第20-1話

「目が覚めましたか、ローズ様?」


これは幻覚なのか…

デミアン様が私の手を強く握っている。


自室のベット…そうか…

自分が気を失っていたことを思い出す。


この状況、いつもの私なら動揺していただろう。


だが…


「よかった…」


長い前髪の奥に映ったデミアン様の瞳は、

いつもより潤っていた。


「私にも先ほど招待状が届き、どうにかなってしまいそうでした…」


「デミアン様も…」


そう、ミカエラとローズの結婚式…


私の場合、

ラビラと婚約を交わしてから、結婚式の話など数年経ってもでてくる気配はなかったというのに。


ミカエラはこんなに早く…


湧いてくる怒りを必死に抑える。


あの人たちはどれだけ私を苦しめれば気が済むのか…


本来、結婚式の招待状なら通常1週間以上前には届けるのが通例だ。


私の場合は特別だ。


そしてデミアン様も私と同じくらい特別だ。


故意に雑に扱っても問題ないと見なされている。


「デミアン様…

貴方も、本当に苦労をされてきたのですね」


ここまでの扱い。詳しい話を聞かずとも、その苦労が見えてくる。


「こうも似た2人が出会うなんて、運命とは不思議なものですね」


私もデミアン様も言葉にしないだけで、

心の中はあらゆる感情が波打っている。


「私は大丈夫です」


「明日は早朝の出発です。

お互い、早めに休みましょう」


「そうですね…」


お互いがお互いの気持ちを理解している。


けれど、何も言ってあげられない。


慰めの言葉の1つも思いつかない、そんな切迫した心境。


~~


いつもより早く波打つ脈を感じながら、明日の簡単な準備に取りかかる。


ドレス・宝飾類選び、祝福の言葉の準備、舞踏会が開かれた場合の動きの確認。


一瞬でも気を紛らわせるならと思い、入念に準備に取りかかった。


それでも、1~2時間もすれば終わってしまう。


ベットに入るも、眠れるはずもない。


パドリセンに住んでいた頃と同じように、

天井をただ眺め続ける。


明日はデミアン様が近くにいない。


アンティークに来たときにできなかった分、

お母様は相当鬱憤が溜まっているはずだ。


明日は生きて帰れるだろうか。


頬を叩かれ、髪を引っ張られ、首を絞められ、

止めに入る使用人たちも同じような目にあう、そんな姿が天井に映し出される。


心が深く沈んでいく。


デミアン様は、今頃窓から夜空を眺めているのだろう。


私もデミアン様も、復讐を成し遂げるため、

明日は絶対に耐えしのがなければならない。


~~


わかっていたことだが、結局一睡もすることができず朝を迎えた。


カーテンを開け、

朝日が私を照らすも、庭園に行く気力すら出なかった。


苦痛が待っていると知りながらも、私は行かなければならない。


ここで逃げるようなやつに、復讐など成し遂げられるはずもない。


私とデミアン様は、同じタイミングで正門に到着した。


いつもより見目は整っているはずだが、お互い何を言わなかった。


何か言おうとしても、言葉が喉につまる。


「何かあったときは、私が必ずお守りします」


デミアン様は、私を軽く抱きしめ馬車に乗り込んだ。


デミアン様を見送り、私も正門を出発した。

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