第20話

夜露よつゆside】

私は、朝日奈あさひな夜露よつゆ

ここの病院で看護師をやっている22歳だ。

……あれ?

みんな、私の名前聞くの初めて?

まぁ、そうだよね。

だって、この病院の患者さんは1を除いてみんな知らないもん。

こんなに近くにいるのにね。

私は、自分の名前が嫌い。

夜露よつゆ」。

なんで親がこんな名前をつけたのか、全然分からない。

夜っていうと、暗くて、怖い。

露が出るのも夜。

なんで、こんな暗い名前をつけたんだろう。

だから、私は名前を明かさない。


私は、最近、1人の患者さんを可愛がっている。

夜船よふね朝姫あさひちゃんだ。

なんだか、この子の名前を見た時、自分と似てるなぁって感じたんだよ。

高一と、結構歳も近い。

だからか、私が笑顔で話しかけに行ったら懐いてくれた。

それで、私は朝姫あさひちゃんと仲がいい。

朝姫あさひちゃんは「宝石病」って病気。

世界一美しい病って呼ばれてる。

世界って、本当に身勝手だよね。

それによって、朝姫あさひちゃんの――

いや、それだけじゃない。

世界の何個もの命が失われてるんだから。

私は、朝姫あさひちゃんが一日でも多く笑顔でいることを、望む。


私はさっき、朝姫あさひちゃんをそらの病室へ案内した。

いや、私は朝姫あさひちゃんに幸せになって欲しいだけだから!

もちろん、そらにも、だけど。


「ガチャ。」


部屋のドアが開いた。

朝姫あさひちゃんは、どうなったかな?

満面の笑みで後ろを振り向いた。

その時の彼女の顔は、予期しないものだった。

――だって、真っ青で。

幽霊じゃないかって思っちゃうぐらい生気がなくて。

自分が、そらのところに連れて行っちゃったからこうなったんだって、瞬間的にわかった。

でも、明らかに傷ついている朝姫あさひちゃんに、そんなこと言えない。

多分、もっと傷ついちゃう。

だから、


朝姫あさひちゃん。顔が真っ青だよ。どうしたの?」


こんな、ありきたりなセリフしか言えなかった。

――ごめんね、こんなことしか言えなくて。

ごめんね、あんなことしちゃって。

本当に、ごめん。

その時だった。


「バタッ」


朝姫あさひちゃんが、ベッドに倒れ込んだ。

多分、疲れとか緊張とかが入り交じっちゃったんだね。

本当に、ごめんね。

私は、これでも看護師。

朝姫あさひちゃんを正しくベッドに寝かせて、

呼吸ルートを保てるようにする。

こんなことしか出来ない、自分が惨めだ。

彼女の上に、何かがキラリと光った。

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