第22-2話

「それは私にもわかりません。実際に彼と剣を交わらせたこともありませんし、彼が戦っている姿も見たことがありませんので」


「そうですか…」


「ですが、ルワーナのトップに君臨するほどの男です。相当の実力であることは間違いないでしょう」


「ビスカスに手を出すことは、私も賛成はできません。ですがもしやるというのなら、力をお貸しします」


「ありがとうございます」


「私からも1つ聞きたいことが、」


「どうしたのですか?」


ガレットから質問とは、珍しい。


「その両頬の傷はどうなさったんですか?」


以前なら顔に布を多い、隠していたが…

今更そんなことをする必要はないと判断した。


「私の弱さです」


「結婚式に参加されたときですか?」


「ええ、

気にしないでください、痛みはありません」


真正面から南に立ち向かうのが危険なら、別の方向から攻めればいい。


最初から舵をそちらに切っておいて正解だった。


ロバート公爵家次男で、デミアン様の兄に当たるロバート・グレー。


この方の弱み、それは元婚約者の存在。


元婚約者のクリスタル様を見つけ出すことができれば、交渉を優位に進めることができる。


……


「お嬢様、侯爵家からお嬢様宛にお手紙が届いています」


「わかりました」


タイミング的に考えて、結婚式の日にあった事への口止めだろう。


手短に着替えを終わらせ、軽い気持で手紙を開封した。


何の期待もなしにサラサラと文書に目を通していったが、途中にでてきた信じられない文章に私は目をうたがった。


繰り返し見間違えではないかと確認するも、そんなわけなかった。


「お嬢様、どうかなさったのですか?」


私の様子がおかしい事に気づいたソフィーが、近くにやって来た。


「こ、これを…」


私は手紙をソフィーに渡し、肝心な文書を指さした。


「王妃様の提案により、デミアン卿との婚約を認める事とする」


この文書を見たソフィーは、手紙を投げ捨てた。


「ローズ様!」


私に抱きついたソフィーは、自分のことであるかのように喜んでくれた。


こんなに喜んでいるソフィーを見たのは初めてだ。


一瞬、私もソフィーの温もりの中で口角が上がった気がする。


「ローズ様!」


開いたままの部屋の扉から、デミアン様が入ってくる。


その瞳には涙が浮かんでいる。


嬉しそうなソフィーは、席を外しそっと部屋の扉を閉めた。


「夢のようです…

こんなことが本当に起きるなんて」


デミアン様は嬉しそうにしていたが、以前とはどこか違った雰囲気を目の前のデミアン様から感じた。


「王妃様が、また私たちのために動いてくださるなんて…」


そう、今回も王妃様が動いてくださった。


謎深きお方だ。


「ここまでしてくださる理由はわかりませんが、今はそのことは頭の片隅に追いやりましょう」


「そうですね」


デミアン様は私の前に立った。


「あの日からずっと、ローズ様を守ってあげられなかった自分への不甲斐なさ、力不足さを恨み続けています」


デミアン様の雰囲気が違ったのは、このためだった。


自分を責め続けたからなのか、前よりも大人になったように感じられた。


「今後はあのような目に二度と合わさないことを、今ここで約束します」


「信じてます」


いや、信じない。信じられない。


今の私は誰も何も信じられない…


「今だけは、何も考えないいでください」


デミアンが様の大きな体が、私を優しく包み込む。


私はデミアン様に体を委ねた。

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