第19-2話


「お待たせ、ソフィー。これを被ってください」


「お嬢様、こちらは?」


「いつもお世話になってますからね、

プレゼントの1つくらい受け取ってください」


ソフィーは帽子を受け取り、ゆっくりとかぶった。


同じ帽子を私もかぶる。


この帽子は、以前デミアン様と一緒に行った服屋で買った帽子で、今回はソフィーに似合うような帽子をマリーに選んでもらった。


「お揃いです」


「お嬢様、ありがとうございます…」


ソフィーは瞳に涙を浮かべた。


緊張したけど、喜んでくれてよかった。


2人でゆっくりと散歩をするのも、初めてではないだろうか。


こんな機会滅多にない。


らしくないが、質問攻めをしてしまった。


ソフィーの好きなことは?

ソフィーの好きな異性のタイプは?

ソフィーの好きな季節は?

ソフィーの好きな食べ物は?

ソフィーの好きな植物は?


ソフィーは少し困っている様子だったが、

今まで聞けなかったことをたくさん聞くことができて、私は満足だった。


「あと1つだけ教えて欲しいことがあるのですが…」


「お嬢様、これが最後ですよ」


「もちろんです…」


最後に取っておいた、1番気になっていたこと。


「ソフィー、あなたの夢を聞かせて欲しい」


「夢ですか?」


「…」


「私の夢は、自然に囲まれた場所で喫茶店を開くことですかね」


「色んな人を迎えて、

談笑して、珈琲だけでなくときにはワインでも飲んで、ただ穏やかな日々を過ごしたいです」


「喫茶店ですね、覚えておきます」


「そんな、忘れてください…

叶うことのない夢ですから」


「いえ、忘れません」


ただ穏やかな日々を過ごしたい…

ソフィーはいつも私の隣にいた。

私と同様、穏やかな日々を過ごしたことなんてない。


穏やかな日々への期待を抱くとも当然だ。


必ず叶えてあげる。


喫茶店をオープンさせたら、私をお客として歓迎して欲しいな、


そんな言葉は、また今度にとっておこう。


……


シエル庭園に寄って2人で水やりを終わらしてから、旧王宮に戻った。


気のせいか、旧王宮もデミアン邸もいつもより騒がしく感じる。


部屋に戻ろうとすると、


メイドが部屋の前で私を待っていた。


「お帰りをお待ちしていましたお嬢様、

ピアール侯爵邸から招待状が届いています」


「招待状、

一体何の招待状ですか?」


「それがその…」


メイドは、言い出せそうになかった。


その様子から察するに、よくないことであることだけは確かだった。


「あまりよくない話なのですね、大丈夫です。

聞かせてください」


少し安心したのか、メイドは口を開いた。


「妹のミカエラ様とラビラ王子が結婚式を開くことになり、その招待状です…」


「すぐにでもパドリセンに戻るようとも記されています」


すぐさま、メイドから招待状を奪い、内容を確認した。


ミカエラとラビラの結婚式…


頭に血が上りすぎたのか、フラフラとしてくる。


「ローズ様!、ローズさまっ、」


メイドの声がどんどん遠ざかっていく。


そこで、私は気を失った。

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