2.真夜中の親子
こういう話を書いていると思い出すのが、小さい頃に見た夢である。確かまだ幼稚園児だった頃のことで気のせいだろと言われればその通りなのだが、まぁ聞いて欲しい。
夢には二通りの意味があるが、今回は夜寝ている時に見る方の夢である。
書き忘れていたが、私は五人兄弟の上から二番目、長女にあたる。上から二番目ということは一番目がいるということであり、それは兄になる。この兄、妹の立場から見てもはっきりとわかるぐらいに顔立ちが母そっくりなのである。ひとまずその前情報だけ頭の隅に入れておいて欲しい。
その日、幼い私は父と一緒に、階段を上ってすぐの二階の和室で寝ていた。夏だったので風通しを良くするために窓と襖を開けたままにし、布団に寝転ぶと襖の外に階段が見える状態だった。
夜中に、目が覚めた。
隣には父がいびきをかいて寝ていて、暗いけれどいつも通りの光景だったと記憶している。
しかし、階段のほうへと寝返りをうった時に、そこに誰かがいることに気が付いた。
階段の前に、大人の女性と、当時の自分と同じぐらいの男子。男子の後ろに女性が立っていて、男子の肩に両手を置いた状態で立っていた。
そして有り得ないのが、この二人、夜中だというのに輪郭がはっきりと見えたのだ。ぼんやりと発光していたのか、暗い階段を背景に、やけにくっきり見える親子らしき二人がこちらを見つめているのである。
が、不思議なことに当時の私は、彼女彼らを「怖い」と思わなかった。なんでそんなところに立っているんだろうと思いながら、じぃ、と二人を見つめ返していた記憶がある。
というのも、この二人。なんだか優しい笑顔でにこにこと私を見つめていたのである。おどろおどろした笑みでは決してなく、本当に、ただただ優しげな、にこにことした笑顔だったのである。今にして思い返してみれば、あれは幼い子供に向ける慈愛を込めた笑顔だったのではないか、とも思う。
まぁそんな感じでにこにこ笑顔の親子を眺めつつ寝落ちして翌朝、父に起こされてそのまま普通に過ごしていたような気がする。夢ではあったのだろうが、あれから数十年経った今でも詳細に思い出せる夢であるという点では、少し薄気味悪い夢だ。
ところで、なぜ私がこの夢を未だに明確に覚えているのか、理由がある。それは男子の顔立ちだ。冒頭で兄の話を軽くしたが、そう、夢に出ていた男子の顔が、まんま兄だったのである。
ただし女性の方はというと、どうにも誰かわからない。強いて言えば母方の伯母に似ていたかな? という程度。よって、知らない女性といたあの男子が兄であるわけはないし、というか、あの愚兄(敢えて言う、愚兄と)が私に向かってあんなにこにこ笑顔をするか? という疑問が後を絶たないので、うん、やっぱり兄ではなかったのだろうな。
あの二人が誰だったのか、今でもわからない。けれど男子の顔立ちを思い出しては、もしかしたら母方の遠いご先祖様だったのかな、なんて思ったりする。
夢の中では隣で父が寝ている認識があったから、二人して子孫の伴侶とその子供を見に来ていたのかなぁ、なんて妄想をする私なのであった。
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