚ましたら何処かよく分からない洞窟の中だった。
よく見ると足に杭が刺さっていたり、腕が斬り落とされていたりして痛ましいことになっていた。が私が目を覚ました事でスキルが起動したのだろうか?
すぐに体が万全の状態になる。だが不思議な事に、私は何かを喪失した感覚を味わっていた。
……?なんだろう、さっき迄より体が重い?よく分からないけど何か気分が悪いや。
私はそういいながら、洞窟の中をゆっくりと歩いて行くことにした。とはいえ魔物?がいると思うので私は武器を取りだそう……そう思ったところで───、
「うわそうじゃん!武器無いじゃーん!あー壊れたまんまだよねぇ……」
そう、私のチェーンソーは真っ二つにぶっ壊れたまんまなのだ。ファンタジーなんだからすぐに治るもんだと思っていたけど、ざんねんながらそんな事は無く、壊れっぱなしである。
◇
「はーまあいっか。どうせ出てくる魔物から奪えばいいよね!」
私はそういうと、ダッシュして洞窟を進んでいく。光は無いので、手探りではある。しかし野生の勘?のようなものに私は導かれながら走る。
すると突然目の前に魔物の足音がした。のでぶん殴る。蹴る。蹴る。蹴る。足げにして踵を落とす。多分首だと思う場所をひねる。
あっという間に、そこにいた全ての魔物が姿を律可に見せる前に死んだようだ。だがそいつらの誰一人として武器を所持していなかったので。
「もー可愛い可愛い律可ちゃんに!拳で殴れと申すの!?もーヤダヤダ!!」
先程容赦なく殴っていたのは何処の誰だったか。多分律可は特に覚えて居ない。
◇
そういえば私のステータスってどうなってたっけ?……何かすっごい強力なスキルを手にしてた気がするし……でもなんだろうか?さっきから体が思うように動かないんだよねぇ。
そう言って拳をぶんぶん振り回す律可。先程から戦いの中で強くなる感覚のようなものが無かったのだ。なんというか──変化しない。そんな感覚がこびりついて離れない。
「んー気になるし、ステータスオープン!」
そして私は自分のステータスを見た。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
【文名 律可】〈Lv0〉〈人■種〉
【HP】〈1/1〉
【MP】〈1/1〉
【物理攻撃力】〈無し〉
【魔法攻撃力】〈無し〉
【総合防御力】〈無し〉
【敏捷反応力】〈無し〉
【総合幸運値】〈無し〉
【保有スキル】該当無し
【保有魔法】該当無し
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……ん?何か何も無いんだけど?……え、えっ?
私は何が起きたのか分からず、ただ唖然と自分のステータスを見つめる。
何度も目をこすってタスキルして呼び出し直しても、そのステータスは変わらない。
ただひとつ分かることがあった。それは今の自分が死ぬほど弱い、と言う事だ。
◇◇◇
静かに、玉座に座る男……〈サイダ・サイダ〉王は静かに……先程の光景を思い出す。
あの女……文名律可と言う女。やつは危険すぎる。……奴はこの世界を救う為の存在では無い……アレは、破壊神の化身だ。
律可、そう呼ばれたあの女はアッザム茶を飲んだあと……突然武器を取り出して暴れ始めた。
あまりにも急に暴れ始めたので、たくさんの騎士たちが大怪我を負うことになってしまった。
かろうじて動きを止めていた所を、あの後無事にダンジョンをクリアした三人の異世界人の手で、あの女は倒された。
アッザム茶はその人間の本性を曝け出すお茶だ。それを飲んだことであの女はおそらく内部に隠し持っていた狂気がはみ出してしまったのだろう。
そしてあの女はすぐに起き上がって回復し始めたのだ。あれを止めれたのは間違いなくあの異世界人三人のおかげだろう。
あの後あの女のスキルは危険すぎるという事であの異世界人達が協力して放った奥義で消去させてもらったが……。
その際にステータスも何もかも危険すぎるので消去しておくこと。と枢機卿の進言もあり、あやつを何も持たぬ状態で洞窟に投げ捨てたのだ。
……アレはこの世界に存在してはならん。……悪く思うなよ、異世界人。我らは今既に瀬戸際なのだ。
そういうと、ゆっくりと窓の外を見て、そして空の彼方にある巨大な───〈浮遊する城〉を見る。
「……あれを撃ち落とさねば、我らに平穏は無い。……だがあれを落とせるのは……異世界人だけなのだ……故に我らは選ばねばならん。……絶対に負けない異世界人を」
そういうと静かにため息を吐き出した。
◇◇
「危なかったね、まさか律可ちゃんがあんなに危ない人だった何て……人を見さかいなく襲う何て……あの人、蛮族じゃないの?!」
ポニーテールの金髪の女の子がそう言って愚痴る。
「やめろミク。彼女にだって何かあったとしか思えん!……だが……」
真ん中にいた大剣を持った男が少し悲しそうにつぶやく。
「はぁ、だとしてもあの暴れっぷりは流石にダメでしょ。あんなのもう化け物だとしか言いようがないって」
そう言って弓を構えた男がそう言って呆れながら答えた。
彼らは律可のクラスメイトであり、先程暴走した律可を止めたのも彼らである。
〈鎌田 三玖〉……金髪のポニーテールな女の子。双剣を使い、異世界転移時に手に入れたスキルは【加速斬撃】【超加速】。速さを生かした戦いをこのむ女の子だ。
〈天利 悠一〉……大剣を持った黒髪の男。最初戦ったゴブリンに足を斬り落とされたのが未だにトラウマだ。スキルは【剛力剛心】【消し去るモノ】【耐えうる者】。耐久しながら殴るタンクとアタッカーをこなせる男。
〈久永 与一〉……弓を持った黒髪短髪トゲトゲ頭の男。いつも世間を舐めた目をしていると言われているけど、素である。スキルは【絶対命中】【スキル封印】遠距離からペチペチ弓を撃つのが好きな弓道部の男。
彼らは、呆れながらそう言ってアッザム茶をのむ。別にそれを飲んだからと言って三人は暴走することは無かった。
彼らは今、サイダ王から呼び出され、その上で今後の話をすると言われたのだ。
まあ要するにしばらく待っていてくれと。
◇◇
だがひとつ、訂正しておくべきかもしれない。律可が暴走した理由について……だ。
彼女は、お茶を飲んだタイミングで何者からかの干渉を受け、スキルが自動的に暴走する状態になってしまった。
そしてその効果に……彼女はゴリ押しで対応しようとした。そしてその結果、体が暴走を起こして暴れてしまったと言う訳だ。
まあ完全に貰い事故なのだが、それは知らない人にとっては突然暴れだした状態に変わらないのである。
まあともかく文名 律可はこうして反逆者として、危険人物としてスキルとステータスを全て奪われた状態になってしまったのである。
───だが、それがむしろ律可を強くしてしまう事になるとは……その時はまだ誰も思わなかったことであろう。
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