第9話 秘密

  

 

用意しておいたような口ぶりだった。ずっと聞きたいと思っていたような。

顔が熱くなった。


「別に変な意味じゃねえ。命にかかわるから、自分でできるのか聞いておきたい」


互いに目をそらした。

そういう……意味? この人、私が一人エッチのやり方知ってるか知らないかわかんなかったんだ。

だから「今日の分」とか責任持ってたの?


うつむいていると、准将じゅんしょうが言った。


「負けられねえなぁ? 頑張れよ」


耳まで熱くなってきた。


ひざの前に配られたカードは二枚。准将にも二枚。ブラックジャックをやるみたい。カードの数を足して、21に近い方が勝つゲーム。22以上になっちゃうとブタ。私に配られたのは4と5。表向きだからゼイツ准将にも見えてる。


「くっ、ください」


震える手をのばすと、配ろうとしたゼイツ准将の手とぶつかった。


「わり」

「あ、すみません」


8がきた。9と足して17。


「止めるか?」

「う、はい……」


つい弱気になってカードを止め、次の瞬間には負けていた。ゼイツ准将がカードを集める。


うう、やっぱり負けちゃった。答えないと。はやく。


でもやっぱり……言えない……。


「下盛り上がってんなぁ。俺たちももう少し盛り上がろうぜ」

言われてみれば、エリアス様たちの声がきこえる。パニックになっていて、耳に入っていなかった。

「二回戦な。俺の質問は……」

「えっ?」

ゼイツ准将が新しくゲームを始めようとしているのをきいて、私は思わず顔をあげてしまった。あの、私まだ答えてないよ? 准将と視線が合った。

「ああ、もうわかったからいい」


ゼイツ准将がカードを切り始める。


「二回戦。俺の質問いくぞ。昼間小包が届いたよな? 中身は?」

「……あっ!」

忘れてた!

「あれは……勝手に送ってきて……」

「まずは勝負だ。フェルリナの質問は?」

「……えっと、じゃあ、ドライヴランドの人は、本当に戦場で背中を向けて戦うんですか?」

「妖精の王女がそんなことに興味あるのか。ま、いいが」


今回の質問はずいぶんと気が楽だった。むしろ負けて、話しちゃいたいくらい。

アバウト先生からの小包には、持病の薬を作る薬品の他に、違法なものが入っていた。隠してて怪しまれるより、知られちゃったほうがいいもん。


パッ、パッ。配られたカードは足して13。


「ください」


ひいたカードは7。20になっちゃった。これってほぼ勝ち確定じゃない?

あんまり喜べずに、ゼイツ准将を見る。なんかオーラでてる。たぶん勝負に負けたくないんだと思う。

ゼイツ准将の手持ちのカードは足して10。


「ヒット(カードを引くこと)するぞ」


手がめくり返したのは、6。足して16。ディーラー側だから、ちょっと不利なんだよね。彼がカードを引けるチャンスはあと一回。5がでた時だけ私に勝てる。でもそんな奇跡……


「ヒット」

「わあっ!」


私は声をあげた。5だ。スペードの5。

「すごい!」

「ウルァ!」

ゼイツ准将、吠える。うれしそうだ。

「おめでとうございます!」

「ヘヘッ、ざっとこんなもんだろ」


私は立ち上がって、洗面室へ行き、鏡のドアをあけた。肩に手を当てているゼイツ准将がちらりと映った。

木箱を持って、彼のところへ戻る。


「私が頼んだわけじゃないんです」

「うん」

まずハートが模られた瓶を二つ、手に取って見せた。一つにはストロベリー色、もう一つにはラベンダー色の液体が入っていて、とぷんとぷんと揺れた。


「この二本は惚れポーションです。ピクシーメイドの惚れ薬は、魔女のと違って、基本いたずらのために作られてるので品質は保証できません。こっちが永久版、こっちがお試し版の六時間仕様です。流しに捨てましょうか?」

「いや、とっといてくれ。何かに使えるかもしれない」

「わかりました」

何かにって何だろうと思ったけど、私は惚れポーションを箱に戻して、次に小指サイズの瓶を手のひらにのせた。真っ赤な瓶で、中に入っているのも血のような液体。

「ちょっとたちが悪いのですが、これをのむと、妊娠を偽れるんです。私が世継ぎのためにさらわれてきたから、冗談で送ってきたんだと思うのですが」


いたずらで詰めたと思っていたけど、これはこれで、私が早く帰ってこれるように心配してくれてたのかもしれない。いや、やっぱちがうかも。


「三回戦やるか?」

「あ、はい!」

次は、もっと有益な質問をしようかな。

「エリアス様が仰ってた、大きな借りって何ですか? で、お願いします」

「……ああ、いいぜ」

あ、今ちょっぴり動揺してた。えへへ、結構いい線つくでしょ。

「ゼイツ様は?」

「俺はジョニーって男のことが聞きたい」


突然でたその名前に、胸が震える。

そんな私を、ゼイツ准将がちらっと見た気がした。

 

 

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