第7-1話
デミアン卿には申し訳ないが、
ソフィーや、周りの人たちに動いてもらい、色々と調べさせてもらった。
調べてくれた人たちには、
裏切ることのないよう、対価として、浮いた宿場代を全てインセンティブとして渡した。
月の公務日程、私生活の動きから、
私のことについて使用人たちに嗅ぎ回っていることまで、多くの情報を集めることができた。
仮にバレたとしても、悪い方向には進むことは考えられなかった。
あの日、デミアン卿の瞳から感じた、
誰にも負けない私への関心・思惑。
私に近づきたいという意思の現れのように感じた。
私からの関心は、むしろ歓迎されてもおかしくない。服屋に誘ったときの、デミアン卿の答えが全てを物語っている。
瞳から感じられる意思は、
あの日よりも、強くなっていた。
「では、お店の前でお会いしましょう」
移動は別々の馬車で行われた。
馬車の方が先に到着していたこともあり、デミアン卿は先に出発した。
「ローズ様、私たちも出発しましょう」
私たちの馬車も次いで到着した。
「これはこれはローズ様ではないですか~」
馬車に乗り込もうと足をかけたとき、後ろから誰かが私を呼び止めた。
振り返ると、
タキシードに身を包み、髪をオールバックでまとめた男が、いかつい男たちを周りに連れ近づいてきた。
「初めましてローズ様、
私、アンディークを統括しています、オドールと申します」
この男が、オドール。
この土地の統括者。
本来なら統治・統括の権利はデミアン卿に与えられるはずだが、デミアン卿に統括の才がないという理由で、5都の中で唯一、統括者が雇われている。
オドールは顎下に垂れた髭を軽くつまむ。
「お初にお目にかかります、
ピアール侯爵家令嬢のピピアール・ローズです」
「ローズ様は療養中と聞いていますが、デミアン卿とお出かけですか?」
「えぇ、服屋に一緒に行くことになっています」
「どういった魂胆をお持ちで?」
「特に意味などございません。
一緒に行ってはならないという決まりでもあるのですか?」
「いいえ、そんなことはございませんが…」
オドールは周りの男たち同様、私を睨みつけた。
そんなにわかりやすく敵意を向けたら、
怪しんでくださいといっているようなものだ。
警戒せねば。
「今日のところは失礼します」
足早に、オドールたち一行は去っていた。
……
ふと、思う。
服屋に行くのは、いつぶりだろうか。
私に与えられるドレスや宝飾品は、お母様か
ミカエラが使い古したものに限られていた。
慣れてしまえば、
綺麗なドレスや輝かしい宝飾品を身にまといたいとも思わなくなる。
「まさか、デミアン卿本人からお誘いが来るなんて…それに一緒に行くことが決まってからのデミアン卿は気分がよさそうでした」
誘いが来ることを知っていたのは私だけ、ソフィーが驚くのも無理はない。
先ほどのデミアン卿の表情。
嬉しそうな気持ちが、表情にわかりやすく出ていた。
優しさ・人間味をあれだけ持ち合わせた貴族は、
そう多くはいない。
だから、心配にもなる。
私のように悪い考えをもつものに利用されてしまう日が来るのではないかと。
「ローズ様、
到着しました」
扉を開き、私が降りやすいようソフィーが手を差し出そうとしたときだった。
「ローズ様、どうぞ」
デミアン卿が自らの手を私に差し出した。
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