第4話 〈熾天使・ミカエル〉と〈適応〉

 目の前に現れた剣が、"自分を取ってくれ"と囁く声がした。

 ので無視してその場に置いておく。別に要らないし、わざわざ剣を使うよりこの───、


 で切るほうが余っ程簡単だもの。


 そんなふうにしばらく無視しながら私は次のフロアへの道を探そうと壁やらなんやらをまさぐって見たのだが。


「どこ?次の道は?……んー普通に考えるか。」


 私は頭をぽりぽりと掻き、改めて入ってきた入口に視線を向ける。

 ……普通入口の反対側に出口はあるよね?


 私はそう考え、反対の出口になるべき場所を見るが、そこには壁しか無かった。

 なるほど?つまり事ね!OKおっけー!


 とりあえずじっとしている暇が勿体なく思えた私はチェーンソーを再び起動し、壁に刃先を刺す。

 うえっ、ぺっぺっ!

 土塊が口の中に入ったので私は眉を思わず真ん中に寄せる。なんか違うような……まあ何とかなるなる。多分?



 ───5分後、私は───、


「まどろっこしい!しゃらくせぇ!おらァ!さっさと開けんかいこの扉ァ!!」


 の前にいた。

 結局あの後しばらくチェーンソーで壁を切って……間違えた、掘っていたところ衛兵の方が慌てて入ってきて──、


「次のボスは今さっき手にした〈炎剣サラマンダー〉を地面に突き刺すことで行くことが出来ます!」


 と説明された訳だ。ちなみに何故か目をそらされた。何回も。

 私はむう、と頬を膨らませたあと。


「分かりにくいからそんぐらい看板たてといて!!」


 とぶっきらぼうに、投げやりに呟いて足早に剣を地面に突き刺したのであった。

 そそくさとその場を後にしながら、私は髪を掻き回し。


「───もうっ!これじゃ私が頭のおかしな女の子だと思われちゃうじゃん!だって衛兵さんめっちゃ困惑してたよ?!あ〜絶対なんか後でバカにされてるって〜〜〜。」


 そうぶつくさと文句を垂れ流しながら早々と足を回す。

 ────勿論そんな彼女に、"いや既に手遅れでは?"なんていう優しい助言をしてくれる女神は居なかったのだ。

 後"服、消えてますよ"なんて言う優しい言葉をかけてくれる衛兵も居なかった。


 ◇◇◇


 ま、まあー?切り替えていこう。うん、切り替え切り替えー。

 にしてもなんか寒いなぁ……ってあれ?洞窟暗くてあんまり分かんなかったけどもしかして───、


「裸じゃん?!うっわ恥っず!!……まあこんな私の裸見て悦ぶ男とか居ないよなぁ。じゃいっか!それよりこの門どうやって開くんだろうか?」


 彼女はそういうと門の前で首を傾げたのだ。とりあえず一発殴っとくか?


 ◇◇◇


 で最終的にその門目掛けてダッシュで蹴りを入れていたところ、急に扉が空いて中から光の槍がめっちゃ所狭しと飛んできのである。


「───何?魔物たちは私に先制攻撃しないと気が済まないとかそんな感じなの?」


 勿論その程度じゃ死ぬわけがないので、私は改めて投げてきたやつを見て腕を組んで威嚇をする。


『然り。我が眼前にあるべきでは無い存在は。早急に処理するべきである。故に人間。貴様には明確な死を与える。』


 へぇ、それはどうも。私はそう言いながら目を見開いてを睨みつける。


 ──〈熾天使セラフィム・ミカエル〉そんなフォントが頭の中に流れた。

 六つの赤色の羽を持ち、右手に剣を。左手に天秤を携えたそれが〈ミカエル〉である。


 頭の上に回転する輪っかはおそらく天使の象徴たるヘイローで、しかし奇妙なのは何故か布にくるまれた人形のような姿を取っていたことである。


 人間であれば顔の部分には真っ黒な穴があり、中には何個もの光が渦巻いて見えた。


『────不可思議。審議再開。眼前に座すものは果たして人間なのか?

 ───定義補足。スキルによるものと判別。

 ──理解。回復系列のスキルの封殺による焼却を開始。』


 なんかよく分からないけど、回復スキルの封殺とかいう嫌なワードが聞こえたんですが?

 だがこちらの言葉など意に返さないように〈ミカエル〉は天秤を掲げて───、


『福音・封殺されし回復の祝詞アンチヒーリングフィールド


 そう唱えた。


 ▶〈アンチヒーリングフィールドの効果により、個体名【文名 律可】の回復系列スキルの効果が無効化されます。〉


 またしても眼前をそんなステータスメッセージが流れた。

 ……?やばくね、それ。


 そう思った私の左腕が、光の槍により貫かれた。

 途端にものすごい激痛が律可を襲う。

 口から唾がだらり、と溢れ出るがそんな事を気にしている暇などなかった。

 すぐにその場を蹴って後ろに下がる。


 直後先程まで自分がいた場所に100を超える光の剣がぶっ刺さる。


「───ちっ、まじか。回復不能空間ってのはマジなのか……あ〜厄介にも程があんだろうが!」


 そう言いながら、律可は切り飛ばされた腕を見る。断面は光の槍の効果が知らないが赤熱しており、熱と切断された痛みを律可にプレゼントしてくれていた。


「はぁ〜、あ。うっわグロ!腕が地面に落ちてるのを見るとなんか気分がわりぃわ。──また口(。´・ω・)ん?悪くなってるし……オホホ、失礼。」


 そう言いながら律可は反対側の手で再びチェーンソーを構える。そしてそのまま飛び出して行くのであった。


『理解したか───待て?審議再開。不可思議、理解不可。対象は何故痛みに恐怖を覚えない?』


「?不思議なことを聞きますね、天使擬き風情が。何故私が泣きわめき、戦意を喪失すると思っているんですか?」


『───理解不可。対象の精神構造は規定の人間性を遥かに下回る。─危険分子と認定。即座に誅伐を執行。』


 今度は誅伐だの、執行だの好き勝手言いますねこの天使もどきは。

 どう考えても私はうら若き乙女なのに、出会って数分のやつにこんなにボロくそ言われるなんて乙女心が傷ついちゃうな!


 私が〈ミカエル〉との距離を僅かに詰めた、次の瞬間──、


『誅伐福音・断罪燭光フォトンジャッジメント


 羽の先端から無数の光が解き放たれる。それは枝分かれしながら、されど確実に一人のソレを狙って辺りを埋めつくして。


 "キュキュキュキュキュ"!!!


 ガラスを擦る音がして次々と律可を串刺しに、していく。無慈悲なる光はただの人間である律可を簡単に針山のような姿に変えてしまった。


「───────………………………」


 ソレを食らった律可は全身から絶え間なく血を噴き出して光の槍に寄りかかる。

 手からは力がなくなり、瞳からはゆっくりと光が失われていく。

 ───所詮回復スキルに頼っているだけの人間の末路としては、実にその通りとしか言いえない結果である。


『───誅伐完了。危険分子排除。──これより再び待機状態────……?』


〈ミカエル〉は安心しながら羽を再び閉じる。つもりだった。

 しかしそこであることに気がつく。


 ?という事に。


 先程放たれた『誅伐福音・断罪燭光フォトンジャッジメント』が誅伐をした存在は、光でその肉体を破壊されるはずなのだ。

 だから死体が残るという事はありえないというのに。


『不可思議、審議。審議開始。』


〈ミカエル〉が再び状況を確認しようと、思考をめぐらし始めたその時の事。


「─────さて、と。ではそろそろ反撃ゴリ押しの時間と行きましょうか。」


 そんなありえない言葉が耳に流れたのだ。


 ◇◇◇


 律可が『誅伐福音・断罪燭光フォトンジャッジメント』を受けた直後の話に遡るが。


 彼女の視界にとあるスキルのステータスメッセージが表示されたのだ。それこそが。


 ▶〈【適応】を開始します。【天命魔法】に対する適応を開始〉

 ▶〈【適応率】現在は62.4%……63.5%……71.0%。7割を超えたため〈回復不可〉の効果に適応を開始──成功しました〉

 ▶〈これにより〈自動再生〉が再起動されます。肉体の欠損を確認、肉体の再構築を開始。──完了〉

 ▶〈【天命魔法】への完全なる【適応】が完了しました。上記の【適応】を【耐性】に加算しました〉











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