第18話
3人での食事を終え、
王妃様と2人で話すためデミアン様とは一旦お別れをした。
「少し食べさせすぎましたね、ごめんなさい」
私のベットに座った王妃様は、お腹の張った私を
面白そうに見た。
「本当に私の部屋でよかったのですか?
今からでも王室の用意もできますが」
「いいのです。
王室よりも、ここの方が落ち着きます」
自ら使い古した部屋かのように、この部屋は王妃様は馴染んでいた。
「貴方こそ、王室を使わないのですね」
「はい。
広すぎるがあまり、落ち着くことができなくて…」
「その気持ちもわかります」
王妃様は座り直し、姿勢を整え一度深呼吸をした。
その場の空気が変わった。
先ほどのような緊張感はないものの、割り切った
話が始まることはわかる。
「ローズよ、
貴方の好きなようにやりなさい」
私を見つめる王妃様の表情は真剣そのものだった。
その瞳は、私がしようとしていることを、
全てを悟っているようだった。
「デミアンには伝えたけれど、
貴方がデミアンの隣にいてくれるなら、アンディークの統括権を再びデミアンに授けてもいいと思っています」
「今なんと…」
私を地獄に導く言葉ばかり聞いてきたせいか、
天国に導く言葉は耳に入ってこない…
情緒を保てなくなっていることだけはわかった。
「珍しいですね、顔に感情が出てます。
その方が可愛らしいですよ」
王妃様の前では、感情を隠すことができない…
「マリアットとの契約書、あれは私が燃やしておきます」
「貿易の話も通しておきますので、
できるかぎり情報統制だけはしておくように」
解決するまでに何年かかるのかわからなかった、
悩みの種が次々に消えていった。
「か、かしこまりました…」
私はその場に片膝をついて、深々く頭を下げた。
「顔を上げてください」
王妃様の声には、力が入った。
私の行動が気に入らなかったのだろうか…
「二度と私の前で、膝をつくような事はしないでください」
「偽りの忠誠ほど、気分を害すものはございません」
「失礼しました」
王妃様には、わかりやすい嘘など意味がないようだ。その場の感情に任せた浅はかな嘘ほど見抜きやすい嘘はない。
「いくらかお金を寄付します」
「そのお金で庭園をもっと拡大し、周りの整備もして欲しいです」
「次お越しになるときは、
今まで王妃様が目にしたこともない、素敵な庭園を見せることを約束致します」
「期待しています」
長い間続けてきた庭園の管理が、アンディークの再建に繋がるとは…
ここまで続けてきてよかった。
「ところで、
農園も40年前のように繁栄させて頂けるのですか?」
「もちろんです」
「そうですか……」
王妃様は嬉しそうに立ち上がり、扉の方へ歩き始めた。
私はどうしても聞いておきたかった。
長きに渡る疑問。
「王妃様」
王妃様は振り向かずに、動きを停めた。
「いつも、
どうしてそこまでしてくれるのですか?」
私は王妃様から、
今まで受けたことのなかった、母親からの無条件の母性愛のようなものを感じていた。
私は何回考えても、答えがでなかった。
「息子のラビラが、多大なる苦労と迷惑をかけました。せめてもの罪滅ぼしです…」
「それと…
貴方の瞳、大きなことを成す人の瞳をしています」
王妃様は私の返事を聞かずに、部屋を後にした。
王妃様、一体どのような表情をしていたのだろうか…
見えないのが残念だ。
〜〜
「デミアン、ローズ、
お元気で、また会える日を楽しみにしています」
寂しさを感じたのはいつぶりだろか…
行かないで欲しかった。
それはデミアン様も同じようだった。
「王妃様、
私たちは、王妃様のまたのお越しを心よりお待ちしております」
「ありがとう」
王妃様は優しく微笑んだ。
メルシダが指示を出すと、馬車が動き出した。
デミアン邸、そして旧王宮にいた一同が正門に集まり、王妃様一行を見届けた。
……
デミアン邸の庭をデミアン様と2人で歩いた。
黄金色の夕日が、
今日といういい日を、そして庭を歩く私たちを祝福してくれてる、そんな楽観的な妄想に囚われるのも今だけは許されるだろう。
「どうして王妃様は私たちによくしてくださるのでしょうか?」
先程、私が王妃様に投げかけた質問が、今度は私に回ってきた。
デミアン様も、気にしているようだ。
「2人の共通点ではないでしょうか?」
「共通点?」
「私もデミアン様も
家での扱いが…」
「そういうことですか…」
デミアン様は、すぐに理解したようだ。
王妃様が、私の復讐に協力的であることはわかった。
けれど、その理由がわからない。
私が復讐を成し遂げれば、自分はおろか、息子たちまでその立場を失う。
全面的に信頼することはできない。
幸い、私は自分の計画の一切を王妃様に話さずに済んだ。
仮に自分を裏切ったとしてもすぐに対応ができるよう、ピアール家にいるリリーフに王家の動きも見張らせておこう。
「もし王妃様に断られていたらどうするおつもりでした?」
「その場合、アンディークを再建するという段階を飛ばしていますが、南の都・ビスカスを味方につける算段でした」
「兄様の都を?」
「ええ、デミアン様の兄、ロバート・グレー様の弱みを握っています」
「兄様の弱みですと?!」
「怖いですか?
デミアン様の、実の兄の弱みです」
「そんなことはないです…
私を1番殴った人は兄様です、恨みしかないですよ」
デミアン様は、嬉しいような悲しいような表情を浮かべながらも、前を向かって歩こうとする意志だけはぶれていないように見えた。
庭を1周したところで、デミアン様は歩みを止めた。
空を眺め、そっと私の手を握った。
夕焼けの灯火に彩られた空に、数本の流れ星が駆け抜けたような気がする。
「ローズ様、私と婚約してくれませんか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます