第13話


「お母様は、今どこに?」


「デミアン邸の応接室です。

デミアン様自ら、侯爵夫人の対応をさなっています」


「そうですか…」


デミアン様がお母様を応接室から奥に進まさなければ、私と会うことないはないだろう。


敷地の構造上、デミアン邸と旧王宮は同じ敷地の中にあり、

デミアン邸を通らなければ、旧王宮にたどり着くことはできないようになっている。


デミアン様が対応しているなら、お母様も多少は大人しくなるだろう。


公爵家の子息に粗相を働いたとなれば、

大問題になりかねない。


「デミアン様からの伝言で、

『ローズ様は自室で休んでいてください』とのことです」


デミアン様の言う通り、ここから動かないことが

最善な選択なのかもしれない。


でも、これでいいのだろうか?


私はお母様を恐れている。


今も、急な体の震えと、フラッシュバックする過去のトラウマに襲われている。


この恐怖に打ち勝ちたい、私にそう思わせるのもまた、恐怖。


このような機会に、自ら動かなければ、

いつになっても恐怖を克服することはできない。


時に怒り、時に恐怖、

私はいつも何かしらの感情に支配されているような気がする。


私は自室を離れ、デミアン邸に向かった。


……


応接室が近づき、鼓動が早くなっていくのを感じる。


鼓動に呼応するようにように、歩くスピードも早くなっていく。


この感じ…

1度止まってしまったら、もう進むことはできないだろう。


目の前の光景が灰色と化していく。


~~~


「ローズ様…、ローズ様!」


気がつくと、応接室前で待機していた騎士に腕を掴まれていた。


何も見えていなかった…

何も聞こえていなかった…


恐怖に打ち勝つことなどできなかった。


「デミアン様からの命令で、

ローズ様をこれ以上進めませるわけにはいきません」


デミアン様は、私がここに来ることまで計算されていたのか…


「止めて頂き、ありがとうございます」


私は、安心している。


止められていなかったら、どうなっていたことか…想像するだけでも恐ろしい。


応接室に入ることは諦め、近くで見守ることとした。


「ローズと仲良くされていると聞いております」


応接室の方から聞こえてきたこの声、

お母様だ。


「ローズ様には、私からお声かけをさせていますが、その情報を一体どこで仕入れたのですか?」


お母様に対するデミアン様の口調は、どこか怒りを含んでいるように感じた。


「お互いの立場を考え、できる限り内密にしていたつもりなのですが…」


「そ、それは…

あの子は、ローズは最近かなり活発に行動しているそうですね、何かを企んでいるかのように」


話を逸らすのが難しいと判断したのか、お母様は

無理やり話を続けた。


「それは、私が行動した方がいいとアドバイスしたのです」


デミアン様は淡々と答える。


「アンディークには素敵な場所が多いですから、

ローズ様には私のおすすめの場所を紹介しています」


「そうだったのですね…

ところで、ローズに会わせてはくれませんか?」


お母様の口調は、歯がゆさを隠しきれない。


「あの子も年頃の女の子です、この先の事など2人で話し合いたいのですが…」


「ローズ様は体調があまり宜しくないようです」


「なら尚更、私が会って看病しないと…」


「ローズ様から、面会は断って欲しいと頼まれています」


「私はあの子の母親ですよ?」


「それはローズ様の意思を覆す理由にはなりません、ローズ様には自らの権利があります」


「自らの権利?

そんなこと言ってるから統括権を奪われるのですよ、デミアン卿」


権利という言葉が、お母様の地雷を踏んでしまったようだ。


お母様は、やはりお母様だった。


「結局、

令嬢、そして子息は産んだ親に忠誠を誓い続けなければならないのです、所有物であることは当然でしょう」


ここで、周りの騎士を振り切ってまで応接室に入るような気力は、私には残っていなかった。


「お引取りを…」


感情を込めたデミアン様の一言に、

お母様もそれ以上言葉が出なくなった。


お母様はそのまま帰って行った。


~~


私は何度もデミアン様に謝罪をした。


何度謝っても、デミアン様はその都度優しい言葉をかけてくださった。


お母様の言動は、怒りを通り越して、

ただただ情けなく、恥ずかしかった。


お母様の白色の髪が、

私に遺伝しなくてよかったと心の底から思った。


あの髪に憧れた日々がバカバカしく思える。


お父様が、私の追放場所にわざわざアンディークを選んだ理由の1つが、パドリセンからの距離にある。


東西南北にある都の中で、

パドリセンからの1番距離が近く、移動時間が短い都、それがアンディークなのだ。


常に監視し、何か問題があれば、

今回のようにお母様を送って会いに来る。


全てお父様の策略だろう。


お母様への報復は後にして、まずは裏切り者への

制裁が先だ。


お母様が私の行動を把握していた。

誰かが情報を流したとしか考えられない。


私は変装をし、再びアンディーク市街地に向かった。

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