第23-2話
神殿を後にした私は、シエル庭園に向かった。
庭園の拡大するという王妃様との約束を守るため、最近は庭園の管理をより徹底させている。
今日は拡大したスペースに、新しく薔薇の種を植えた。
既に薔薇の栽培はしているが、異なる種類の薔薇を栽培したかった。
上手くいくかは未知数だが、手にしたい薔薇があった。
「その種は、以前ローズ様が自室の鉢に植えていた種と同じですね」
「お越しいただきありがとうございます、デミアン様」
デミアン様には今後のことを話し合うため、ここに来てもらった。
あらかじめ用意しておいた自家製ハーブティーをデミアン様に渡し、2人でベンチに腰掛けた。
「今後の戦略について、デミアン様に話しておこうと思います」
「お聞かせください」
「南の都・ビスカスを私たちのものにします。そのためにも、近いうちにビスカスに向かいます」
「前にも仰っていた通りの戦略でいくのですね」
「はい。
紆余曲折ありましたが、結果的には理想的な形で向かうことができそうです」
「2つほど伺いたいことがあります」
「何でしょうか?」
「アンディーク以外の都を私たちのものにする、その理由はわかります。パドリセンに対抗するには、アンディーク単体では全く歯が立ちません」
その通りだ。
「関節統治する場所をビスカスにした理由をお聞きしたいです」
デミアン様から、このような質問を受けるとは…
結婚式、そして婚約が決まったときあたりからだろうか、
デミアン様が日に日に、賢く、たくましく、そして、頼もしくなっているような気がする。
「1つは武力です。パドリセンの武力に対抗できるのは、ビスカスのルワーナ騎士団くらいです」
「もう1つは、ソラッド王国で唯一、海に面している都だからです」
「海に面していることに何かメリットが?」
「アンディークで作ったワインを、世界中にに輸出することができる」
「ワインを?!
そ、そんなことが可能なのでしょうか?私の知る限り前例がありません」
「前例がなければ、私たちの手で前例を作ればよいのです。デミアン様には紹介できていませんが、私たちには信用できる貿易職人がついています」
「上手くいけば、多くの利益がアンディークに入ってくる」
「どうしたらそのような発想が思いつくのか…」
私もサビラに助言をもらうまでは、そのような発想はなかった。
「信用できる方とは、一体どなたのことなのですか?」
「それはいつか教える日が来ますので、その日まで待っていてください」
「何か理由があるのでしょう、わかりました」
まだデミアン様に4人を紹介するタイミングではない。
「聞きたいことのもう1つを教えていただいても?」
グラスを持つデミアンの手に、力が入った。
「はい、その…
ローズ様が以前仰っていたお兄様の弱みとは」
「そのことですね。
デミアン様は気づかれているのでは?」
デミアン様は変わった部分も多いけれど、全く変わらない部分もある。
感情がわかりやすい。
「お兄様が経験された婚約破棄に、何か関わりがあるのですか?」
「その通りです」
デミアン様の兄、ロバート・グレーには婚約者がいた。
貴族のなかでも噂になるほど、2人はお互いに惹かれあっていた。
私も2人をお目にかかる機会が何度かあったが、輝きそのものだった。
夫婦としての未来に希望を抱いていた当時の私は、いつかラビラともあの2人のような仲睦まじい関係を築いていきたい、そんなことを思っていた。
けれど、2人は私たち同様、婚約破棄を経験した。
原因は、グレーの婚約相手であるフライト侯爵家令嬢・フライト・クリスタル様が、公爵夫人の宝石を密売したことが発覚したのだ。
瞬く間にフライト侯爵家は貴族の世界を追放された。
「たしかに婚約破棄はお兄様の心の弱みですですが、それとビスカス征服とはどう関係が?」
「クリスタル様を見つけ出して、グレー様の元へ連れて帰ります」
「その後、クリスタル様を引き渡すことを条件に、交渉へと持っていきます」
「何ですって?!」
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