第17話 Radio Control 1

 渡り廊下に出ると、格技場の横にある小さな空き駐車場に、組み立て式のレースサーキットが設置されていた。近寄ってみると、そのコース内を二台のレースカーが猛スピードで疾走している。コースの傍らにはラジコン部と思しき中等部の少年二人と、どう見てもラジコン部には見えない高等部の女の子。彼女と少年の片方がコントローラーを持っている。どうやらこの二人が競争しているらしい。


「あっ、西条の兄貴っ」


 僕たちの気配に気が付いたのか、コントローラーを持っていない方の少年はこちらに振り返ると、高揚感を抑えきれない様子で廉太郎の元へと駆け寄ってきた。


「よう。——あいつは今、あの姉ちゃんと勝負中か?」


「そうだよっ、見て。さっき始めたばかりなのに、もう白熱モード」


 うぉぉぉぉッといううなり声を上げながら、今にもコントローラーを破壊してしまいそうな危なっかしさで、勝負中の少年がラジコンを操作している。


「ほんまや。随分と気合入っとんな」


 …………


 少年とは対照的に、女の子の方は口に四角いサンドウィッチ系の総菜パンをくわえながら、清涼顔せいりょうがおで黙々と操作していた。ごつごつと重たそうな操縦器が、何だか彼女の華奢きゃしゃな手には似合わない。だけどその細い指先は素人の僕でも分かるくらいに、無駄のない動きでスティックを倒し続けていた。


 レースが佳境かきょうに入ると、やがて一方がもう一方を大きく引き離し、——ドリフトを駆使した豪快なドライビングが勝利を収める。無駄のない丁寧なドライビングは無念にも敗北を喫してしまった。


 ゴールを決めた白熱男子は燃え尽きたのか、呆然と立ち尽くして操作をやめると、しばらくして我に返り、雄叫おたけびをあげた。


「ちくしょうッ。負けたぁぁぁぁ」


 白熱くんがコントローラーを手に地面へとへたり込む。どうやら丁寧な走行をしていたのは彼の方だったらしい。てっきり、僕は彼の方が勝利を収めた豪快なレーサーだと思っていた。


 そんな中、先にゴールを決めた少女のレースカーはコツを掴んだとばかりに、依然としてサーキット内を爆走している。心なしか、さっきよりも速度が上がっているような気がした。そしてまた豪快なゴールを決めると、どうやら満足したらしく、彼女のレースカーは徐々にその速度を落とした。

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