3章

第14話


お母様がアンディークに来た日から1週間ほどの時間が経った。


アンディーク唯一の庭園、シエル庭園に私はいつものように1人で来ている。


「貴方たちは、私と違ってすくすくと成長していきますね」


1ヶ月ほど前アンディークに来てから、

少ししてシエル庭園の管理を始めた。


行ける日は、必ず庭園に行って植物への水やりをするようにしている。


昔からの息抜きだった水やりを、

ここアンディークでもやりたいとデミアン様に

お願いすると、二つ返事で許可を得ることができた。


私的な企みが全く含まれていないわけではないが、純粋に水やりをしたい気持ちがあった。


生き地獄だったアンディークの日々の中で、

私が生きることのできる時間は水やりの時間くらいだった。


「はぁ…」


私だけの世界で水やりをしていると、

ため息とともに自然と心も落ち着く。


水やりを終えた後、復讐の計画を練り直すのも習慣となってきた。


庭園管理の特に好きなところは、植物たちの成長を間近で見ることができることだ。


少しづつでも、止まることなく成長していく。

そして、いつの日か大きくなって人を魅力するような花になる。


いちばん大切なことを、花から教わっている気がする。


存在もしない我が子を愛でるように、

目の前のスイレン、黒ユリ、四葉のクローバーを

愛でた。


愛の対象を人に設定することだけは、私の本能が

拒絶する。


今日は、昼だが、

夜に見る、月に照らされた花は格別に綺麗だ。


~~


庭園を離れた私は、マジック酒場・ヴァンへと

向かった。


「お待ちしていました、ローズ様」


「調査の結果はわかりましたか?」


「はい、裏切り者かは特定できました。

おそらく、確実です」


お母様がアンディークに来訪した日、

お母様が帰ってから、私はすぐにパウロの所へ向かった。


詳細を伝え、裏切り者が誰か調べてもらっていた。


パウロ、

依頼には、短期間で必ず答える優秀な駒。


「ただ、その…」


裏切り者の正体が私の身近にいる人間ということもあり、パウロは言いずらそうだった。


「パウロ様、大丈夫です。

覚悟はできています」


「メイドのリリーフで間違いないかと」


「そう、リリーフが…」


婚約者、血の繋がった者から裏切られたことはあっても、身近にいる人間からの裏切りは初めてだった。


気持ちの整理はついている。

当然ショックを受けることはないが、やはり人は信用できない…


「リリーフとオドールが何度か密会している様子を発見致しました」


オドール、やはり関わっていたか…


「おそらくオドールは、リリーフから情報を買い取り、さらに高値でピアール家に売ることでお金儲けをしていたのかと…」


「そうですか…」


「大変失礼ながら、このことをサレットにも報告させていただきました」


「サレットは何と?」


「せがれのガレットに、計画を早めさせる、

そのようなことを言っておりました」


「そうですか…」


「リリーフはどうするおつもりで、

サレットの方に殺るよう伝えておきますか?」


「いえ、リリーフは侯爵邸に送り返します」


私の傍にいたのだ、帰って来たとなれば当然お母様の目の敵となるだろう。


因果応報、

しばらく侯爵家の動向を監視させることが、

リリーフへの制裁だ。


こんなことをする私は、怪物か…


だが、

悪魔を駆逐できるのは、それを超える怪物だけだ。


私は怪物にでもなる。


「わかりました、細かい手続きは私どもが処理しておきます」


「よろしくお願いします」


オドールが亡くなったことを聞いたのは、

その次の日のことだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る