第5話 僕の名は

「おはようございます。」


 この日、一平はグッドスマイルでの初日を迎える。それは

リサイクルショップの店員であり、オタグッズの販売員としての始まりでもあった。


「Good morning 一平♪ 今日は早めの出勤ありがとネ。」


ハピは挨拶を返し「制服にあってるじゃん♪」と一平をおだててくる。


 普段のアルバイトの店員は早番での出勤が9時30となっており、今回は初日という

事もあり一平は9時に出勤していた。


「タイムカードはここでー、一平のロッカーはここ!」


と、ハピの新人への軽いレクチャーが始まった。そして―――



「最後に重要な決め事がアリマス!!」


と力強く一平を指さし、


「一平チャンのぉ⤴ ニックネームを決めマース!!」


と高らかな宣言が行われた。



「では、ニックネームは一平でお願いします。」


一平は淡々とした口調で答える。



「つまんない…つまんないヨー 一平チャン!ニックネーム大事!

 店員同士だけじゃなく、お客様とのCommunicationにも関わってくるのヨ~!」


真っ当な反論に一平は仕方なくニックネームを考える事にした。


 学生時代は〝一平ちゃん〟や〝黒ちゃん〟と呼ばれていたと話すが、ハピは難しい顔で唸るだけであった。


「他にニックネームと呼べるものは……」


考え込む一平に一つの記憶が蘇り「あっ…」と声が漏れ出てしまう。


 それは20代前半に一平が結婚式場でバイトを始めたばかりの頃の話になる。

働き始めた一平は、一日の練習期間を終えて式場でのウエイターデビューを果たす。

そして、式の最中に新郎の父親にドリンクをぶっ掛けるミスを犯してしまう。


そのドリンクが黒生ビール―――


 以降、同僚から〝黒ナマ〟と呼ばれる事となった。



一平のこの話に「それだ!!!」と勢いよく人差し指を差し向けるハピ。


この瞬間、黒崎 一平のニックネームは〝黒ナマ〟に決定した。


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