第19-1話

「王妃様になにか言われたのですか?」


「あ、いやそういうわけでは…」


「そうなのですね」


このタイミングでの婚約の申し出、聞くまでもなくわかる。


「私は元々、婚約をしたいと思っていました」


握られたデミアン様の手から、早くなっていく鼓動が脈を通って伝わってきた。


「ただ、今日王妃様とお会いして、

お話をする中でその気持ちが強くなりました」


ここまで真剣に気持ちを伝えられたことが初めてで、一体どう答えればいいのか…


「復讐を円滑に進める上で

夫婦という関係は何よりも強みになります。

私はローズ様との間に愛など求めていません、

ただ駒として私をお使いください」


デミアン様は私に方に向き直り、再び力強い眼差しで私を見つめた。


「私もそろそろだと思っていました、

婚約しましょう」


何事にもタイミングは重要だが、

このタイミングでの婚約は悪くない、むしろこの機会を逃すわけにはいかない。


「本当によろしいのですか?」


「断る理由が見当たりません」


握られたデミアン様の手の上に、もう一方の手を重ねた。


「これからよろしくお願いいたします。

デミアン様」


「こちらこそ。必ず成し遂げましょう」


デミアン様も、もう一方の手を、

重ねられた私の手の上に多いかぶせた。


両親の同意がない以上、まだ婚約は決定していないが、婚約を望んでいるという旨は、お互いその日のうちに使用人たちに話した。


お父様とお母様は何と答えるだろうか…


気にしていてはダメだ、今はアンディークの再建に注力しなければ。


まずは農業の開始だ、そこから小規模な拡大を繰り返していく。


少しづつでも、止まることなく成長していく。


今回は王妃様の助けがあったから何とかなったが、もう失敗はできない。


……


「交渉完了」


輸入交渉が終わったことをアイカス神殿の石碑で確認し、トンゼのいるワイン工場へと向かった。


~~


「私も着いてきてよかったのでしょうか?」


「ええ、トンゼとの話が終わったら2人で農道を散歩しまししょう」


「はい、光栄です!」


今日はソフィーに付き添ってもらったいるが、

1人で外出することが多くなってきたからか、隣に誰かがいるこの状況に違和感を覚える。


アンディークにいた頃の自分なら、こんなことは絶対にできなかっただろう。


「行ってきますね」


馬車から降り、営業停止中となっている工場に入った。


「待っていました、ローズ様」


「農業に必要なものは全て揃いましたか?」


「はい、マリアットからカリビア大橋を通って全て届けてもらいました」


「そうですか、

必要なものは遠慮せず、全て輸入してください。

お金に際限はつけないです」


「そう言っていただけると、こちらとしてもやりやすいです」


農業に関しては、特に問題はなさそうだ。


「人は集まりそうですか?」


「えぇ、

ザビラの奴が今、集めてくれてます」


貿易を専門とするオクール家だが、

貿易の他にも、建築や資本家としての仕事もこなしている。


シエル庭園近くの整備、そしてアンディーク全体の道の舗装などは全オクール家に依頼した。


「ローズ様、正直に申し上げて今の農地の量では、利益は全盛期には到底及びません」


そう、現王家の策略でアンディークの領地は狭くなった。


「ですが必ずや全盛期と変わらない利益を出すと約束します」


この人は、本当にトンゼなのだろうか、

前回あったときとは人が変わったように協力的だ。


やはり彼らの原動力は王妃様で間違いない。


「よろしくお願いします」


トンゼとザビラに任せておけば、

アンディークの再建は大きく前進するだろう。


その人には、その人が得意とする分野がある。

私は私ができることに注力して、分野外のことは専門家たちに任せる。

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