第6話

アンディークを訪れてから、一月が経った。


想定外のことが起き、私は旧王宮に住むことになった。


デミアン様もわかっていたようだが、

私に選択肢などなかった。


侯爵家内のルールに背くことと違って、

王妃様の善意に背くなど許されない。


王妃様…

ラビラの婚約相手だった頃、何回か会ったことがある。


王家のものらしからぬ、優しい雰囲気をまとった方だった。


どういった意図なのかはわからないが、

私にとっては好都合だった。


デミアン様に近づく手間が省けた。


~~


「お嬢様、久しぶりの長時間の外出ですね」


いつも私の髪型を整えてくれているメイドのリリーフが、嬉しそうに髪を束ねていく。


「えぇ、

今日はいい天気ですね」


「蔵書室に籠りっきりだったので、

みな心配していました」


「迷惑をかけましたね、ごめんなさい」


この1ヶ月の間、食事、御手洗、庭園の水やり、

睡眠以外の全ての時間を、蔵書室に1人籠って過ごした。


復讐について考え込む時間・戦略を練る時間が必要だった。


文献保存のため、

蔵書室の中は暗く、寒いくらいに涼しさが保たれていた。


長くいることがはばかられるような場所なため、

私のことを見に来る人はいても、すぐにいなくなる。


1週間ほどした頃から、人の出入りは少なくなり

時間を有意義に使うことができた。


蔵書室、そこには自分が求めているようなものが全てそろっていた。


私にとっての復讐、私が納得する復讐。


考えに考え続け、計画を立てた。


私にとっての復讐とは、

私を苦しめた人に本当の絶望を与える。


そして私以上に苦しみ続けてもらうことだ。


国王、王子、お父様、お母様、ミカエラ、


妥協なんてしない。

1人残らず、徹底して潰す。


少しずつでいい

1つずつ小さな成功を積み重ねて、頂上までのし上がる。


そのためにも、全てを復讐に費やす。


私が自分の強みを使いこなせば、やり切れる自信がある。


一月の間、

自分自身と向き合って、自分の強みに気づくことができた。


突出した容姿とスタイルを持つ妹のミカエラのような、目に見て取れる、わかりやすい強みは私にはない。


私だけの強み、それは突出した頭脳。


先を読む力、戦略を練る力、自分の意図を一切読ませずに行動する力、昔から誰よりも突出していた。


過去を振り返ってみると、

チェスなどの戦略的ゲームで負けた記憶がほとんどない。


幼い頃から、大人やそれを生業としている人と勝負をしていたが、完璧に打ち負かしていた。


相手が私の術中にハマったのが見えたら、

後は気付かぬうちに私の手のひらの上で動いてもらう。


気づいたときには既に時遅い、

どんな切迫した状況でも作り出すことができた。


唯一の負けは、

イカサマをしてきたお父様とお母様に負けたことだけだ。


イカサマで作り上げた状況を打破する手立ては見えていたが、2人の体裁のためにわざと負けた。


この力は私の復讐を遂行するには、絶対に力になってくれる力だと信じている。


褒められたことがなかったから、突出していることにも気づけなかった、

そう解釈したいが、そもそも頭を使わず、従順に言われたことに従っていただけの私が気づけるはずもない…


自分自身と向き合っていると、

私は本当に何も考えずに生きてきたのだと実感する。


情けない自分から卒業しなければならない。


実際に人を動かしたことをないから、最初のうちは上手くいかないことが出てくるかもしれない。


それでも、優秀なコマを利用し続ければ、必ずやりきれる…


利用する駒の目星も、もう付けている。


これからは、自分だけを信じて行動し続ける。


今日からが、本番だ。


……


「ソフィー、お昼のお弁当のことなんですが、

人数分より少し多めに用意してもらっても?」


「かしこまりました」


理由を聞かれるかと思ったが、ソフィーは何も言わなかった。


私に着いていく、そのような意志を感じた。


復讐を遂行するために、初めにやらなければならないこと、それは行動のベースキャンプとなる地盤の部分を固めることだ。


地盤の緩みは1番の地雷になりかねない、

より慎重になり強固な地盤を形成する。


そのためにもデミアン卿と婚約し、

この落ちぶれたアンディークを再建し、

ベースキャンプを完成させる。


「ローズ様、

完成致しました、とてもお綺麗です」


「ありがとうございます」


デミアン様に会うため、旧王宮を離れる。


部屋を出る前に、1度鏡の前に立つ。


鏡に映る私、

一月前の私と違っているだろうか…


違うことをこれから証明する。


~~


デミアン邸に入り、

使用人に挨拶をしたい旨を申すと、快く部屋に通してもらえた 。


「体調はいかがですか?」


1ヶ月ぶりにデミアン卿に会ったが、

初めて会った日に感じたあの感覚は間違っていなかった。


貴族には見てないほど、デミアン卿は落ち着いている。


「旧王宮に、使用人の方たちの手厚いお手助けのおかげで、だいぶ回復致しました」


休養という名分がある以上、

1ヶ月の間外出をしなくても、なんら不審に思われることはない。


「今日は服屋に行くと聞いていますが」


「はい、

お恥ずかしながら、どのドレスも縫い目がほつれてしまっていて…」


大丈夫、私ならできる。


「新しいものを新調しようと思っています」


「そうですか…

実は私も服屋に行く予定がありました…」


知っています…


「その…ローズ様、

よろしければ同行させてはいただけないでしょうか?」


そう仰ることもわかっていました…


「是非!

同行してくださるなんて、光栄です」


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る