第7-2話

こういうことには慣れてない…


体が急に固まってしまい、思うように体を動かせない。


即座に、体の一部を全力でつねって感情を痛みに置き換える。


デミアン卿には見えないようにつねり続け、なんとか平常心を保つ。


「ありがとうございます」


そっと手を重ねると、

デミアン卿の大きな手が私の手を優しく包み込んだ。


そのまま降り終わるまで、デミアン卿は丁寧に

エスコートしてくれた。


完全に油断していた、こういった部分にも気を引き締めなければ…


店に入る直前、揺さぶるとい意味を込めて

デミアン卿にさりげなく問いかけた。

 

「本当に大丈夫ですか…

このことが公になったりしたら」


「それについては、心配ご無用です」


デミアン卿は淡々と答えた。


「私が店主に話しておきますし、

それにここは王都・パドリセンではなくアンディークです」


「民は貴族の動向に関心すら持たないです」


「そうですか…」


アンディークの民は、ギリギリで生きる人たち…

自分が生きていくことだけで精一杯で、関心なんて持てる余裕はない。


「いらっしゃいませ~

あら、デミアン様」


私たちを出迎えたのは、若いとはいいがたい、中年の女性だった。

おっとりとした目と、少しふくよかな体が優しそうな印象を与える。


「ローズ様は、

先にご覧になっていてください」


「マリー、少しいいか…」


デミアン卿は店員のマリーと奥へ入っていった。



店内には、数多くのドレスと宝飾品が取り揃えられていた。


似たようなドレスでも、

微妙に色が違ったり、使っている素材が異なるだけで、金額が大きく変わる。


選択肢が多すぎて、どれを選べばいいのか…

色から選ぶにしても、自分に何色が似合うかもわからないし、自分が好きな色もよくわからない。


よくよく自分を見てみれば、自分自身に欠陥が多いことが露呈する。


「ローズ様、

お好きなものを何着でもお選びください」


またその表情。

どうしてこんなにも優しい表情を作れるのか。


「マリーさん、

よろしければ、私に似合うようなものをいくつか選んでいただけませんか?」


「いいのですか?」


「はい、自分ではよくわからないのでお願いしたいです」


「任せてください」

 

待っていました、とでもいう勢いで動き始めた

マリーは、次々にドレスと宝飾品を私に合わせていった。


~~


「お美しい…」「お美しい…」 「お美しい…」

 

慣れない言葉の嵐だった。


「ローズ様は、淡い色の方がお似合いになりますね~、白や、水色、薄い黄色など華やかでとてもお似合いです」


わからない分野は、その道のプロに任せよう。


「では、その色のドレスで仕立ててもらってもよろしいですか?」


「お任せてください。

デミアン様、やけに満足気な表情ですね」


「な、何を言っているマリー!

とうとう目に異常が生じ始めたようだな」

 

デミアン卿は、1度軽く咳払いをする。

 

「ローズ様、申し訳ない、

マリーは、ときとぎおかしなことを言うときがあるんです」


「そ、そうなんですね。

それより、お金を負担していただき、ありがとうございます」


全て計画通りだ。

次の段階に進むためにも、そろそろ言い出さなければ。


「ところで、デミアン様はこの後のご予定はいかがされますか?」


「この後ですか?

公務はございませんし、稽古も済ませているので、特に予定は入っていませんが、、」


「これから公園で昼食をとるのですが…

よかったらご一緒にいかがですか?」

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