第3話 〈炎竜サラマンダー〉?ゴリ押しだよ!

〈炎竜サラマンダー〉と呼ばれる魔物がいる。赤く燃え上がる炎のような肉体と、並の鉄鉱石すら歯が立たない硬さの鱗を持つ魔物。サイズは実に冒険者達の六倍はあるだろう。

 見た目は大きなトカゲといったところだが、特筆すべきは翼がしっかりと備えられているというところだ。

 分類的には〈炎竜種〉と呼ばれる炎の魔力を体内に有する魔物の一種だ。


 基本的に深い洞窟の中にいることが多いその魔物は、ごく稀に人里に降りてくることがある。


 そしてそれは〈炎の厄災〉と呼ばれる程の大災害を引き起こすのだ。体から迸る火の粉は作物に火をつけ、鉄の鎧の騎士すら簡単に溶かしてしまう。

 魔力の防御ですら防げぬ熱を操り、〈火竜種〉よりも優れた炎を操る魔物。

 故に〈炎竜サラマンダー〉とは戦うべきでは無い魔物である。──と定義されている。


 ───著書〈戦うべきでは無い魔物100選〉より一部抜粋


 ◇◇◇◇



〈炎竜サラマンダー〉はがそこにいることを即座に感知し、その口を大きく開けて入ってくるのをただひたすらに待ち続けた。


 そして扉が開かれた時、その獲物がに入る前にその体を焼き尽くした。

 だがそれでも尚、〈炎竜サラマンダー〉は金色の瞳の中の、縦長の瞳孔を焼きこがされたそれに向ける。

 あまりの高温故に、獲物であったそれからは陽炎がたちめぐり、洞窟の景色が少しだけ歪んで見えた。

〈炎竜サラマンダー〉の口から放たれる摂氏1500℃の炎は、それを確実に焼き払った。


 ────危険は去った。

 サラマンダーはそんなことを何故か頭で理解していた。炎竜種、いや竜種は基本的に知能が一般的な魔物よりも優れている。それは骨格や誕生の仕方などによるものだ。

 そして何よりになる魔物がほとんど少ないことも知能を上げる要因に繋がっている。

〈人間〉というのは〈サラマンダー〉にとっては、ただの暇つぶし程度の存在だ。確かに途方もなく強敵が居ないとは限らない。

 だがそれでもは比較的若かった。そして何より試しがなかった。所謂と言うやつだ。


 ───先程外に現れたやつは確かに強力な匂いがした。鼻先からそんな予感を感じ取った〈サラマンダー〉はとりあえず何もさせないように殺すことだけを意識したのだ。


 ───これで脅威は去ったはずだ。そう考えた〈サラマンダー〉は炉心と呼ばれる心臓器官を落ち着かせながら再び挑戦者を待とうとして────、


 違和感に気がついた。

 何故、何故自分ののかと。

 獲物……外敵は去ったはず。心臓は普段の状態に戻ってもいいはずなのに、?!

 途端脳裏に電撃が走る。


 ────そんなはずは無い。まさか、まさか。


 慌てて先程焼き焦がした……完膚なきまでにその身を焼き尽くしたそれを目で追う。


 ──ちゃんと黒焦げの死体がそこにあった。良かった、良かった。

 ほっとしたように息を吐きかけて……、


 そして気がついた。気がついてしまった。


 


 そして────虐殺はあっという間に行われるのであった。


 ◇◇◇◇


「────さてトカゲ、お前できてるよな?」


 ジュウウウウウウ!!!!という音が部屋の中に鳴り響き、人影がされる。

 まだ炎の影響を受けているのか、踏み出した足がすぐにボロボロと崩れ落ちているのだが、それもすぐに再生されていく。


 手に持った〈回転鋸チェーンソー〉が復活を褒め称える賛美歌のようにフロアを埋めつくし、そのチェーンソーが地面と擦れる度に舞い散る火花が……その女の顔面を明るく照らしあげるのであった。


「────さぁやろうか、トカゲくん。……第2ラウンドの幕開けだ!……最も、なんてのは────存在させないんだけどね!」


 ◇◇◇


〈炎竜サラマンダー〉は自身の体が宙に浮かされた時、初めて理解した。

 と。

 それでも、と歯を食いしばりながら再びブレスを吐くために喉元に炎の魔力を貯めたその時。


「──2度目はないんですよ。残念でしたね。」


 律可は手に持ったチェーンソーを。それの目的地はもちろん、〈サラマンダー〉のだ。


 チュイイイイイイイイイインンンンンン!!!!


 鱗とチェーンソーの刃先が噛み合い、ものすごい音を立てて火花を散らす。


 ほいじゃあ、サクッとやっちゃおうか!

 私はそう言いながら地面を蹴り上げて、今目の前で拮抗しているチェーンソーを握り直す。

 そしてもちろん────ゴリ押し横薙ぎ払いっ!!


 チュイイイン!!!


 拮抗していた状態が崩れ、刃先が楽しそうに回転を取り戻す。

 そして私は顔面に降り掛かってくるの魔力の籠った鮮血を浴びる羽目になった。


「あっつ?!!……あれ?いやあんまりだね?」


 目の前が陽炎で歪んでたし、相当熱いと思ってたのに……何故かそこまで熱量を感じなかった。

 不思議だなぁ?と思っていると、私の視界の横にステータスメッセージがピロン!と表示された。


〈──高熱に対する【適応】及び【適合】が完了しました───〉


 なるほどぉ。じゃあもうこいつ何も怖くないじゃん。さっきから熱いのバカスカ浴びせられて心底嫌だったんだよねぇ。

 確かに再生するし、体力もすぐに戻るから痛みは無いんだけど……。


「私暑いのめっっっちゃ嫌いなんだよ!」


 母親は大阪人だと言うのに、どうしてか知らないけど暑いのが私は嫌いなのだッ!


 私はそんな事をぶつくさと文句垂れながら、再びチェーンソーの向きを回転させてその首に押し当てる。


「───まぁ、そういうことで暑いのは嫌いだからサクッと殺らせてもらうよ?……ってお前ちゃんと飛べるんかよ!!」


 キメ顔でそんなセリフを律可が言ったそばから、〈サラマンダー〉はその場を離れるために空を選択した。


 デカイ図体からは想像出来ないほどの高速の飛行。それはある意味火事場の馬鹿力とでも言うべきものだったのかもしれない。

 何故って?の羽は基本飾りにしかならないからね。


 ◇


 不味い、不味い不味い不味い!!


〈サラマンダー〉は焦っていた。今まで敵対する魔物が居なかったこともあり、これだけ血を流したのも初めてであったが故に。


「───────ヒュー────ヒュー───」


 焦って声を出そうとしたが、喉からは風切り音が漏れるだけ。

 血が胸元の鱗に溜まって気持ちが悪かったけど、それどころじゃない。

 翼を動かしたのなんて実に100年振りだ。何とか機能してくれたことに感謝しながら一旦この場を離れ────、


「どこ行くんだ?君は───だろう?ほら、トカゲは地面を這うべき……じゃないだろうか?」


 刹那、ゾクリとする声とともに浮く力が消失し──、落下する。


 震えながら下を見ると、既に着地を決めたが微笑みながら武器を構えていた。


 嫌だ!落ちたくない!落とさないでくれ!戻してくれ!俺は逃げるんだ!


 必死に羽を動かすも、体は下に落ちていく。トカゲは所詮トカゲという事だ。

 竜は進化の過程で何かを捨てる。そしてサラマンダーは空を捨てたのだ。


 ───まあ最も、別に空を飛べたからといってね。


 そして────。


 ◇◇




「─────あっつつつつつつつ!!!!、くない!!!!けど、ねっちょねちょ!!」


 落ちてくるサラマンダーを切り倒した所、その体内の臓物やら血とかを一身にくらい……暫く血まみれの状態となった律可なのであった。


「あれ?血が消えてく……ってかなにこれ?石が3?」


 律可の足元には謎の宝石が3つ落ちていた。

 それを拾い上げるとその内の一つが反応を示す。

 そして目の前に表示されたのは───、


 ステータス表示であった。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

【炎竜サラマンダーの魔石】レアリティ【8】


【炎竜サラマンダーを討伐した者に授けられる魔力の籠った石。だがこれを使うことは出来ない】


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 ?使うことはできないって何だ?わかんないけど……まあいっか。

 ───ってなんだ今度は?


 私が首を傾げていると、同じような石っころの一つが輝きを放ち……そして。


 ▶『〈炎竜サラマンダー〉討伐の報酬としてユニーク装備を精製します』


 ▶〈炎剣サラマンダー〉を精製します。……精製完了

 ▶〈炎剣サラマンダー〉の所有者を〈文名 律可〉に設定しました


 ……なんか突然ゲームみたいなアナウンス流れたけど?

 ……そういやなんか戦ってる最中にもアナウンス無かったっけ?

 あれ?どうだっけ……。

 私が首をネジ切れるんじゃないかってぐらいに捻っていると、突然目の前に剣が現れたのであった。




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