第10話 チート

※下ネタ注意です


 

ジョニー、助けて、会いたいよ。


迎えにきて、ジョニー。



……私の大切な……きつねのジョニー。

なんでゼイツ准将じゅんしょうが名前を知ってるのって思って。牢屋で泣いてるの聞かれちゃったんですね。


話したくない。でもゼイツ准将に勝てる気もしない。また負けて、黙り込んで情けをかけてもらうのも忍びない。

だから私、アレをやるしかなくなった。


配られたカードは2と3だった。


「ください」


准将じゅんしょうがカードを私の方へ滑らせる。それはハートの4、めくらなくてもわかってる。同じように次をもらい、今トランプの一番上に見えるのはダイヤの7。

今私はカードの数字を透かし視している。牢で壁越しに、初めてゼイツ准将の姿を見た時みたいに。


「止めるか?」


合計が19になって、ゼイツ准将がきいてきた。私は次の一枚を透視した。それはクローバーのAエースだった。


「ください」

「引くのか?」


ゼイツ准将が私にたしかめる。19でまたカードなんて引いたら、21をオーバーして、ブタになる確率の方が高いから。私は強くうなずいた。


めくったカードを見て、准将はにやりとした。


「次は? 勝負にでるか?」


次のカードを透視すると……スペードの6だ。これをもらったら26、ブタになっちゃう。私は首をふった。


「ストップでお願いします」

「また俺に21だせってことか」

「がんばって」


私はそっけなく言い、窓の外に気をとられたふりをした。

ゼイツ准将を、だましてしまった。胸の中がざわざわする。


「15か」


彼がぽつりと言い、私は耳を疑った。


「えっ」

「何が、え、なんだ?」

「……い、いえ」


しまった、視てなかった。ディーラー側のカードは、一枚を表向きにもう一枚を裏向きにして配る。その裏向きのカードを視ていなかった。それはハートの7だった。もう一つはクローバーの8。彼の手持ちの合計は15。次のカードは6、足して21。


……負けちゃう。


ゼイツ准将がカードを引いて、それをぽいっと床に投げた。


「ブタだ」


彼は言った。散らばったカードは、ハートの7とクローバーの8と、スペードのジャック。


「お前の勝ちだ」


疲れたように、ゼイツ准将が顔を覆ってこする。

私はきつねにつままれたような顔をしていた。


なんでジャック? 6はどこへいったの?


トランプの一番上を透視すると、クイーンが待ち構えていた。つまり6は引かれたってことだ。でもどこかへいってしまって、代わりにどこからかジャックが現れた。


どこへ……?


おでこを掻いているゼイツ准将。彼の全身に目を走らせた私は、妙なものを見つけた。

袖に、スペードの6がしまってある。なんであんなところに……あれっ? よくみたら膝の間にも挟んである。へええっ!? ああっ!? なんか肩の、襟足のところにもカードが!?


ずあっと私は身を引き、口をぱくぱくさせてカードを指さした。


「チ、チートだっ!」

「!」

ゼイツ准将が動きをとめる。


「カード隠してたんですか!? 信じらんない!」

「勝ったんだからいいだろーが」

「勝ってないですよ!? 一回戦負けたじゃないですか! 二回戦も!」

「一二回戦は実力……」

「あ、あ、ああ~っ! あの奇跡みたいな5も隠し持ってたんだ! 喜んでたの演技だったんですね!」

「バッ、だからちっげえって!」


むきになったゼイツ准将が勢いよく立ち上がる。私は眉をひそめて彼を見あげた。


「そんなシャツからぽろぽろカード落としてる人に言われても…………」


なあに、あれ。仁王立ちになった彼のおへそに、反り返った何かがくっついている。


「……。何やってるんですか?」

「なにが!」

「特大ソーセージまでベルトに挟んじゃって」

「ソー?」

「私にとられないように隠してたんですか? そんなの誰も食べないですよ、恥ずかしー」


「………………」


次の瞬間、ゼイツ准将がつっこんできた。闘牛のように。


彼は私をベッドへ放った。スプリングに弾むと、その上にぶあっととびかかってくる。ムササビのように。


「てんめええ!」

「キャーーーッ!!!」


     ♡ ♡ ♡


ボウンッ


上に乗っかられて、こんなに力をふりしぼったことはないというほど、私はもがいた。もがこうとした。動けないんだもん。胸板押してもびくともしないし、脚も脚で押さえられて、手首もつかまれて、あと動かせるのは首だけだったから、イヤイヤと振り続けたら髪の毛で顔が覆われた。口が髪を吸いこんだ。


「けほけほっ、おもったい! どいて!」

「許さねえ」

「ずるしたの自分でしょ!」

「お前だってなんかやってただろ白状しろ!」


重いだけで全然痛くないし、咳したらさらにゆるんだ。ひたいに筋の浮いたゼイツ准将の顔は真っ赤だった。


「透視っ……透視しただけ!」

「透視だぁ?」


聞いておいて興味なさそうに、ゼイツ准将が私の顔にかかった髪をよける。彼の吐息が顔に近づく。温かで、甘い。


「どうして?」


私たちは互いの双の瞳を見つめ合った。


「どうしてわざと負けたの?」

「……言いたくないんだろ」

「じゃあどうして質問したの?」

「ジョニーって奴がどういう男か聞いておきたかった」


ふふっ、可笑しい。准将はジョニーのこと、男の人だと思ってるんだ。


「なんつーか、命を助けるためにやむを得なかった。とはいえ手だしちまったわけだから、今後ひと悶着もんちゃくあるだろ」

「ひと悶着って?」

「……自分の女に触られて怒らねえ男がいるのか」


ジョニーが腕を組んでぷんぷん怒っていて、ゼイツ准将が謝っている。そんな想像が浮かび、私は笑った。涙は流れたけど、どうしてか胸は温かくなった。彼は、私の目じりからこぼれた水をさっと拭ってくれた。


「ありがとう」

「何が」

「私、これから何があってもゼイツ准将のこと信じるね」


ありがとうでは言い足りない、お礼のつもりだった。


 

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