第16話 Taste of Water

 僕は購買部の出入口近くに置かれたゴミ箱へ、食べ終えた鶏そぼろ弁当の空容器が入った袋を放り込む。その間に廉太郎が購買部の通用口から外へ出ていくので、何があるのか分からないまま、僕もそれに付いていく。外に出たそこに設置されていたのは、三台の自動販売機だった。


 廉太郎は財布から摘まみ出した小銭を自販機に投入し、富士山のラベルが特徴的な天然水を購入した。彼が屈んでペットボトルを取り出す傍らで、僕もポケットから財布を取り出す。


「朔久もなんか買うんか?」


「うん」


 コインを投入し、コーラを選んでボタンを押した。ごとんっと小さなペットボトルが転がり出てくる。僕が容器を取り出してふたを回すと、プシュッという摩擦音が軽やかに響いた。


 ぐいっとコーラを飲みながら、廉太郎が足を組んで座っているベンチへと歩み寄る。


「コーラか、美味いよな。砂糖いっぱい入っとるから当然や」


「……」


 残酷な事実を突きつけてくる彼を、細目で静かに睨みつける。


「すまんすまん、冗談や。そんな機嫌悪そうな顔せんといてや」


 僕は誤魔化すように謝ってくる廉太郎の隣に座りながら、如何にもわざとらしく溜息をついてやった。そんな僕の態度に彼は苦笑いを浮かべると、彼はどういう訳なのか「ところで」と前おいて、突拍子もない話を切り出してきた。


「朔久はそのコーラに含まれてる水の味が分かるか」


「どういう質問だよ。——分からん。廉太郎には分かるのか」


「いや、俺にも分からん」


 彼の意図がさっぱり分からない。てっきりこのコーラの水は四万十しまんとだ、六甲ろっこうだとか言ってくるのかと思ったけど、全然そんなことはないらしい。


「分からないのかよ。じゃあ何で聞いてきたんだ」


「大した理由なんかないで。ふと、思い浮かんだだけや」


 変な奴だなぁと思いながらコーラを喉へ流し込む。すると、不意にどこからかウィィィィンッというモーターらしき音が聞こえてきた。そしてそれは次第に大きくなってくる。


「これは何だ?」


「ラジコン部やな。中坊らが格技場の横で自主練しとるんや」


「ラジコン部? なんか珍しいな」


「そやろ。この学校は部活動に関しては驚くほど緩いからな。街の外じゃ聞かんような部活は結構あるで。中には部活名と活動内容が一致してへんやつもある」

 流石にそれは緩すぎやしないか。そう思う僕をよそに、廉太郎は首を捻った。


「しっかし、今日は一段と激しいな。——ちょっくら行ってみるか」

 彼が立ち上がるのに従って、僕も立ち上がる。僕たちは空いたペットボトルを、自販機の横に据え付けられたゴミ箱に捨て、通用口から校舎へと入っていった。

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