第13話 White Chalk 1
周りの教室から漏れ出す先生たちの声が、誰もいない廊下に響いている。
僕はそわそわしながら、先生が引き戸に残してくれた隙間から教室を覗き込んだ。当たり前だけど、そこにあるのは僕の知らない顔ばかり。
「——起立、礼」
教壇に立つ先生を前に、学級委員長らしき女の子の号令で生徒たちが挨拶をしている。その様子を眺めていると、不意にその委員長らしき最前列の彼女は僕の存在に気が付いて、着席するとこちらに手を振ってきた。僕が会釈をすると、彼女は嬉しそうにまた手を振ってくる。
何だか気恥ずかしい。誰とも分からない初対面の人間を相手に、こうも明るく手を振ることができるものだろうか。少なくとも僕には出来そうもない。なんて考えている内に、僕は先生に呼ばれた。僕は恐る恐る目の前の引き戸を開いて、中に入る。
「今日からクラスの仲間になる桐山だ。みんな、仲良くしてやってくれ。——よし桐山、自己紹介を頼む」
先生にチョークを渡されたので、僕は黒板に自分の名前を書いて見せた。
「
そう言ってお辞儀をすると、クラスメイトたちは僕に拍手をしてくれた。無難な自己紹介をしておいて何だけど、社交辞令のような拍手はあまり良い心地がしない。だけどそれを掻き消すように、その中にいた男子の一人がいきなり手を挙げながら立ち上がった。
「——ちょっと待ったッ」
「どうした、
先生に下の名前で呼ばれているあたり、彼はこのクラスのおちゃらけたムードメーカーなのだろう。彼はクラスの注目を集めながら、僕に向かって関西弁混じりに物申してくる。
「おいおい、いくら何でもそれは短すぎや。そんな自己紹介やと朔久の『さ』の字も分からへんで。——そうや、先生。今から転校生への質問タイム、始めてもいいですか」
彼が先生に提案すると、クラス全体が少し賑やかな雰囲気になった。
「ああ、構わんぞ。伝えることなんて、他には特にないからな。時間の許す限り、存分に質問してくれ。——桐山もそれでいいか」
質問タイムか……こういった場の質問だと、だんだん恥ずかしくて答えにくい質問が飛んでくるものなんだよな。まあ、そういうのが来たらパスすればいいだけだし、自分で付け足していくよりかは、みんなが知りたいことを答えられるからいいかもしれない。
「そうですね、その方が助かります」
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