第3話 Symbolic 3

 ——私たちが認識するこの世界はみんな『虚構』。一善メシアもユーちゃんも、その中身であるリアルの私でさえ、『架空』の存在。あなたも、あなたの愛する人たちもみんなそう。


 この世に事実は確かに存在するよ。ノンフィクションも確かに存在する。それを私は断言しているんだ。だから私の発した『虚構』という言葉が、辞書的な意味じゃないことは察してくれるよね。厳密には『シンボリック』と言いたいところなんだけど、まあいいや。


 要するに、事実もノンフィクションも、人間にとってはみんな『虚構』だってこと。私たちは現実に直接触れることができないの。いや、まれにはあるのかな。まあ、どちらにせよ。触れたら、ただでは済まないよね。精神的外傷やら、恋の病やら。普通じゃいられない。


 人間っていうのはつまり、そういう存在なんだ。


 だからこそ、偶像には計り知れないポテンシャルがある。


 実が伴わないからと言って、『宗教』を馬鹿にしちゃいけないよ。この世界は実用性によって成り立っているようで、実はそうじゃないんだ。そもそも実用性の存在自体、実のない不可視の力によって支えられている。世界は何となくの気分だとか、不意の偶然だとか。そういった意味不明な力によって、上手く成り立っているんだよ。


 極論、この世に真正なるものは一つとして存在しない。意味不明な力に『正』や『不正』なんて言葉は全く似合わないよね。存在するのは『脆弱』か『堅牢』かだけ。この世で正しいとされている命題は、あらゆる批判から『堅牢』であるがために『正しい』んだ。


 科学も宗教も、結局は哲学に収斂しゅうれんする。哲学っていうのはね。何らかの現象を理解するための、堅牢な『虚構的枠組み』を構築する学問のことなんだよ。狭義の哲学ですら、真正なる真理の探究はとっくの昔にやめてしまった。正しさを追い求めることの不毛さに、気が付いてしまったんだね。だからやっぱり、『宗教』は侮れない。


 決して勘違いして欲しくはないんだけど。私は別に、宗教の素晴らしさを説いてる訳じゃないよ。馬鹿にしちゃいけないと言ってるだけでね。だからこそ、宗教は人を救ったり、危険にさらしたりする。そういうことを伝えたいの。


 ……何を言ってるのか、よく分からない? 確かにそうかもしれないね。だって私も、すっと理解できないように敢えて、こんな言葉選びをしているんだから。でもね、本当に何かを伝えたいなら。これくらい意味不明な方が、逆に丁度よかったりするんだよ。


 夢は人を幸せにしたり、孤独にしたりする。


 だから私は、立派な偶像としてあなたの支えになりたい。


 いま心に留めておいて欲しいことは、それくらいかな。


 それじゃあ、みんな。おつめしあ。


 ——今夜あなたの見る夢が、どうか幸福なものでありますように。

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